日本中にたくさん咲いているソメイヨシノは全部クローンだった!?

日本全国の春を満開の花びらで彩るソメイヨシノ。日本を代表する桜であるソメイヨシノですが、日本中に存在する何百、何千万本ものソメイヨシノが、全て1本の桜の木から生まれたクローンだったのです!
この記事をまとめると
- ソメイヨシノはソメイヨシノ同士の交配が不可能なため、クローンを作り繁殖させている
- 他品種との交配は可能だが、できた子孫はソメイヨシノではなくなってしまう
- 全てのソメイヨシノは同一性質のため、気象条件が同じ地域では一斉に開花する
日本全国に咲くソメイヨシノは全てクローンで増やされた!?
春といえば桜。その代表的な品種といえば「ソメイヨシノ」ですね。立派な桜並木を作るために植樹しているのを見たことがある人もいるでしょう。しかし、ソメイヨシノが受粉して実をつけている、もしくはソメイヨシノが種から育っているところを見たことはおそらくないのではないでしょうか。
実は、日本全国のソメイヨシノは受粉による生殖ではなく、接ぎ木や挿し木などで増殖させたクローンなのです。つまり、桜並木には性質もまったく同じソメイヨシノがずらっと並んでいるということ。
それでは一体、なぜクローンで増やしているのでしょうか? 生育の効率などの理由もありますが、実はクローンで増やすべき遺伝的な理由があります。ソメイヨシノは「自家不和合性」という、自身が作る花粉を受粉しても実をつけにくい性質を持っています。
自身の花粉でも受粉できない上、他のソメイヨシノも同じ遺伝子のクローンであるため実質花粉はどれも同じなので、ソメイヨシノ同士の受粉で繁殖させることも難しいのです。その結果、接ぎ木や挿し木をしてソメイヨシノを増やしています。
実がまったくできないわけではないが、それはソメイヨシノではない
実はソメイヨシノのように接ぎ木や挿し木によるクローンで繁殖させている植物は他にもいろいろあります。例えばよく食べられる果物のひとつでもある「温州みかん」などのかんきつ類は、接ぎ木や挿し木で増やしている品種が多くあります。
かんきつ類の場合は、ソメイヨシノのように自家不和合性を持っているわけではありませんが、繁殖させる場合は接ぎ木・挿し木を行っています。
その理由の一つは繁殖効率や実がならない期間の短縮など、果実を生産する上でのメリットが多いことです。
そしてもうひとつの理由が、種から育てた木が別の品種になっていたというリスクを避けるためです。
例えば、Aという品種の木から種が採れて、その種を育てるとします。しかし、この種を作った木がBという品種の木の花粉を受粉していた場合、この種から育った木はA品種とは違う性質を持っている可能性があるのです。このようなリスクを避けるため、100%同じ品種のクローンを作るわけです。
実は、自家不和合性を持つソメイヨシノにもこのリスクはあります。ソメイヨシノ以外の品種の花粉であれば受粉し、実をつけることができるのです。
しかし、そうやってできた桜はもはや「ソメイヨシノ」ではありません。ソメイヨシノが持つ性質とは異なるものを持ってしまい、開花時の美しさもまた違うものになってしまうのです。日本人が大好きなソメイヨシノの美しい風景を変えてしまわないように、ソメイヨシノのクローンは作り出されたのかもしれませんね。
ソメイヨシノが一斉に咲き誇るのはクローンだからこそ生まれた風景
以上のことから、現在あるソメイヨシノは全てクローンなのですが、クローンだからこそ生まれた景色もあります。地域ごとに開花時期は異なりますが、基本的に桜は一斉に咲き誇ります。
全てのソメイヨシノは同じ性質なので、気象条件が同じ地域では同じタイミングで開花するわけです。接ぎ木・挿し木の技術のおかげで、今の日本の春の風景を作り出しているといっても過言ではないのかもしれません。
植物を繁殖させる技術は多岐にわたり、それらは農学を学ぶことでその知識を身につけることができます。興味が湧いた人はぜひ学んでみてはいかがでしょうか?
【出典】
・日本植物生理学会
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2309
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=577
・国立遺伝学研究所
https://www.nig.ac.jp/koukai/koukai2018/sakura/index.html
・テルモ生命科学芸術財団
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/future/04/04.html
・愛媛県庁
https://www.pref.ehime.jp/h35500/kankitsu/kankitsuqa_ansc.html
・株式会社アーサーバイオ
https://earthor.jp/blog/2018/02/23/1625
・NIPPON TABERU TIMES
http://taberutimes.com/posts/25931
この記事のテーマ
「農学・水産学・生物」を解説
私たちは、他の生物から栄養をもらって生活しています。人口が増え、自然環境が悪化する中、食料を安定して確保し、自然から栄養をもらい続け、世界の飢餓問題に対応するには、農業、林業、水産業などの生産技術の向上が欠かせません。動植物や微生物などさまざまな生物の可能性を発見する研究も重要です。
この記事で取り上げた
「農学」
はこんな学問です
品種の改良や病害虫対策をはじめとする栽培技術、事業として継続させるための農業経営、行政による支援のあり方を問う農業政策などを通じて、人と自然の共生のための方法を研究する学問である。研究分野は広く、食料としての生物を環境にマイナスの影響を与えることなく継続的に確保する方法を研究する「資源生物科学」、食品・農業・化学工業などの生物活用現場で起こる問題をバイオ技術によって解決する「応用生命科学」などがある。
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