『言葉だけでなく思いをつなげる、通訳という役割』川崎フロンターレ通訳・中山和也氏インタビュー
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Jリーグ2連覇中の川崎フロンターレには4人のブラジル人選手がいます。彼らに監督の指示を伝え、また彼らからの話をフィードバックするには、通訳という立場のスタッフが必要不可欠です。
2009年から川崎フロンターレの通訳を務める中山和也さんは、ずっとその重要な役割を担ってきました。中山さんは通訳が「言葉を訳すこと」だけの仕事ではないと言います。外国籍選手との間を取り持つためには何が必要か。じっくりと聞いてみました。
この記事をまとめると
- ピッチの中だけではなく私生活のサポートも仕事の一つ
- 留学して覚えた現地の言葉と文化が、帰国した後の通訳への道を切り開いた
- 通訳とは単に言葉を伝えるだけではなく人と人の思いをつなげていく立場
言い過ぎだと思う部分はオブラートに包みながら相手に伝える
―― お仕事の概要を教えてください。
簡単に言えば日本人とブラジル人選手の間に入って言葉を伝えます。サッカーの現場なのでサッカー用語・戦術、さらにお互いの感情なども伝えるようにしますが、言い過ぎだと思う部分はオブラートに包みながら通訳するようにしています。アレンジして伝えていいというのは鬼木達監督からの指示でもあります。
またピッチ外でも私生活全般、例えば病院や学校などでも橋渡しをしています。初めて日本に来たばかりの選手の場合、日本に慣れるまで買い物などにも付き合いますし、休みのときもブラジル人選手から電話がかかってきて、言葉を伝えたい相手(店員さんや、ときにはタクシーの運転手の方)に行き先を伝えたりもしています。基本的にブラジル人選手が日本にいる間は24時間携帯電話を手放せませんね。
―― 仕事の楽しさ・やりがいは何でしょうか?
ブラジル人選手が日本との文化の違いを、納得しなくても理解してくれて、規律を守れるようになってくれたときには、やりがいを感じます。また、チームの勝利が一番うれしいのですが、その中でもブラジル人選手が活躍してチームが勝てば、よりうれしく思えます。
子どものころの憧れを追ってつかんだ通訳への道
―― どのようなきっかけ・経緯で通訳になろうと思いましたか?
子どものころに高橋陽一先生のマンガ『キャプテン翼』を読んでから、ずっとブラジルに行きたいと思っていました。高校を卒業し、サッカーの専門学校に通った後に念願のブラジルへ1年半留学しました。19歳から20歳の時期ですね。サッカー漬けでレベルも高く、海外で生活するという楽しみも知ることができて最高の経験だったと思います。
残念ながらプロ選手にはなれなかったのですが、日本のサッカークラブから 選手兼GKコーチ兼通訳に誘われて帰国し、その後、同じ立場だった人から横浜FCの通訳に推薦してくれて、通訳の道に進みました。2009年からは川崎フロンターレの通訳を務めています。現地で言葉を学んだので、ブラジル人選手からは「ちゃんとブラジルで使われている言葉」だと言ってもらっています。
―― 日本にやってくるブラジル人選手には最初に何を伝えますか?
日本とブラジルでは文化が違いますから、まず日本のルールを教え、規律がしっかりしているという文化を伝えています。最近は真面目なブラジル人が多いのですが、昔は時間や日にちにルーズな選手がいました。だから逆算して待ち合わせの時間は早めに伝えていますね。
はっきり物事を伝えつつ、自己犠牲も必要とされる立場
―― 通訳の大変な部分・つらいことについて教えてください。
大変だとはあまり感じていません。細かいことを気にしないブラジル人に対して、こちらが気にしても仕方がありませんから。ただブラジル人選手がいつまでもこのクラブにいるわけではないので、別れはつらく感じます。
―― どういう人が通訳に向いていると思いますか?
相手に言うべきことはちゃんと言えて、なおかつ自分をある程度犠牲にできないと通訳はできないと思います。遠慮ばかりしていても務まらないですし、休みで出かけていたとしても、ブラジル人が急病になったら病院に行ったりしなければいけません。
―― 高校生に向けてアドバイスをお願いします。
通訳は人と人をつなげる立場ですから、言葉だけではなくて思いをつなげることが大切になります。言葉だけを訳すのではなく、文化を伝えなければなりません。そのためには現地に行き、現地の人と触れ合って言語とともに文化を学ぶことも、通訳をする上で非常に重要だと思います。
子どものころの憧れを忘れず大人になっても追い求めたことが、中山さんの現在につながっていました。ブラジルに行って学んだのが、言葉だけではなくブラジルの文化そのものだったことは、中山さんの通訳という仕事に深みを与えているのでしょう。「キャプテン翼」にはなれなかったとしても、夢をまじめに追い求めていった結果が未来につながったという、とてもすてきな例でした。
【取材協力】川崎フロンターレ
【取材】森雅史/日本蹴球合同会社
この記事のテーマ
「健康・スポーツ」を解説
スポーツ選手のトレーニングやコンディション管理に関わる仕事と、インストラクターなどの運動指導者として心身の健康管理やスポーツの有用性を広く一般に伝える仕事に大別できます。特に一般向けは、高齢化の進展や生活習慣病の蔓延が社会問題化する中、食生活や睡眠も含めて指導できる者への需要が高まっています。授業は目指す職業により異なります。
この記事で取り上げた
「スポーツのチームや組織で働く人」
はこんな仕事です
野球やサッカーなど、スポーツ選手が所属するクラブチームの運営に携わる仕事。広報活動やスポンサーの開拓、選手の契約の管理、経理など、業務内容は幅広い。新たな有力選手の入団交渉や、所属選手に対する処遇の変更など、チームの人事面もサポート。また、サポーターやファンの来場数を増やすために、集客方法を考案することもある。クラブチームを運営する企業に就職するケースが一般的。必要な資格はないが、スポーツが好きで、チームや選手に愛着を持って業務と向き合える人に向いている。
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