「誰が見ても楽しくて、応援されるバスケを見せたい」JX-ENEOSサンフラワーズ・渡嘉敷来夢選手インタビュー
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193㎝の高身長を誇る日本女子バスケットボール界のエース、渡嘉敷来夢選手。現在はJX-ENEOSサンフラワーズの中心選手として活躍しています。また、日本代表として世界大会でプレーするほか、日本人で3人目の選手となったWNBA(アメリカ合衆国の女子プロバスケットボールリーグ)では、シアトル・ストームで3シーズンにわたってプレーするなど、世界からも注目を浴びています。
そんな渡嘉敷選手が高校時代に学んだことや、世界に羽ばたくまでの過程を伺いました。
この記事をまとめると
- 高校時代に監督からかけられた言葉を、今でも頭の片隅に置いている
- 何事も全力でポジティブに取り組んでほしい
- 来年度の大会は、誰が見ても「日本のバスケはすごいな、楽しいな」と思ってもらえるようにしたい
どれだけ点を取っても、チームを勝たせられなかったらエースではない
―― バスケットボールを始めた理由は?
小さい頃から体を動かすのが大好きで、小学校のときは野球と陸上をやっていました。中学で何の部活に入ろうかなあと思っていたときに、仲のいい子がバスケ部に入部し、兄も一時期バスケをしていたこともあり、興味があったのでバスケを始めました。
―― その後、強豪校の一つである桜花学園高校に入学されました。当時はどんな高校生でしたか?
めちゃめちゃ、やんちゃで負けず嫌いでしたね(笑)。それは小学校のときから変わってないです。ほかの生徒に比べてバスケ部員はみんな元気でやんちゃでした。授業中もうるさくて「バスケ部でもとくに渡嘉敷さんは……」とよく怒られていました(笑)。それでも監督の井上(眞一)先生は「渡嘉敷はやんちゃさをつぶしたらダメになる。コート上でしっかりやってくれればいい」と言ってくれました。
―― 高校時代に学んだことで、今に生きていることは何ですか?
桜花って基礎的なことを反復練習で叩きこむんですよ。中学までは運動神経を生かしてやっているところがあったので、桜花でしっかりとセンタープレーを学んだことが今につながっていますね。
あと、一番学んだのは、井上先生にずっと言われていたことなんですけど「エースとしての自覚を持つこと」「どんなにすごい選手になっても天狗になるな」ということです。
これは初戦で負けた2年の国体のときに言われたのですが、「お前が30点、40点取ってもチームを勝たせられなかったら、それはエースでもスーパースターでもない」と。名言ですよね。その言葉は、いつでも頭の片隅にあります。
どうせやるのなら「いやだなあ」と思うより、全力でポジティブにやったほうが楽しい
―― 高校時代の思い出の試合はありますか?
高校時代は左足首を疲労骨折して怪我が大変だったので、そういう意味では、高校2年のウインターカップ決勝ですね。その前の国体で負けていたので、「ウインターカップは絶対に優勝するんだ!」と燃えていた半面、でも自分は万全ではなかったのでドキドキしながらプレーしていました。決勝にピークを合わせていたのでそれまでの試合ではあまり調子が良くなかったんですけど、決勝で37点を取って優勝することができました。
自分が頑張れたのは仲間が声をかけてくれたからです。今でも忘れないのが、自分がリバウンドを取ってアウトレットパスを出したときに、前を走っていた水島さん(*1)が「リョウ(*2)、頑張れ!」って言ってくれたんです。そういう言葉で踏ん張れるし、頑張れますよね。あのシーンは今でも覚えています。
*1:現・トヨタ自動車アンテロープス所属 水島沙紀選手
*2:高校時代の渡嘉敷選手のコートネーム
―― 高校卒業後はJX-ENEOSへ。Wリーグと高校では何が違いましたか?
高校に入ったときもすごい先輩はいたけど、JX-ENEOSには大神(雄子)さん、田中(利佳)さん、諏訪(裕美)さん、吉田(亜沙美)さんたちがいて、ディフェンスの強さや経験値が違い、毎日のように日本代表の練習をしているくらいレベルが高くて、とても刺激的でしたね。新人のときはいつも「自分が攻めていいのかな?」と迷いながらプレーしていました。
とくに苦労したのが吉田さんのパスを取ること。吉田さんのパスは高校生と違って強くて速くて、味方も騙されてしまうほど。私があまりにもパスを取れないので、先輩たちがずらっと並んで、いろいろな角度からパスをしてくれて、それを取る練習をしたくらいです。
あとはフィジカルの差ですね。体を鍛えるトレーニングがすごくきつかった。それが高校時代といちばん変わったところです。
―― 部活動をしている高校生にアドバイスをお願いします。
何事にも全力で取り組んでほしいですね。それは練習や試合だけじゃなく、部活動の行事や勉強でもそうですけど、同じ1時間やるのなら「いやだなあ」と思ってやるより、全力でポジティブにやったほうが楽しいし、自分のためになると思います。
あとは目的を持って取り組むことですね。自分は、今はエースの自覚を持って勝利に貢献することが自分の仕事だと思っています。学生時代の自分を知っている人には「渡嘉敷、何言ってんの?」と笑われるかもしれないけど、勉強も前向きにやっていましたよ(笑)。
結果を出して日本の女子バスケを盛り上げたい
―― WNBAでプレーしたいと思ったのはいつ頃ですか?
JX-ENEOSに入ってから意識し始めました。高校生の頃は監督から「お前はアメリカでプレーするんだ」と言われてもピンと来なかったんですけど、2013年のアジアカップでMVPをもらったときに「WNBAでプレーしよう」と決意しました。それまでは「アメリカにいつ行くの?」と言われても「いやいや、まだです」と言っていましたね。WNBAは強い気持ちがないとプレーできる場所ではないので、周りに言われて行くより、自分で行きたいと思ったときに行くべきところだと思っていました。
―― 3シーズンプレーしてみて、WNBAはどのような舞台でしたか?
思っていた通りの場所でした。外から見ているのと肌で感じるのでは大違いで、世界にはいろいろな選手がいました。小さくてもパワーのある選手や、身長が高いのにアウトサイドもできる選手とか、本当にさまざまなタイプの選手がいました。そういう、日本にはいないタイプの選手と戦うことで「新しい自分に出会えるんじゃないか」という思いはしましたね。
―― 新しい自分には出会えましたか?
出会えましたね。日本では自分より身長の大きい選手と対戦する経験ができないので、その面では刺激的でした。WNBAに行ってから外からのシュートに積極的になり、ミドルレンジのシュートが得意になりました。
―― WNBAと日本で違いを感じたことは?
高さとフィジカルの違いですかね。映像を見ていると「なんで止められないんだろう?」と思うけど、いざプレーしてみると、ボールを持つ前の動きに差があったり、見ている以上に体の当たりが強く、ボールへの執着心がすごい。ボールを持ったときに「自分がやってやる!」という気持ちがすごく出ているんですよ。こういう一つ一つの動きに違いがあるからアメリカは強いのだと実感しました。
あと、みんなが負けず嫌いです。自分もめちゃめちゃ負けず嫌いですけど、アメリカではみんなが負けず嫌いなので、自分の負けず嫌いがあまり目立たない。「ボールが来たら自分だってやるよ!」といつも思っているけど、それ以上に味方が「ヘイヘイヘイ!」とボールよこせポーズをしてくるので、そうするとパスしちゃう時はありましたね。
―― この1年、日本代表はアジアカップで4連覇をして、2月の試合でも強豪国相手に好ゲームをしました。チームと自分自身の成長をどう感じていますか?
チームとしてすごくいい経験ができています。今の日本はオフェンスではアウトサイドが中心で、ディフェンスは高さがない分チームワークで戦っているので、自分がインサイドのディフェンスで踏ん張ればチーム力が上がると思っています。ディフェンスに力を入れている分、自分のオフェンスはまだまだ課題があるのですが、自分がインサイドを抑えればそこからオフェンスにつながりやすくなるので、ディフェンスに重点を置いています。自分もチームも、まだまだ強くなれるし、成長できます。
―― 来年の大会はどのようなものにしたいですか?
自分はとにかくメダルが欲しいです。メダルを取るのはそんなに簡単なことじゃないし、まだまだ難しいというのは分かっています。ただ、自分としてはメダルにチャレンジしたい。日本の女子バスケは他の国より高さがないのに大丈夫?と思われているかもしれません。でも、誰が見ても楽しくて、応援されるバスケを見せたいです。
2月の試合では、最終戦のカナダ戦でベルギーとスウェーデンのファンが日本を応援してくれたんですよ。それだけ日本の女子バスケには魅力があると思うんです。誰が見ても「日本のバスケはすごいな、楽しいな」と思ってもらえるような大会にしたいですね。日本のバスケを広めるためには結果がついてきてこそだと思うので、結果を出して女子バスケを盛り上げたいです。
【profile】JX-ENEOSサンフラワーズ 渡嘉敷来夢