レコーディングエンジニアはアーティストの要望を汲み取る通訳者 ~バンドPAN・レコーディングエンジニア~
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CDを制作する上で重要な作業の一つである、レコーディング。さまざまな楽器を要するバンドでは、どのようにしてレコーディングが行われるのでしょうか?
レコーディングエンジニアとしてPANのレコーディングを担当されている畑田和大さんに、レコーディングがどのような手順で行われているのか語っていただきました。PANと一緒に臨むレコーディングはどんな雰囲気なのでしょうか?
この記事をまとめると
- 曲を通じて伝えたいことがきちんと伝わる音作り
- レコーディングする場所によって録れる音が異なる
- アーティストが伝えたいことを拾い上げて表現することが大切
曲のイメージがしっかり伝わるように作業をしている
――レコーディングする際に行う仕事の流れと時間を教えてください。
アルバムの収録をする場合、まず全曲のベースとドラムの仮音源を録音します。そしてドラムのチューニングをし、音が決まると仮音源を聞きながら録音をスタート。そのまま1曲録りきります。
別の部屋でも同様に仮音源を聞きながらベースの録音をしていきますが、この時点ではまだアンプを通さず、ベースからの音を直接録音します。ドラムの録音が全曲終わるとセットを変えてギターの録音に入っていきます。
ギターの録音ではまず伴奏部分のレコーディングを終わらせ、次にリードトラックの録音を行います。そして別の部屋で行っていたベースの録音が終わったら、ボーカルやコーラスを録音していきます。
全ての楽器を録音し終えた後、ベースの音をアンプに通す作業(リアンプ)を行い、各楽器の音とボーカルの音を混ぜたときに声が埋もれないよう、楽器の音調整を進めていきます。歌録音が終わると、全てのデータを集めてミックスを完成させます。ここまでで、大体10~12時間といったところですね。
――今回のレコーディングでこだわった部分はありますか?
毎回その曲の歌詞や伝えたいことがしっかり届けられることにこだわって作業しています。
例えば『ムムムム』に収録されている『鼻咲おじさん』という曲はベースのダイスケさんのことを歌っているのですが、曲を聞いてそのイメージが伝わるようにベースの存在感には他の曲と違う要素を足しています。
PANは特に歌の内容がしっかり伝わるような、ボーカルとコーラスの細かいボリュームバランスにもこだわっていますね。また、レコーディング中はメンバーとの会話を大事にしています。例えば「このフレーズいいな」「ここ面白いな」という意見があれば、その部分が埋もれないように音を調整するなど、話の節々にあふれてくるそれぞれのこだわりをくみ取れるように意識しています。
PANとのレコーディングは、常に笑いが起こる楽しい現場
――PANの皆さんとのレコーディングはどのような雰囲気で行われていますか?
PANと初めて一緒に仕事をしたのは3年前でしたが、彼らとのレコーディングは本当に円滑で、常に楽しさとワクワク感しかありません。
記録用などでカメラが回っている時はよこしんさんが小ボケをするのがお決まりです。ちょっと言葉でお伝えするのは難しいのですが、瞬間風速の早い笑いが細かく起こっている現場でいつも楽しい雰囲気です。
――レコーディングする場所によって録れる音は変わりますか?
もちろん変わります。特に変化が出るのがドラムで、機材などを持ち込んで同じ環境を整えても、そのスタジオの特色がよく出ます。
例えば天井が高いと広い音、狭いスタジオでうまく反響させていれば太い音、音が響きにくいスタジオではタイトな音が録れたりします。私自身も初めて行くスタジオの場合、反響具合などを先輩方に聞いたりもします。また国外で録音する際も音の変化は出ます。電圧や気候の違いなどで楽器の鳴り方そのものが変わってきます。ただ、全てどちらがいいかというよりは、楽曲に合わせて選択するのがベストだと思っています。
レコーディングエンジニアは通訳者の仕事に似ている
――レコーディング工程の中で、一般の人に知られていないことはありますか?
音のこだわりといった面で、一つの楽器に対して複数種類のマイクを立てることが多々あります。私の場合はギター一つ取っても、オンマイク4本・ルームマイク2本を立て、アーティストにどの音が好みかを確認し、あとは自分のセンスでブレンドしていきます。
ギターの伴奏部分は2本分録ることが多いので、それぞれどのように音が広がってほしいかをイメージしながらマイクのバランスを変えたりしています。このように、どの楽器でもただある音を録っていくだけではなく、常に最終の完成形をイメージしながらレコーディングしていきます。
――レコーディングエンジニアに必要なスキルは何だと思いますか?
第一にコミュニケーション能力ではないかと思います。ここまでの質問の返答でも感じてもらえると思うのですが、いかにアーティストが伝えようとしていることを拾うか、そしてそれを表現できるかは作品作りにとって大事なことです。しっかりコミュニケーションが取れ、会話がスムーズに行われる中でポンポン飛び出すアイデアは非常に重要です。
レコーディングエンジニアの仕事は通訳者のようなもので、アーティストが表現したいことを音で視聴者に伝えるためにどうすればいいかという発想力も必要になってきますね。あとは集中し過ぎて休憩を取らなくなっちゃうことも多いので、体力も必要です(笑)。
レコーディングの時にマイクスタンドをたくさん立てて、アーティストに好みの音を確認しながらレコーディングしていくというのはとても興味深い話でした。CDはいろいろな人の地道な作業で作られているのだと改めて分かりましたね。PANのレコーディングは常に笑いが起きる楽しい雰囲気で行われるのだとか。レコーディング作業の様子をイメージしながらCDを聞いてみると、また違った発見があるかもしれませんね。
【Profile】
レコーディングエンジニア 畑田和大
この記事のテーマ
「音楽・イベント」を解説
エンターテイメントを作り出すため、職種に応じた専門知識や技術を学び、作品制作や企画立案のスキル、表現力を磨きます。音楽制作では、作詞・作曲・編曲などの楽曲づくりのほか、レコーディングやライブでの音響機器の操作を学びます。舞台制作では、演劇やダンスなどの演出のほか、舞台装置の使い方を学びます。楽器の製作・修理もこの分野です。
この記事で取り上げた
「レコーディングエンジニア(レコーディングミキサー)」
はこんな仕事です
録音スタジオのコントロールルームのエンジニアとして、スタジオで作られる全ての音に責任を持つ。そしてプロデューサー、ディレクター、ミュージシャンの意見を聞き、その通りの音へと味付けする。特に録音したいくつもの音源を一つの楽曲にミックスダウンして、イメージ通りに仕上げる仕事が腕の見せどころである。まずは音楽大学、音楽専門学校で音楽や録音についての専門知識を身に付け、レコード会社、音楽スタジオに就職して、現場での経験を積むことでステップアップしていく。
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