『サッカーを普段見ない人にも面白さが伝わる解説を』元日本代表・水沼貴史さんインタビュー
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高校時代から将来を嘱望され、日本代表でも大活躍した水沼貴史さん。引退後は解説者としてメディアに引っ張りだこ。現役時代さながらのひょうひょうとした語り口には、サッカー愛があふれています。そんな水沼さん、実は大変な高校時代を送っていたのだとか。驚くような高校生活とともに、周囲の期待を集めてプレッシャーを受けつつ、先輩たちとは違う進路を選んだときの基準は何だったのか伺いました。
この記事をまとめると
- ちょっと違った視点を持ってもらえるように気遣っているサッカー解説
- 高校時代はサッカー一筋でユース代表の合宿も重なり年間の休みはゼロ
- 一番ダメ出しされ指摘されたことがその後のサッカー人生に生きていた
偶然サッカーを見た人でも「ハマる」ように心掛けて解説
―― 現在の仕事内容を教えてください。
主にJリーグや海外リーグの試合解説を行っています。シーズン中(2月下旬~12月上旬頃)は1カ月約12試合ほどの解説を担当しています。日中・夜にJリーグの試合を解説して、深夜に海外リーグの解説をすることもあるので、体力的に大変なときもあります。試合の前には各チームの前の試合を見たり選手の状況を調べたりする必要があるので、1試合の解説には6時間ほどかかります。
その他にはコラムを書いたり、福井県の高校でサッカーを教えたりしています。僕がコーチとして参加している高校は、全国からスカウトで選手を集めるような学校ではなく、志望者が集まっている学校です。全国大会(選手権)への出場を目標としていて、2016年・2017年には2年連続で全国大会へ出場することができました。
―― 現在の仕事のやりがいや楽しさは何ですか?
解説をするときはサッカーの魅力を伝えていくことが一番大切だと思っていますが、その試合が放送されるメディアによって伝え方を変えるようにしています。スカパー!の番組を見る人は最初からサッカーを見るために専用の番組を契約している人が多いです。しかしDAZN(*)の場合は、バスケットや野球など他のスポーツを見ている人が、試しにサッカーを見ることもあります。そのような人にもサッカーの面白さを伝えたいので、マニアックな人が満足するだけではなく、そうではない人が見たときにサッカーの見方がより伝わるような解説になるように心掛けています。
具体的には、戦術的なことを話しつつ、選手の特長を伝えるようにしています。「またこの選手が身体を張っています」「またブロックしています」「また味方に声をかけています」などということを言い続けると、どんなプレーが行われているか・どう選手を見るかなど、ちょっと違った視点を感じてもらえるのではないかと思っています。
*DAZN(ダゾーン):スポーツのライブ配信・見逃し配信をしている映像サービス
高校時代は休みゼロ「休みって何?」という生活
―― どのような学生時代を過ごしていましたか?
サッカー一筋でした。中学の頃は県代表として全国大会に出場して、優勝しました。しかし試合を見に来ていたある高校サッカー部の監督に「県の代表がこんな試合でなんだ」と怒られたんです。そこは後に自分が進学した高校なのですが、そのときはその高校にだけは行きたくないと思っていました(笑)。
ところがその冬、全国高校サッカー選手権大会でその高校が優勝したのです。それで「ここしかない」と思って入学し、選手権で優勝するという目標をずっと追っていました。
それからFIFAワールドユースのメンバーにも選ばれていたので、高校2年生のときからは学校の練習に加えてワールドユースの合宿にも参加していました。休みは1年365日中ゼロでしたね。
―― プロ選手を目指したのはいつですか?
僕たちが子どものころはJリーグがなかったので、プロ選手を目指すというより、当時のトップリーグだった日本サッカーリーグのチームや日本代表選手を目指していました。そういう意味では、小学生のときから目標にしていました。
高校生のときにワールドユースの合宿が始まってから、世界を意識するようになりました。初めて海外の選手とプレーしたのは、高校2年生になる春ですね。試合中、相手に言葉が通じなくてすごく不思議な感じでした。
―― 高校時代の経験でその後の人生に影響したことを教えてください。
ワールドユースの合宿ですね。あの苦しい合宿を経て今があると思っています。そのときは嫌で仕方がありませんでした。ですが振り返ると、やり続けたというのは、その後の自分の人生の糧になったと思います。ワールドユースを経験した後は何が起きても「あのときに比べたらまだまだ」と思えるようになりましたね。
そして、サッカーはやはり素晴らしいスポーツなのだと改めて思いました。サッカーは11人でやった結果が出ます。自分に何ができるか、何が足りなかったか、そして何を仲間に助けてもらったというのが凝縮されています。つらくても続けていけたのは、サッカーが素晴らしいからだったのだと思います。
悪いことが起きてもそこで学んだことが将来の役に立つ
―― 高校生活で印象に残っている出来事は何ですか?
高校のときに監督から叱咤されたことが一番です。僕は監督から目をかけられていたとは思います。プレーもそうですし、練習、試合中にいろいろな声をかけられていました。一番にダメ出しもされていました。そのとき、監督は「予測しなさい」「ワンタッチでプレーすることを考えなさい」という2点を常におっしゃっていました。
その2つの指示は、日本サッカーの中では相当早い時期での着眼点で、監督には先見の明があったと思います。自分もそれをずっと念頭に置いて、考えるようにして技術を磨きました。監督がかけてくださった言葉がずっと役に立ちました。
―― 高校生に向けてアドバイスをお願いします。
将来のことに思いを巡らせるのに、高校というのは一番不安な時期かもしれないですね。進路先で人生も変わりますから。ただ、進路先のことだけではなくて、進んだ先で自分が学ぶことは何を将来に生かせるか考えながら進路を考えてほしいと思います。自分がそこへ行って楽しめそうかという考え方も大切だと思います。
自分の人生の先に何を描いているか、おぼろげでもいいですからイメージを持って進路を選ぶというのは重要です。じっくり考えて選んでほしいと思います。
日本で初めて開催された1979年ワールドユース大会に高校生ながら飛び級で選出され、日本の唯一のゴールを挙げた水沼貴史さんは、高校生活の全てをサッカーに捧げていたそうです。当時のワールドユース代表のトレーニングは厳しいことで知られ、脱走者も出たのだとか。苦しい経験を乗り越え、その後何度も試練が水沼さんを襲いましたが、合宿のことを思い出して乗り切ったということでした。その後、メディアでも大活躍。分かりやすい解説でサッカーの素晴らしさを広め続けていらっしゃいます。苦しいことの先に明るい未来があったという、いい見本のような方でした。
【profile】水沼貴史
【取材】森雅史/日本蹴球合同会社
この記事のテーマ
「健康・スポーツ」を解説
スポーツ選手のトレーニングやコンディション管理に関わる仕事と、インストラクターなどの運動指導者として心身の健康管理やスポーツの有用性を広く一般に伝える仕事に大別できます。特に一般向けは、高齢化の進展や生活習慣病の蔓延が社会問題化する中、食生活や睡眠も含めて指導できる者への需要が高まっています。授業は目指す職業により異なります。
この記事で取り上げた
「そのほかのスポーツ系の職業」
はこんな仕事です
身体的な技術ではなく、心理面のスキル向上のための専門知識と技術を発揮する仕事もある。日本スポーツ心理学会の認定資格「スポーツメンタルトレーニング指導士」は、普段の練習についての心理的助言や、スランプへの対処法、復帰時の援助などを行い、選手が能力を最大限発揮することを支援する仕事。また「ゴルファーのパートナーキャディー」のように、クラブの選択やプレーのアドバイスを行う仕事もある。プロでもキャディーを頼りにする選手は数多い。資格は特にないが、ゴルフの知識は深いほどよい。
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PICK UP! 「そのほかのスポーツ系の職業」について学べる学校
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