【第63回日本学生科学賞 内閣総理大臣賞】名古屋市立向陽高等学校
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理科教育において、日本で最も伝統と権威がある中学・高校生の公募コンクールの一つ「日本学生科学賞」。63回目の開催となった2019年、栄えある内閣総理大臣賞を受賞したのが、向陽高等学校の岩田晃陽くん(3年)と久保風仁くん(3年)です。ユリの受精のしくみにアプローチした研究内容、苦労した点などをお二人に伺いました。
この記事をまとめると
- 仮説立てと実験を繰り返し、ユリの「花粉管誘導」に関する新たな事実を発見
- 委員会や他の研究で忙しい中、二人で協力して実験に取り組んだ
- 時間制限のあるプレゼンや質疑応答に向けて、準備を積み重ねた
ユリの受精を促す「花粉管誘引物質」に関する新発見!
「日本学生科学賞」では、物理、化学、生物、地学、広領域(複数の分野にわたる研究など)、情報・技術の6分野で、全国の中高生から研究作品を公募しています。今回、岩田くんと久保くんが最も栄誉ある内閣総理大臣賞を受賞したのは、生物分野の「ユリの花粉管誘導Ⅲ~雌しべ上部における花粉管誘引物質は一つなのか~」という研究です。
ユリは受粉すると、花粉から「花粉管」がめしべの中に伸び、胚珠に届くと受精が行われます。このときめしべ上部で分泌される花粉管を導く物質は、従来一つだと思われていました。しかし二人は今回、めしべ上部の中でも柱頭(※1)内壁と花柱(※2)上部でそれぞれ異なる物質が存在することを証明しました。
これは世界的に見ても先行研究が少なく、将来的に教科書に載るかもしれないほどの可能性を秘めた大発見。そんな研究を成し遂げた二人に、インタビューを行いました。
※1 めしべの先端
※2 柱頭と子房をつなぐ柱状の部分
「内閣総理大臣賞」という大きすぎる賞に驚きと安堵
―― 受賞された感想をお聞かせください。
岩田:大きすぎる賞だったので受賞したこと自体にびっくりしましたが、純粋にすごくうれしかったです。
久保:うれしかったです。発表前にクラスメイトから「何か賞を取ってこい!」とプレッシャーをかけられていたので、結果的に大きな賞を頂くことができて安心しました。
―― 研究について教えてください。
久保:最初は、めしべの柱頭内壁と花柱上部それぞれで、誘引される花粉管の本数がつぼみ状態と開花後ではどう変化するのかを調べました。結果として差異が見られたため、次に生じた疑問を突き止めるための実験を新たに実施したらさらに疑問が出てきて……という形で、多くの実験を繰り返したんです。
そして、最終的に「めしべ上部における花粉管誘導物質は一つではないかもしれない」と仮定。5つ目の実験で実証に成功しました。
限られた時間をうまく使いながら、約1年かけて研究を完成
―― 今回発表されたテーマを研究しはじめたきっかけは何ですか?
岩田:先輩たちが代々課題研究の授業で行ってきたのが「ユリの花粉管誘導」に関する研究なのですが、僕と久保くんは先輩と同じ部活だったことから声をかけていただき、二人で引き継ぎました。実際、先輩の実験内容を見て興味も湧きました。
久保:僕は先輩と親交があったことに加えて、もともと植物も好きだったので取り組むことにしました。
―― 研究はどれくらいの期間取り組んできましたか?
久保:ユリが咲く時期は限られているので、2年生の頭に研究をスタートしてから9~10月頃までひたすら実験を繰り返していました。年末には研究活動を資料やグラフ、論文にまとめる作業に取り組みました。
―― 研究を進める中で一番大変だったところはどこですか?
久保:僕と岩田くんの二人で進めた研究だったので、人手が足りなかったことです。
岩田:実験を準備するときはスライドガラスに寒天培地を敷き、花粉とめしべのかけらを載せて経過を見るのですが、これはミリ単位の繊細な作業なんです。1回の実験で20枚はスライドガラスを用意しなければいけないので、気が遠くなるような作業でした。
久保:僕は複数の委員会に所属していたので、時間を作るのも大変でした。朝の9時から夕方の4時まで実験室と教室と委員会の部屋を行ったり来たり……というスケジュールのときもあったくらいです。なんとか時間をやりくりして、二人で協力して完成させました。
研究を通して得た知見や経験を、大学生活でも生かしたい
―― 大会に向けて、どのような準備を行ってきましたか?
久保:予選のために研究内容をまとめたパネルを3枚分作りました。また、プレゼンの練習も大変でしたね。日本学生科学賞だけではなく年明けから他の発表会でのプレゼン機会が何度かあったので、制限時間内でスムーズに内容を説明できるよう、かなり練習は重ねました。
岩田:日本学生科学賞のプレゼンは一人で5分間と決められています。僕は人前で発表するのが得意ではないので、プレゼンは久保くんに任せました。その代わり、発表後にある質疑応答できちんと答えられるように想定質問を準備するなど、サポートに努めました。
―― 今後の進路についてはどのように考えていますか?
岩田:臨床検査技師を目指して、大学に進学予定です。今回の研究とは関係の無い分野ですが、研究を通して学んだことを大学でも生かしたいと思っています。
久保:大学の理学部に進学したいです。一番やりたいのは災害に強い野菜を作ることなのですが、今回の経験を機にユリにも興味が湧きました。引き続き今回の研究も続けられたらと思っています。
先輩が続けてきた研究成果を受け継ぎ、丁寧な調査の末に論文レベルの大発見をした二人。先生の指導・協力のもと、忙しい合間を縫って研究を進めたそうです。先生はインタビューにも同席されていましたが、その和気あいあいとした雰囲気から、全員が研究を楽しみ、発見に驚き、感動しながら歩んできたのだと感じました。
素晴らしい研究の成果に気負うことなく、今後も自分のやりたいことを追求していくという二人の将来が楽しみです。
【profile】名古屋市立向陽高等学校
岩田 晃陽(3年)、久保 風仁(3年)