4時間のボランティアでライブイベントに参加できるらしい!?
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ボランティア活動は「誰かのために何かをしたい!」という思いから始める人が多いと思います。そこに見返りはいらないと考える人がほとんどだと思いますが、もし自分へのご褒美があれば、ボランティアに対するモチベーションもさらに上がるのではないでしょうか。
ボランティア活動をすることでライブイベントに参加できるという取り組みをしているのが、2005年に米国で誕生した「RockCorps」です。一体どのような内容なのでしょうか?
この記事をまとめると
- RockCorps誕生のきっかけは9.11。楽しみながら気軽にボランティアへ参加できる仕組みを作った
- 忙しい人もボランティアに参加できるようにしたかったのが「4時間」にこだわる理由
- RockCorpsができて15年。少しずつ社会の意識に変化が見えてきたことを実感している
「Give,Get Given(与えて、はじめて与えられる)」を合言葉にスタートしたRockCorps
2001年に米国を襲った同時多発テロ事件。この悲劇をきっかけに、より一層人と人とのつながりを大切にして地域社会づくりをしていかなければならないという考えから、RockCorpsは誕生しました。
そこで取り組んだのが、音楽を通して世の中のために何か力になりたいと考えているさまざまな人たちを地域社会とつなげることです。具体的には、4時間のボランティア活動をすることで、「セレブレーション」と呼ばれる音楽イベントに参加ができるという画期的なシステム。誰かのために貢献したら、自分にも楽しいことが待っているという仕組みは、まさに「Give,Get Given」。そこには「楽しみながら気軽に社会貢献ができる形をとれば、ボランティアが若者にとってもっと身近な存在になるのでは」という深い思いが込められているのです。
日本に初めてRockCorpsが登場したのは2014年。東日本大震災で被害を受けた地域、特に福島の復興を目的に始まりました。日本では「RockCorps supported by JT 2018」と題し、今年9月1日に第5回となるセレブレーションが千葉県・幕張メッセで開催予定。高橋みなみさんやロックバンドのBLUE ENCOUNT、イギリスのエレクトロポップの歌姫 エリー・ゴールディングなど、国内外のアーティストの出演が決定しています。
「4時間」のボランティアにこだわった理由とは?
今回はRockCorpsの創立者でCEOのスティーブン・グリーン氏に、RockCorps設立のきっかけやボランティアに対する思い、日本の若い世代に期待することなど、とても興味深い話を伺うことができました。
―― 9.11(アメリカ同時多発テロ)をきっかけにRockCorpsが誕生したと伺いました。
テロが起きた日、私はニューヨークにいました。テロの後はニューヨークの街は静けさに包まれてしま
いましたが、レストランや路上など、街のいたるところで見知らぬ人同士が声を掛け合う姿がありました。ニューヨークでこのような光景を見たのは初めてで、これが本来、人間が他の人とつながっていたいと感じている本質のところだと気付きました。
ただ、悲劇がないと人々がつながれないのかと思うとそれはあまりにも悲しすぎるので、何か違う形で人と人とのつながりを見つけたいと思いました。それがRockCorps誕生のきっかけです。
―― 活動を開始した当初は、どのように協力団体を集めたのですか?
最初はとても難しかったです。なぜなら今までにない新しいコンセプトを持った取り組みだったからです。しかし、RockCorpsの枠組みに入れば、これまでボランティア活動に参加したことがなかった人たちを多く集めることができるので、そういったメリットを説明すると理解してもらえました。今は設立当時に比べると、ずいぶん理解をしてもらえる規模になってきましたね。
もう一つはボランティア活動を主宰するNPOの人たちも、ロックンロール精神のようなものにどこか憧れている部分があり、協力につながったと思います。エンターテインメントと社会貢献はかけ離れたところにあると思われがちですが、私はそれを一つに結びつけようと提示してきました。
―― ボランティアの時間が「4時間」というのは、何か意味があるのでしょうか?
4時間にはこだわりがあります。まず私から一つ伝えたいメッセージは、「何か社会貢献をしようと考えたときに、人生を変える必要ないんだよ」ということです。
4時間というのは1日にも満たない時間です。ボランティアへ行ったとしても、4時間であれば同じ日に友達と遊ぶ予定を入れたり、家族と食事に行ったりすることもできます。つまり忙しい毎日を送っている人でも、ボランティアに取り組みやすくするためにこだわったのが「4時間」なのです。
―― 4時間にしたことのメリットは大きかったですか?
すごくシンプルですし、初めてボランティアに参加する人も多いので、「4時間だったらできるかもしれない」と参加しやすい環境を作ったことがよい方向に機能していると思います。日本ではあまりなじみのない言い方かもしれませんが、私たちは「夜遊びするよりも短い時間で、いいことができるよ」と話しています。
いつの時代も必要なのはコミュニケーション力! それが培われるのがボランティア活動
―― 世界各国で活動をしていらっしゃいますが、高校生がボランティアに参加している割合が高い国はどこですか?
英国・ロンドンは高校生の参加者が多いですね。ロンドンは高校生が無料でバスや地下鉄などの公共交通機関を利用することができ、移動するのにお金がかからないので、よりボランティアに参加しやすい環境なのかもしれません。
―― 世界各国で、ボランティアに対する意識の違いを感じることはありますか?
一度ボランティア活動に参加してしまえば、その時に感じる達成感や充実感は、どの国も同じだと思います。しかしボランティアに参加しようと決めるプロセスには違いがあるように思います。
例えばニューヨークで100人のボランティアが必要だと考えた場合、165人集めなければいけない。これはキャンセルが多いということです。同じく100人のボランティアが必要な場合、ロンドンなら140人、パリなら120人を集める必要があり、国によって違いが出ます。日本にいたってはキャンセルがほとんどありませんから、100人必要なら100人集めればいいと思っています。
あとは学校教育も影響していると思います。米国では学校でボランティア活動を行いますし、ボランティアはするものだと教えられます。そのため、ボランティアがより身近な存在であり、生活の一部と考える人もいるでしょう。しかし南アフリカ共和国やメキシコではそういう文化はありません。社会でどのような教育をされてきたかによって、若者のボランティア意識に違いがでると思います。
ただひとつ言えることは、どの国でも、RockCorpsを通じて実際にボランティア活動をしてもらうと、、みんな心の中に何か熱いものを感じて帰っていってくれるということです。ボランティア活動によって何を感じるのかということは、国に関係なく共通のものだと思います。
―― RockCorpsが設立されて15年たちますが、「ボランティアを若者のライフスタイルの一部に!」という設立当初の目的は達成されつつありますか?
まだ達成はされていません。もちろん15年で成し遂げられるものではない目標ですし、おそらく一生かけても終わらないでしょう。もっと長い年月がかかると思います。
ただ、この15年間で社会は大きく変化しました。日本においても、例えば人生を見直したときに、仕事だけではなく家族の時間もあり、地域とのつながりもあり、いろいろなことにバランスよく時間を使う動きにシフトしてきていると思います。
また、企業にも何か社会にとっていいことをしなければいけないというマインドが生まれてきていると思います。これからはそういう社会的な意義のある会社でなければ人材が集まらないという動きがあるので、そういう意味でも変換期にあるのだなと感じています。
日本企業で役職についている私の知り合いは、最近評価シートに「どれだけボランティアをやっているか」「社会貢献活動をやっているか」という項目を加えたと言っていました。それだけでも大きな変化だと思います。
もし私が、もっと社会に関わりたいという思いがある若者と、会社としてもっと社会に貢献したいと思っている企業をつなぐバトンになっていれば、私自身、ゴールに向かっているんだなと感じることができます。
―― グリーンさんご自身が、日本の若者に期待していることは何ですか?
AIがいろいろな仕事をできるようになり、今ある仕事が将来なくなるかもしれないといわれています。それならばどんなスキルを身に付けたらいいのか、不安に思っている高校生も少なくないでしょう。
しかし私が伝えたいのは、どんな時代になったとしても必ず持っていなければいけないスキルがあるということです。それは、コミュニケーション力です。チームの中でどうやって働くか、プロジェクトを成功させるためにどのようなプランニングをしなければならないか、他の人に対してどういう感情で向き合ったらいいかなど、これらのスキルはボランティアを通じて学ぶことができると考えています。こうしたスキルは、本を読んだり授業で教えられるものではないからです。
「忙しいから」とボランティアへの参加を躊躇する高校生もいるかもしれません。しかし友達とごはんに行くのに何時間かかるとか、家族で遊びに行くのにどのぐらいの時間がかかるとか、そうしたことと比較すれば、意外にボランティアは大変なことではないと思います。だから日本の高校生にもぜひボランティアに参加をしてもらいたいですし、私ももっと身近にボランティアを感じてもらえるよう、伝えていけたらいいなと思っています。
RockCorpsが日本で始まったきっかけは東日本大震災。「福島は常に私のホームです」と笑顔でおっしゃったグリーンさんがとても印象的でした。
4時間のボランティア活動を経て参加できる「セレブレーション」は、ともにボランティアで汗を流した仲間同士、同窓会のような雰囲気になるのだそうです。今年からボランティア参加年齢が引き下げられたこともあり、高校生も参加しやすくなりました。音楽好きな人はぜひこの機会に4時間のボランティアで汗を流し、セレブレーションに参加してみてはいかがですか?
【応募はこちらから!】
▼ RockCorps supported by JT 2018
【取材協力】
「Rock Corps」共同創設者、最高責任者(CEO)
スティーブン・グリーン
公式HP: https://rockcorps.yahoo.co.jp/2018/
メイン画像 ©RockCorps supported by JT