脳神経科学研究者・田中和正さんが語る 研究者になるきっかけとなった本
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幼い頃に読んだ本をきっかけに、「この仕事に就きたい!」と思った人もいるのではないでしょうか。「かっこいいから」「とても興味深いと思ったから」など、将来の夢が決定した人も少なくないでしょう。
国立研究開発法人理化学研究所・脳神経科学センターの田中和正基礎科学特別研究員は、ある本との出合いをきっかけに研究者に憧れ、目指すようになったのだそうです。これまでどんな本を読まれてきたのでしょうか、読書について語っていただきました。
この記事をまとめると
- ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』を読んで、哲学について考え始めた
- 高校時代は文芸好きの友達の影響で、一番読書をしていた時期だった
- 米国留学中、日本の漫画やアニメが話の種になった
物語に登場する数学者が格好よくて研究者に憧れた
――今までどんな本を読まれてきましたか?
SF小説や推理小説が好きで、小さい頃はトム・クランシーのようなアドベンチャー物が好きでした。子どもが産まれてからは本を読む時間が少なくなったので、仕事に関係がある教科書や神経科学、脳科学に関係している同業の研究者が書いた本を読むことが多いです。
――読みたい本はどのようにして選んでいらっしゃいますか?
本屋をブラブラしながら、タイトルを見て「面白そうだな」と思った本を手に取って読むことが多いです。年に一度、理化学研究所の創立記念日があって仕事が休みになるのですが、その日だけは自分のために時間が使えるので、大きな書店へ行って思う存分本を見て過ごします。
――人生や考え方に影響を受けた本はありますか?
マイケル・クライトンの『ジュラシック・パーク』にイアン・マルコムという数学者が出てくるのですが、研究を仕事にしている人って格好いいなという漠然としたイメージを持つきっかけになりました。
また神経や脳の研究をしている人は、実は哲学から入る人が多いんですよ。私もそのくちで、きっかけとなった本がヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』です。世の中はどのようにできているのか、自我とは何か、精神とは何か、そういうことを考えるきっかけになりましたし、こういう哲学的なことに人生をささげている人もいるのだということを知りました。
あとはジャーナリストでノンフィクション作家の立花隆さんが薦めている本を道しるべに読書をしていました。
言いたいことが分からないなりに魅力があった文芸物
――ご自身はどのような高校生でしたか?
もともと私はあまり勉強をするほうではありませんでした。海の近くに住んでいたので小学生の時はサーフィンをしたり、中学生の時は漫画を読むことやテレビゲーム、モデルガンが好きでした。しかし高校受験をきっかけに、勉強をすることが苦にならなくなったんです。
高校時代は本を読むのが好きで、本ばかり読んでいたような気がします。文芸的な小説や中国・唐の時代の詩集を読んだりしていました。これは夏目漱石の『草枕』に影響を受けたのだと思います。また永井荷風の『墨東奇譚』のような人間臭い感じのものを読んでみたりしました。とにかく手当たり次第にいろいろな本を読んでいました。
――一番読書をしていた時期は、高校時代だったのでしょうか?
そうかもしれません。高校時代に文芸物が好きな友人がいて、彼に影響を受けました。最初文芸物は得るものがないし、作り話じゃないかとバカにしているところがありましたが、実際に読んでみると面白かったんです。1回読んだだけでは、結論や何が言いたいのか分からないものもありましたけれど、惹かれていきましたね。
米国留学中は、日本の漫画を話の種にできた
――先ほど漫画も好きだったとおっしゃいました。米国留学中は日本の漫画について話題になったりしましたか?
日本の漫画やアニメが好きだという人は結構いましたから、話の種になりました。私自身が漫画から得るものがあったかというとよく分かりませんが、気軽に読めますし面白いと思っています。
――外国人に人気のある日本の漫画は何ですか?
この研究所にいる中国人の学生は、『SLAM DUNK(スラムダンク)』が好きだと言っていました。留学中に知り合った人達とは『NARUTO-ナルト-』や『ドラゴンボール』がよく話題になりましたね。やはり『週刊少年ジャンプ』で連載されていた作品は人気があると感じました。
友達の影響で、高校時代はあらゆるジャンルの本を読んだという田中さん。中国・唐の時代の詩集を読んでいたという渋い好みには驚きました。
本がきっかけで研究者という仕事に興味を持った田中さんのように、皆さんも今読んでいる本が、将来の仕事につながることがあるかもしれませんよ。
【取材協力】
国立研究開発法人理化学研究所
脳神経科学研究センター 神経回路・行動生理学研究チーム
基礎科学特別研究員 田中 和正