脳神経科学の研究者・田中和正さんが語る 記憶のメカニズムとは?

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脳神経科学の研究者・田中和正さんが語る 記憶のメカニズムとは?

2019.03.04

提供:マイナビ進学編集部

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脳神経科学の研究者・田中和正さんが語る 記憶のメカニズムとは?

2018年に『海馬記憶エングラムからの記憶解読』を発表した、理化学研究所の田中和正基礎科学特別研究員。今回の発表は脳神経科学の分野で注目を集めています。いったいどのような研究内容なのか、また私たちの生活にどう関わってくるのでしょうか。お話を伺ってきました。

この記事をまとめると

  • 私たちがどのようにして記憶した情報を保存しているのかを明らかにする研究をしている
  • 脳に関する勉強がしたい気持ちがあったため、米国の大学院へ進学した
  • 進路は大学を卒業してからも柔軟に方向修正をすることができる

記憶のメカニズムを解明することが研究の目的

――現在のご研究内容について教えてください。

動物を使って記憶に関する研究をしています。人間を含めて動物の脳はものすごくたくさんの神経細胞がつながり合ってできているのですが、私たちが得た情報をどのようにして保存・記憶しているのかというメカニズムを明らかにすることが究極の目的です。

具体的にどのようなことを行っているかというと、実験動物としてマウスを使います。マウスの脳の中に細い電極を刺して、神経細胞1個1個の活動を記録します。マウスがいろいろ覚えたり思い出したり、学習したり考えたりしている時にそれらの神経細胞がどのような活動をして、そこからどういう情報を読み取れるのかを研究しています。


――2018年に発表された論文では、記憶をつかさどる脳の場所に保存されている情報が今まで言われていたものとは少し違うということですが、どういうことですか?

脳の中に「海馬」という部分があって、それが記憶に大切な部分だということは以前から分かっていました。人も動物も海馬がダメになると昔のことが思い出せなくなるのです。それはなぜなのかと考えた時に、今までは一つの仮説がありました。海馬の中には「場所細胞」という細胞があって、その細胞は位置や場所についての情報を保存しているようだということです。

実験用のマウスに適当な場所を歩かせると、マウスが特定の位置に来た時に海馬の中で発火する細胞がありました。それが位置情報を表しているのではないかということが以前から分かっていたのです。ですから、その部分がダメになると自分が過去にどういう場所を訪れたかが分からなくなってしまうので、過去の出来事を思い出せなくなってしまうのだろうと予想されていました。

今回私は実際に海馬の中に電極を刺して、情報を保存している細胞から活動を拾ってみたら、「場所細胞」だけではなく、そこがどういう場所なのかを覚える「記憶エングラム」があるということが分かりました。つまり、心理学的な専門の話になってしまいますが、「文脈」という位置情報に限らず、広い意味でその時の状況を保存しているみたいだというのが今回の発見です。


――神経細胞が使われると発火するということですか?

そうですね。神経細胞は、電気的にパチンパチンと特徴的な活動をします。そういうふうに発火をすると、手をつないでいる相手の神経細胞に情報を伝えることができるので、これが神経細胞と神経細胞のコミュニケーションの手段なのです。

心理学か生物学か、どちらを選ぶかギリギリまで悩んだ高校時代

――もともと理系へ進学しようと思っていたのですか?

高校時代に進路を決める時は悩みました。興味があるのは脳のことでしたが、アプローチとして2つの選択肢がありました。一つは心理学部へ進学すること、もう一つは生物学を勉強して機械のような目で脳を見て仕組みを理解することです。どちらにしようかと最後まで悩みました。

高校3年生で文系、理系を選択したのですが、最終的に理系である生物学を選んだのは、当時分子生物学がすごくはやって爆発的に進んでいたので、生物を勉強すれば将来性があると思ったのがきっかけです。理系を選択した時点で、将来は研究の道へ進もうと考えていました。


――大学では理学部生物科学科へ進学し、卒業後は米国の大学院で心理学を学ばれたのは、高校時代の経緯があったからなのですね。

高校生の時に一番携わりたかったのは、サルの脳の研究でした。京都大学に霊長類研究所があるので受験したのですが落ちてしまいました。第2志望の大学に進学しましたが、当時は脳の研究をしている研究室があまりなかったんです。分子生物学や細胞生物学は面白いんですけど、やっぱり脳の研究がしたいなと思い大学院から他の学校へ進学しようと考えました。

科学のいろいろな分野でいえることだと思いますが、日本よりも米国や英国が進んでいますし、科学研究の公用語は英語なので、結局仕事は英語することになります。ならば早いうちから英語を使う環境で慣れておいたほうがいいだろうと思って米国の大学院へ進学しました。最初は心理学部に入るつもりはなくて、たまたま面白い研究をしている指導教官が心理学部所属だったので、私も心理学部所属になったというわけです。


――日本と米国とでは、学ぶ環境に違いはありましたか?

日本の大学院はひたすら実験をして自分で何かを身に付けていくというスタイルが一般的ですが、米国の場合はシステマティックで、最初の2年間はひたすら勉強しなければなりません。ですから、学ぶ環境はだいぶ違うと思います。

米国の大学院ではいろいろなカリキュラムが組まれていて、物の考え方や議論の仕方を訓練します。勉強というよりは訓練という感じが近いですね。それが終わって初めて研究室で実験をします。私の場合は少し特殊で、当時の指導教官が早く実験をしてほしいと要求してきたので(笑)、カリキュラムと並行しながら実験を行っていました。今考えるとハードだったと思いますが、当時大学院で学んだ内容は、研究者として仕事をするうえで役に立っています。

進路は一つだけではない。大学を卒業してから方向修正することができる

――仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?

一番興奮するのは、全然思っていなかったことを見つけた時です。記憶というのは人気のある研究分野で、世界中にたくさんの研究者がいるんですよ。中には天才だといわれるような人が、ずっと謎になっていることの答えを見つけようと、人生をかけて必死に研究をしているわけです。

いろいろな実験をしてふと誰も知らないことを見つけた時、ものすごく面白いことなのに世界中でこのことを知っているのは自分だけという興奮は、他の仕事では味わえないものがありますね。

ただ最初は「これが本当だったら面白いな」と興奮はしますけれど、そこから裏付けをとっていかなければいけないので先は長いです。


――今研究していることは、世の中のどういう部分に関わってくると思いますか?

もし関われるのだとしたら遠い未来のことだと思います。私が生きている間に実現することは無理かもしれませんし、そもそも実現するのかどうかも分かりません。

例えばアルツハイマー病の場合、この病気の難しいところは症状が出てからでは遅いというところです。物忘れが激しくなってきて昔のことを覚えていないというのは、すでに海馬の中にある脳の神経細胞が死んでしまっているので修復することができないのです。

そうなる前に海馬の機能を補助したり、今まで経験した記憶をどこかに保存したりできる機械を作っておけば、人間の脳機能の補助になるかもしれません。そのためには海馬がどういうメカニズムで動いているのかを理解する必要があります。機械と自分の脳をつなげて、いろいろな機能を拡張することができれば、人間にとって新しい進化の形になるのではという気がしています。


――高校生に向けてメッセージをお願いします。

いろいろなことにあまり悩む必要はなくて、気楽な気持ちでいればいいと思います。私みたいに、本来行きたいところとは全然違うところへ進んでも方向修正ができるからです。

進路というと一つのレールに乗せられて、そのまま従っていくというニュアンスがありますが、そういうものではなくフレキシブルにいろいろなことができると思います。日本国内にとどまっている必要はありませんし、いろいろなところにも行けます。自分の考え方やスタイルに合うような環境を見つけられる機会は、その後の人生にもあると思うので、あまり思い悩まず、気楽に進路を決めたらいいのではないかと思います。



高校生の時に進路選択でとても悩んだという話は、皆さんの中にも共感できる人がいるのではないでしょうか。田中さんが「やはり脳の研究がしたい」と進路変更をしたことが、今回の大きな研究結果につながったといえるでしょう。

高校卒業後の進路はじっくり考えることが大切ですが、気負うことはないという田中さんのメッセージは、説得力があって心強いものだと感じました。

【取材協力】
国立研究開発法人理化学研究所
脳神経科学研究センター 神経回路・行動生理学研究チーム
基礎科学特別研究員 田中 和正

この記事のテーマ
人間・心理」を解説

人を研究対象として、人間の心理や身体、人間が作る社会集団、生活の特徴やあり方を研究します。人間科学は、人間という存在や関係性そのものを研究し、学習範囲は栄養学から文化人類学、スポーツ科学まで広範囲にわたります。心理学は人間の心や行動の特徴を分析・解明します。ストレス社会と呼ばれ、心の病に苦しむ人が増加している現代では、なかでも臨床心理学の重要性が注目されています。人間の存在意義の基礎となる学問です。

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この記事で取り上げた
「心理学」
はこんな学問です

人間の心理や行動がどのような原理で動いているのかを研究する学問である。それにはさまざまなアプローチがある。たとえば、認知心理学では対象を知覚してから言語化するまでの作用を情報処理のプロセスとして理解する。発達心理学は人間が誕生してから死ぬまでの心の変化が何によるのかを探究する。臨床心理学は心のバランスを崩してしまった人の状態の改善をめざす。志望校に自分の本当に学びたい心理学があるかどうかを必ず確認することが大切だ。

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