見たことない生物がいっぱい! どうして水族館で珍しい生物を飼育できるの?
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珍しい生物を見られるのが水族館の醍醐味の一つ。世界的に飼育例のない生物や、新種登録されたばかりの生物なら、なおさらです。福島県の水族館「アクアマリンふくしま」にも、「ここだけ」という生物が盛りだくさん。生態も明らかになっていないのに、どうしてこれらの生物を飼育・展示できるのでしょうか。ベテラン飼育係の山内信弥さんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 全国でもここだけしか見られない珍しい生物たち
- 生物たちは環境が良くないとエサを食べない
- 生物が住んでいる自然の環境を再現している
ここだけでしか見られない珍しい生物たち
―― アクアマリンふくしまで飼育されている、珍しい生物をいくつか教えてください。
深海に生息する「オオメンダコ」や「オオグチボヤ」は、生きたまま採集されることが珍しい貴重な生物です。また、同様に深海生物で、採集が難しい「クレナイモロトゲエビ」「シラユキモロトゲエビ」「シレトコモロトゲエビ」も展示中。この3種は、2019年1月に新種登録されたばかりのエビです。
―― それぞれの特徴を教えてください。
オオメンダコは、日本では北海道から鹿島灘沖の水深500m~800mに生息するメンダコの一種です。多くの水族館で見られるメンダコは脚を広げても、大きさが手の平サイズ(約15cm)ですが、このオオメンダコは、倍以上(約30cm)の大きさがあります。
たまに漁師の底引き網などにかかるのですが、生存していることは稀。飼育例もほとんどなく、現在全国でも当館にしかいません。足が短く膜に覆われていて、UFOのような形をしている他、ゾウの耳のような器官があるので「ダンボオクトパス」とも呼ばれています。
オオグチボヤは、ホヤの一種。水深300~1,000mの海底で、流れに向かって大きな口を開けて、エサを捕食します。ごく小型の動物も食べる「肉食性のホヤ」。こちらも生きたまま採取されるのは稀で、今回は北海道羅臼沖の刺し網漁で捕れました。
また2019年1月に新種登録されたクレナイモロトゲエビ・シラユキモロトゲエビ・シレトコモロトゲエビは、高級寿司ネタとして知られる「ラウスブドウエビ」の仲間。体長が15cm以上もある大きなエビが3種も同時に新種として発見されること自体とても珍しいことですが、さらに500~800mという深海から生存して展示できたことは奇跡的なできごとでした。
最初は何を食べるのかすら分からない
―― 飼育が難しい点について教えてください。
どれも生態がほとんど分かっておらず、環境の変化にも敏感なためです。例えば、オオメンダコは、何を食べるのかすら分からない。いろいろ試して、ヨコエビを食べることが分かったのですが、体の上に落とさないと食べないんです(笑)。
新種の場合、何もかもが手探りなんですね。似たような生物の飼育経験があるので、ある程度は予測が立てられるのですが、やっぱりマニュアル通りにはいきません。光・水温・広さ・水流・エサを組み合わせながら試行錯誤していきます。
ほとんどの生物が、環境が整わないとエサを食べない。逆に言えば、「エサを食べるということは環境がいい」ということなので、そこまでが最初の勝負となります。
生物のいる自然の環境を再現
―― 珍しい魚種の採取はどのように行われていますか?
漁でたまたま捕獲されて当館に送られることもありますし、珍しい生物の採集を専門に行っている業者もいます。自分たちで漁に同行して捕獲してくることもよくあります。
―― 珍しい生物の展示を見学する際の注目ポイントはありますか?
その生物が本来生きている自然の環境を再現するのが、当館のコンセプトです。生物そのものの姿形や動きはもちろん注目ポイントですが、普段こんなところに住んでいるんだと環境にも注目すると新たな発見があるかもしれません。
生態が明らかになっていない珍しい生物の飼育は、困難の連続。そこには光・水温・広さ・水流・エサなどの組み合わせを試行錯誤して、どうにか居心地のよい環境を作ろうとするたゆまぬ努力があったのでした。
珍しい生物たちを見られるチャンスを逃さないよう、ぜひ展示されている間に訪れてみたいですね。
【profile】公益財団法人ふくしま海洋科学館 ふくしまの海グループ ふくしま・熱帯アジアチームリーダー 山内信弥