【シゴトを知ろう】キュレーター ~番外編~
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独自の視点で情報を集め分かりやすく紹介したキュレーションメディアが話題になったこともあり、「キュレーター」という言葉が近年広く認知されてきています。インターネットの世界では、さまざまな情報を選択・編集する人を表すことが多いのですが、本来は博物館や美術館で、資料の収集保存、調査研究、展示などインターネットに限らず普及事業に携わる人のことを指します。
学芸員の資格を持ち、横浜市歴史博物館で江戸時代を専門とするキュレーターとして働いている小林紀子さんに、仕事の魅力などについて教えていただきました。
この記事をまとめると
- お客さまの反応が次の展示作りにつながる。いい評価も悪い評価も糧となる
- 旧家での古文書調査、先輩主催のミニ古文書講座で古文書解読力アップ!
- 自分の専門分野以外のキュレーターと触れ合うことも大切
批判であってもお客さまからいただく意見は貴重
――仕事を通して感じているキュレーターの魅力を教えてください。
展示会やワークショップなど企画したものが形になることが楽しいです。内容が良くても悪くてもお客さまに反応していただけるからです。キュレーター(学芸員)の主観が反映される企画も多く、お客さまから批判されることもありますが、いいものを提供していくためには貴重なご意見なので受け止めます。ご批判をいただいた翌年に、「今年は去年より面白かった」と言っていただけるとうれしいですし、企画が形になってそれに対する反応をもらえること自体がうれしいですね。
また、小さなお子さんからご年配の方までさまざまな年代の方たちとお話ができるのも魅力です。
――仕事をする場所で人気が高いのはどこでしょうか?
大学や大学院での専攻科目によって就職先が決まる仕事なので、一概にはいえません。しかし、現在私が非常勤講師として博物館に関する講義を行っている大学では、「美術館で働きたい」「美術館の学芸員になりたい」と言う学生が毎年一定数います。
キュレーター(学芸員)を目指す人は、まず博物館や美術館などに足を運んでほしいです。行き先が思い浮かばなければ、とりあえずメディアで取り上げられているような有名な展覧会でもいいと思います。
また、自分の住んでいる地域にどんな施設があるのかを調べ、大きいところだけではなく小さい美術館や博物館、歴史資料館なども見て回って、自分がやりたいことを探すのも大切です。
古文書を読むためには大学の授業以外の勉強も必要
――古文書はどのようにして読めるようになりましたか?
大学で履修した学芸員課程で学んだのは、学芸員として知っておくべき基礎的な知識や資料の扱い方などでした。専攻の日本史学では、古文書読解の授業はありましたが、週1回でした。大学によってカリキュラムは違ってくると思いますが、大学の授業を受けただけでは、古文書をすらすら読めるようにはなることは難しいと思います。
大学生・大学院生の時、夏休みに、ゼミの合宿で旧家へ伺って古文書を調査させていただきました。先生と院生、学部の3~4年生というグループで、数日間旧家の近くに泊まって古文書の整理をしたり分類をしたりしました。これで鍛えられましたね。あとは、大学の昼休みに先輩によるミニ古文書講座を受けたこともあります。古文書を読めるようになるために、いろいろなことを積み重ねました。
――これまでに興味深かった古文書について教えてください。
江戸時代に横浜に陣屋を構えた唯一の大名である武州(ぶしゅう)金沢藩の目付の仕事について記した日記が面白かったです。1つの藩の詳しい動向はなかなか分からないので、とても興味深かったですね。
公用日記なので、1人ではなく3人ぐらいの人が順番で書いています。そのため、筆跡や書き方も違うんですよ。読むのに慣れるまでは大変でしたが、金沢藩の年中行事や年始の挨拶、鏡開きなど横浜金沢の昔のことを知ることができましたし、西洋の銃隊調練を取り入れるなどといった改革に関する記述もあり、面白かったです。
日記は1868年(慶応4年=明治元年)に書かれたものです。2016年度に2年計画で解読を始め、今年全て解読されて出版されます。2018年はちょうど明治150年の年でもあるので感慨深いです。
展覧会の情報収集のために、真夏のお祭りに通いつめたことも
――業界で横のつながりはありますか?
神奈川県の博物館関係研修を通じて、県内の施設で働くキュレーター(学芸員)の方たちとのつながりがあります。博物館の他、美術館や動物園、水族館、植物園といった博物館法で定められている施設のキュレーター(学芸員)の方たちと交流すると、普段私が関わっている分野とは全く違う話が聞けてとても刺激になります。私が接する情報はどうしても江戸時代が中心になってしまいますので、他分野の同業の方たちと触れ合う機会は大切です。
動物園や水族館などでは、働く上で学芸員資格がいらない場合があります。そのような施設では、大学でどんなことを学んだかが大事になってくるようです。
――これまでの仕事の中で、特に思い出に残っていることを教えてください。
私が最初に担当した、横浜の神代神楽に関する企画展が印象に残っています。横浜には神代神楽(*)を伝承している団体が3つあり、その全てを取材しました。お祭りを通して取材を行うので、夏の暑い中通いつめて、人混みに入り込んでいろいろな方たちから話を伺った思い出があります。
企画展に伴い行った神代神楽の公演には、180人入る会場に600人も訪れてとても盛り上がりました。若い人も関心を持っているのが意外でしたね。お客さまだけではなく神楽を伝えている方からも、神代神楽をきちんと取材して企画展を実施できたことについて感謝いただきました。
*神代神楽(じんだいかぐら):お面をつけて衣装をまとい日本の神話を舞う伝統芸能のこと。
キュレーターは、博物館や美術館だけでなく、科学館、動物園、水族館といった幅広い領域で活躍している職業です。博物館や美術館に所属して働く場合、日本ではキュレーターと学芸員が同じように扱われる場合が多いので、基本的には大学で必要な科目を学び学芸員の資格を取得しなければなりませんが、動物園や水族館の飼育担当などになりたい場合は、必ずしも資格が求められるわけではないようです。
専門分野や働きたい施設によって進路が変わってくるので、キュレーターに興味がある人はどのような勉強が必要になるのか、事前にしっかりとリサーチしておきましょう。
【profile】横浜市歴史博物館 学芸員 小林紀子
横浜市歴史博物館 https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/
この記事のテーマ
「デザイン・芸術・写真」を解説
デザインは、本や雑誌、広告など印刷物のデザイン、雑貨、玩具、パッケージなどの商品デザイン、伝統工芸や日用品などの装飾デザインといった分野があり、学校では専門知識や道具、機器を使いこなす技術を学びます。アートや写真を仕事にする場合、学校で基礎的な知識や技術を身につけ、学外での実践を通して経験やセンスを磨きます。
この記事で取り上げた
「キュレーター」
はこんな仕事です
美術品や芸術作品を鑑定し、展示品などの企画選定をする。美術館などでは作品の保管・管理も行う。欧米では仕事の範囲が限られているが、日本では学芸員のことをキュレーターということが多く、美術館や博物館に関わるあらゆる業務を行う。学芸員になるには文部科学省の国家資格が必要である。一方、フリーランスで活動する場合は資格が不要だが、信頼を得て認められるまでは実績の積み重ねが必要。美術品に対する知識のみならず、企画力や交渉力、管理能力、さらに空間を構成するための表現力も重要となる専門職である。
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