【シゴトを知ろう】海事代理士 編
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日本は海に囲まれているため、船舶を利用した輸送が欠かせません。それに伴い、船舶や海上運送、入出港などに関わる登記や申請、届け出手続きが必要となります。海や船舶に関係する人たちの代わりにそのような手続きに対応し、「海の法律家」と呼ばれているのが海事代理士です。
別の仕事を経験しながら高校時代の夢を実現させた松本誠さんに、仕事内容や海事代理士を目指したきっかけなどについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 仕事じゃないと体験できない!? 珍しい船に乗れたり新しい船の試運転に立ち会えたりできる
- 高校生のときに読んだ本がきっかけで海事代理士に興味を持った
- 海事代理士は日本の経済活動の一端を担う重要な職業
船の停泊は半日から1日。効率を意識して仕事を進める
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。
海事代理士は、海事関係者に代わって海事法令に基づく各種の手続きを行っています。私の会社で多いのは、船舶の売買や登記、船舶検認手続きの立ち会い、証書類の更新や書き換え、海難対応、船員の入出港に関わる手続きです。船舶免許の教習所からの依頼で船舶免許の手続きを行うこともあります。海事に関する許認可手続きの仕事も多く、日本の船、外国の船いずれにも対応しています。
<一日のスケジュール>
08:30 出社、メールチェック
10:00 クライアント(依頼主)と打ち合わせ
11:00 書類作成・チェック
12:00 昼食
13:00 運輸局や法務局などの担当者と打ち合わせ、申請手続き
15:00 書類の引き渡しのため訪船
17:00 メールチェックなどの事務作業
18:00 帰宅
※検査の立ち会いなどで1日中船の中にいることもあれば、終日外回りのこともある。
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
外国の珍しい船やとてつもなく大きな船に乗れること、日本各地の港に行けること、そして、新しく船を登録する際に行われる船舶試運転に立ち会えることは大変楽しいです。
また、外国の船でその国の料理を食べさせてもらったり、外国人の船員さんと会話を楽しんだりするひと時は、仕事の時間であってもリラックスできます。
海事代理士の業務でいえば、時間的な制約が非常に厳しい中で船舶に関するさまざまな手続きがうまくいって認可が下り、クライアントに感謝されたときはとてもやりがいを感じます。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
多くの船は、港に入ると半日~1日しか停泊しません。その短い時間の中でもろもろの手続きを行わないといけないので大変です。仕事を依頼された船がいつ入港するかは分かっているので事前に役所と打ち合わせをして、書類を作って船に持っていくようにしています。しかし、時には手続きが煩雑で出港ギリギリになることもあります。
大きな港で船員さんが下船、乗船する場合は毎回、「雇い止め・雇い入れ」と呼ばれる手続きが必要となります。日本人でも外国人でもそれは同じです。船員さんが港で船を下りた後、再び船に戻っているかどうかを調べる検査もあります。さらに、船の運航や作業に必要な免許を持っているかについても、寄港したそれぞれの港で確認します。
クライアントから、「今、荷物を降ろしているので、その間に急いで検査をしてください」と頼まれることもあります。そのようなときは、数時間以内で検査や手続きを終えなくてはならないので大変ですね。具体的には船の中にある機械が故障した際に修理して、その機械の修理がうまくいっているか、正しく作動するかを保証するための検査です。
船の出港が遅れてしまうと、船に積んでいる荷物の到着が遅れてしまう可能性があります。そうなると船を運航している会社が損害賠償を求められる場合もあるので、絶対に遅れないようにしなくてはいけません。
飲食業界や不動産業界を経て、夢だった海事代理士になった
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
原子力関係、バーテンダー、不動産関係の仕事をしながら、海事代理士の資格を取りました。海事代理士を目指したきっかけは、高校生の時に学校の図書館で資格に関する本を見て、海事代理士という資格があると知ったことです。海が大好きだったので興味を持ちました。
誰かから仕事を引き継ぐのではなく、資格を取って新規に海事代理士の事務所を立ち上げた場合、すぐに仕事がくるわけではありません。私も資格を取って数年間はほとんど仕事がありませんでしたが、不動産関係の営業の仕事をしながら海事代理士の仕事を手伝ったりイベントを開催したりすることで、少しずつ仕事をいただけるようになりました。
海事代理士の同期のメンバーと一緒に海事に関する相談会を開催したこともあります。当時は業界のことがよく分かっておらず、船の相談会なのに海から離れた場所で行ったためか、ほとんど人が来ませんでした(笑)。
Q5. この仕事を就くために何を学びましたか?
以前経験した仕事で役に立っていることがいろいろとあります。バーテンダー時代には、会話の接点を見つけるテクニックなどの接客術を学びましたし、不動産会社の法務部で働いていた時に教えてもらった手続き書類の扱い方や契約書の書き方、電話対応の仕方などは、海事代理士の仕事をする上でとても役に立っています。
国家資格である海事代理士の筆記試験は現在18科目ありますが、私が受験した時は15科目でした。3科目増えたのは法律が変わったためです。海事代理士の資格を取ることはそれほど難しくはなく、私は半年くらいの勉強で合格しました。
ただ、海事代理士の資格を取っただけでは実際に仕事をする上で知識が不十分なので、一般社団法人日本海事代理士会に入って研修を受けたり、勉強会に参加したりしました。講習は今でも毎年受けています。また、飲み会などの場で多くの先輩方に手続きについて聞くこともあります。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
高校生のときに図書館で資格の本を見て、「海に関するこんな資格があるんだ」「資格を取れば自分で事務所を構えて仕事ができるのかな?」などと非常に興味を持ちました。もともと海の近くに住んでいたこともあって、海や外国の大きな船を見るのが好きだったんです。そして、だいぶ回り道をして、海事代理士の仕事に就くことができました。
調整力がカギ。海事代理士は役所とお客さまのクッション的存在
Q7. どういう人が海事代理士に向いていると思いますか?
パソコンと机があればできる仕事ではなく、動き回る仕事です。依頼があれば日本全国どこにでも行きますし、港に出向いて立ち会い検査をすることが頻繁にあります。アクティブな仕事なので、フットワークが軽い人じゃないと難しいでしょうね。
そして、中小企業の経営者と話すことが多いので、社交性やコミュニケーション能力のある人が向いていると思います。運輸局や法務局など役所との交渉、折衝も多いので、やり合うのではなくうまく話を進めて情報のすり合わせをしながら、お客さまにとっていい方向に話を持っていけるような調整能力がある人がいいです。
役所とお客さまの間に挟まれて、すぐにあきらめてしまうような人は向いていません。双方の衝突を和らげるクッションのような存在でもありますから、そういったことが楽しいと思える人が向いています。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。
日本における輸出入の手段は、ほぼ100%船によるものです。海事代理士は、船を経由した日本の物流を支える大切な仕事をしているので、船や海が好きな人にはぜひ、目指してほしいです。
大きなタンカーに積まれた原油などが入ってこなくなると、日本の経済活動を止めてしまうことになります。そういう意味では、海事代理士は日本の経済活動の一端を担っています。マイナーな仕事なので「初めて聞いた」という方もいると思いますが、とても重要な仕事なんですよ。
高校生の頃に抱いた夢を持ち続け、四苦八苦しながらも夢をかなえた松本さんの姿勢から学ぶことはたくさんあります。
あまり知られていませんが、海事代理士は日本の経済発展につながる輸出入に関わる船舶の手続きを担う重要な職業です。海に関わる仕事をしたい、責任のある職業に就きたいという方は、海事代理士を目指してみてはいかがでしょうか。
【profile】シーサイド海事法務事務所 代表海事代理士 松本誠
シーサイド海事法務事務所 http://www.seaside-office.com/
この記事のテーマ
「自動車・航空・船舶・鉄道・宇宙」を解説
陸・海・空の交通や物流に関わるスキルを学びます。自動車、飛行機、船舶、鉄道車両などの整備・保守や設計・開発、製造ラインや安全の管理、乗客サービスなど、身につけるべき知識や技術は職業によってさまざまで、特定の資格が求められる職業も多数あります。宇宙については、気象観測や通信を支える衛星に関わる仕事の技術などを学びます。
この記事で取り上げた
「海事代理士」
はこんな仕事です
海事代理者は、船舶を所有する人に代わり、国土交通省や都道府県などの行政機関に登録や申請といったさまざまな手続きの書類作成を行っている。ほかにも船員の海技免許の申請、海上交通の許可手続きなどの仕事を幅広く扱い、海の法律家のように呼ばれることもある。「海事代理士」は国家試験により資格を取得するが、海事法令のほか、憲法、民法、商法などの法律の知識も必要になる。行政書士事務所などで経験を積んでから独立する人もおり、事務所は港の近くに置かれていることが多い。