【シゴトを知ろう】海上自衛官 ~番外編~

乗り物の中でも最大級の大きさを誇る戦艦や空母を目の前にして圧倒された経験を持つ人もいるのではないでしょうか。日本の安全を守るために、その戦艦や空母を扱う職業が海上自衛官です。
海上自衛隊横須賀地方総監部(神奈川県)に配備されている護衛艦「はたかぜ」の魚雷員として日々訓練を行っている澤田貴郁(たかふみ)さんに、海上自衛官の生活や習慣についてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 海上自衛隊の職種は30以上! 配属された職種で定年まで働くのが基本
- 毎週金曜日のお昼は、みんなが大好きなあのメニュー
- 泳げなくても海上自衛官になることは可能だった!
艦艇の色は空と海の色を足して平均した色。国によって異なる
――海上自衛隊には多くの職種があるそうですが、希望する職種に就けるのでしょうか?
海上自衛隊には、航空部隊を含めると30以上の職種があります。入隊してすぐに教育隊で訓練を受けて自衛隊の基礎を学ぶのですが、そこで適性検査があり希望職種も聞かれます。そして、適性検査の結果に本人の希望を加味して職種が決まります。
人気があるのは射撃員と電測員(*1)です。私は掃海機雷員(*2)を第1希望にしましたが、実際には第3希望の魚雷員(*3)になりました。海上自衛隊では、一度決まった職種を定年まで続けるのが基本です。護衛艦に乗る場合も、ずっと同じ護衛艦に乗り続けます。
*1 電測員:護衛艦、潜水艦などに乗り組み、任務に必要な情報をレーダーやコンピューターを用いて収集したりする。
*2 掃海機雷員:掃海艦などに乗り組み、海に投下されている機雷を処分したりする。
*3 魚雷員:護衛艦や潜水艦に乗り組み、魚雷で潜水艦を攻撃したりする。
――航空自衛隊と海上自衛隊の航空部隊とは何が違うのでしょうか?
航空自衛隊にある航空機は戦闘機が主体です。それに対して、海上自衛隊の航空機は哨戒機(しょうかいき)、救難飛行機、掃海・輸送機が主体となります。哨戒機とは、簡単にいうと洋上をパトロールするための航空機です。平時から日本の領海上空を飛んで、怪しい潜水艦がいないかどうか監視しています。
――米軍の艦艇がたくさん停泊していますが、海上自衛隊の艦艇とはだいぶ色が違いますね。
実は、外舷(*4)の色は国によって違います。各国の空と海の色を足して平均した色に塗られています。これはカモフラージュのためで、海の上で目立たないようにするのが目的です。もちろん、自国の艦艇が分かりやすいようにという意味もあります。海上自衛隊の艦艇は、南極観測船「しらせ」を除いて全て同じ色に塗られています。
ちなみに外舷の色は訓令(行政機関からの命令)によって定められおり、基本的に露天甲板(風雨にさらされる甲板部分)は暗灰色、その他の船体外部は灰色で塗ることになっています。厳密にいうと、外舷と甲板とは色が違うことになりますね。なお、塗装が剥げたりさびが出たりした場合は、海上自衛官が塗り直したりさびを落としたりしています。
*4 外舷(がいげん):船の外側のこと。
航行中は運動不足になりがち。夕食は低カロリーな魚料理が定番
――航行している時の食事は誰が作るのでしょうか?
護衛艦のような大きな船には専門の調理員がいます。停泊時は昼食のみ、航行している時は3食全て船内で食べます。昼食は肉料理、夕食は魚料理のことが多いですね。航行していると隊員の運動量が少なくなり肥満気味の隊員が増える傾向があるため、夕食はカロリーの低い魚料理が出されるようになりました。ちなみに、かつては当直員に夜食が出されていましたが、最近ではそれも少なくなったようです。
――海上自衛隊ならではの習慣があれば教えてください。
毎週金曜日の昼食はどの船でも必ずカレーです。通常の食事と同様、護衛艦の場合は調理員が作ります。それぞれの船でカレーのレシピは異なっており、味も違うそうです。「はたかぜ」のカレーはおいしいと評判なんですよ(笑)。
船の中で火災が発生することを避けるため、調理室で火は使いません。電気と蒸気を使って調理します。ガスを使うよりもその方が安全性が高いからです。
――海上自衛隊で使われている業界用語はありますか?
「上陸する」は、単に艦艇から陸に上がることを意味するだけではなく、自宅に戻る、街に出ることを表しています。つまり、艦艇から外に出てプライベートな時間を過ごすことを「上陸する」と言うのです。また、「帰る」とは艦艇に戻ること(朝、出勤してくること)を指します。護衛艦こそが「家」であることをイメージしています。
あとは、陸にある建物や隊舎内の広い場所を「甲板」と言います。船の上の甲板も「甲板」、陸の建物の中にある廊下など甲板のように平らで広い場所は全て「甲板」です。
私の中では、これらの言葉が業界用語という意識はもうすっかり無くなっていました(笑)。
護衛艦では大人数が一緒に生活するため、居住スペースは最低限
――護衛艦の中の居住スペースはどのようになっているのでしょうか?
護衛艦自体は大きいのですが、居住空間は意外と狭いです。「はたかぜ」には約180人の自衛隊員が乗っていますので、寝る場所は通常3段ベッドです。私物はベッドの横にあるロッカーに入れます。とても小さいのですが、そこに私物を全部入れなければいけません。お風呂にはシャワーと浴槽があります。お風呂の入り口にちょっとしたくつろぎのスペースがあって、テレビが見られるようになっています。
――海上自衛官になるには、やはり泳げないとだめでしょうか?
そう思っている人がとても多いのですが、入隊時に泳げなくても問題ありません。入隊してから、泳げるようになるまでみっちりと指導してもらえます(笑)。実は私も自衛隊に入るまで泳げなかったのですが、入隊して最初の教育期間(6カ月)で泳げるようになりました。早い人だと1カ月くらいで泳げるようになりますよ。
海上自衛隊では1年に1回体力測定があり、その際にクロールと平泳ぎで各50m泳ぎます。規定のタイム以内で泳ぐように指導されますが、それも問題なくクリアしています。
自衛官と聞くと堅いイメージがありましたが、食事や居住スペースのお話を伺って少し親近感が湧きました。
海上自衛官には多くの職種があるため、職種に合わせて教育を受けることになります。幹部候補生、航空学生、自衛官候補生などさまざまなコースがあり、それぞれ応募の条件が異なります。海上自衛官に興味がある人は、自分に合った職種はどれなのかを調べ、進路を選択してみてはいかがでしょうか。
【profile】海上自衛隊横須賀地方総監部 護衛艦「はたかぜ」2等海曹 魚雷員 澤田貴郁(さわだ たかふみ)
海上自衛隊 横須賀地方隊 http://www.mod.go.jp/msdf/yokosuka/index.html
この記事のテーマ
「公務員・政治・法律」を解説
公務員採用試験などの対策や司法書士など法律関係の資格取得のための学びが中心で、官公庁や行政機関の採用試験科目を段階的に学び、各種試験の合格を目指します。将来は公務員として行政に携わるほか、政治活動を支える政党職員などの仕事が考えられます。弁護士や検察官など法曹の道へ進みたい場合は、大学や法科大学院への進学が必須です。
この記事で取り上げた
「海上自衛官」
はこんな仕事です
日本の安全を守る各自衛隊の中でも、海上の防衛や警備を担っているのが、海上自衛隊に所属する海上自衛官。海上保安庁と連携して領海を監視し、領海への外国船や工作船の侵入を防ぎ、海に囲まれた島国・日本の領土と海上の日本商船・漁船を守っている。「海」と名が付くことで、艦艇や潜水艦のイメージが強いが、海上任務にあたる航空機やヘリコプターの部隊、陸上で警戒や後方支援にあたる地上部隊も、重要な役割を担っている。
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