【シゴトを知ろう】通訳ガイド ~番外編~

2018年1月4日に通訳案内士法が改正され、通訳案内士(法改正後は全国通訳案内士)の資格を持っていなくても有償で通訳ガイドができるようになりました。この法改正は、急増する訪日外国人観光客の多様なニーズや言語などに対応することが目的です。
客室乗務員(フライトアテンダント)として8年間働いた後、モスクワ(ロシア)、ワルシャワ(ポーランド)で生活した経験を持つ通訳ガイドの相澤幸子さんに、外国人観光客と接する中で出合った文化や習慣の違い、外国人観光客に人気の場所についてお話を伺ったので紹介します。
この記事をまとめると
- 英語からタイ語まで、通訳案内士の資格が取れる言語は10種類
- 行ったことのない場所のガイドは、事前の下見や入念な台本作りで対応する
- 外国人観光客に人気なのは、日本の味に挑戦できるデパ地下のあのコーナー!
お客さまに何をどうやって案内するかが求められる
――通訳ガイドと通訳の違いについて教えてください。
よく混同されるのですが、通訳ガイドと通訳は違うんですよ。簡単にいうと、通訳は自分の意見や感情を入れず、話者の話したことをそのまま別の言語に訳します。でも、通訳ガイドはお客さまの求める言語を用いて自分の言葉を使って案内をする仕事です。つまり、シナリオ(話す内容)は自分で作ります。
――国家資格「通訳案内士」には、英語以外にどんな言語があるのでしょうか?
通訳案内士の資格には、英語の他にフランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語の9種類あります。私は英語だけですが、夫は英語とロシア語の通訳案内士の資格を持っています。夫は今は通訳ガイドの仕事はしておらず、ロシア語の翻訳の仕事をしています。
――通訳案内士の資格取得試験の内容はどのようなものなのでしょうか?
通訳案内士の第1次試験は筆記試験で、外国語、日本の歴史、日本の地理、一般常識に関して出題されます。私は2012年に英検1級を取得していたので、外国語(英語)の試験は免除されました。近年は外国語(英語)の試験が免除されるハードルが低くなり、TOEIC®Listening & Reading Testで840点以上、TOEIC®Speaking & Writing Tests、もしくはTOEIC®Speaking Testsでスピーキングが150点以上、ライティングが160点以上のいずれか1つを満たせば免除となります。日本の歴史や地理、一般常識は日本語による試験です。
第1次試験に合格すると第2次試験として面接があり、日本独特の文化や歴史など通訳ガイドの仕事に関わるようなテーマを外国語で説明するテストが行われます。
私は客室乗務員の仕事をしていた時、通訳案内士の試験に2回挑戦しても合格できませんでしたが、4年前に再チャレンジして合格できました。
下見、イラスト、台本……、通訳ガイドの仕事は準備が肝心
――最も印象に残っている通訳ガイドの仕事を教えてください。
2017年の春に行った2週間のロングツアーが一番印象に残っています。東京都内から富士山、松本(長野県)、金沢(石川県)、京都まで移動した後、広島、高野山(和歌山県)、大阪と貸切バスで回ったツアーです。関東圏だと何回もガイドしているのですが、この時は初めてガイドする場所も多かったので下見が大変でした。
閑散期には一般社団法人日本観光通訳協会が主催する研修があって、今後ツアーに組み込まれると思われる場所やお客さまが好みそうな場所が研修の地として選ばれるので、そのような機会を利用して下見に行くこともあります。
――仕事中、いつも使っているものはありますか?
観光中、お客さまの目印にしたり、建物などについて説明する際にポインターとして使用したりするリーダースティックと説明用の地図や写真ファイル、そしてネタ帳はいつも持ち歩いています。
観光地ごと、テーマごとのネタ帳は10冊になり、それに合わせた写真ファイルも用意するので準備に時間がかかります。初めて訪れる観光場所について暗記するのに苦労しています。ネタ帳にはガイドポイントや見どころ、お客さまが喜ばれるエピソードなどを書いています。
文化や習慣の違いに、知識や提案力で対応する
――さまざまな国から来たお客さまと接すると思いますが、文化や習慣が違って困ったことはありますか?
日本人とは文化や習慣が異なる方が多いため、通訳ガイドをしていて困ったことはあります。例えば、イスラム圏からいらっしゃったお客さまは宗教上の理由から豚肉が食べられません。事前に聞いていればレストランを選んでおくことができるのですが、急に対応しなくてはいけないときは大変です。どうしても食べられるものが見つからない場合は、デパ地下に行って食べられそうなものを選んでいただきます。
あとは、お祈りですね。イスラム教の方は1日に5回お祈りをしなくてはいけません。でも、イスラム教徒全員が必ず行うわけではないようで、海外に旅行中はお祈りを省略される人もいます。
また、お客さまの中にはファッションや宗教上の理由でタトゥーを入れている人が少なくありませんので、温泉や露天風呂に入ることを断られる場合があります。ですが以前に比べると、外国人のタトゥーは入浴OKという施設も増えています。
お客さまはお金を出してわざわざ通訳ガイドを頼んでいるため、当然要求は高くなります。富裕層の方が多く食事に対しても要求が高いので、満足していただくためにお店も料理もしっかりと吟味しています。
――最近、外国人観光客に人気がある場所はどこでしょうか?
外国人が喜ぶ場所と日本人の好む場所は少し違います。東京都内だと明治神宮や浅草、秋葉原などが定番ですが、それ以外ではデパ地下が人気です。試食コーナーがあるからです(笑)。最初は遠慮されますが、一緒に行って「食べてみませんか?」と促すと挑戦してくださるんですよ。初めて食べる日本の食に感動される人も多いですね。ラーメンは人気があり、特にとんこつラーメンが好きなようです。
あとは、体験できる場所が喜ばれます。おすし作りができる店がとても人気ですし、忍者を体験したり着物を着たりするような日本の文化にじかに触れられるようなものが大変好まれます。温泉も人気がありますが、人前で裸になることに抵抗を持たれる人たちもいらっしゃいますので、その場合は露天風呂付き客室を提案すると喜ばれます。
通訳案内士の資格取得試験は、最も受験者数が多い英語で合格率20%程度と簡単な試験ではありません。そして、通訳ガイドの仕事には入念な事前準備や機転を利かせる力が欠かせないので、大変な面もあります。しかし、だからこそ日本を訪れた外国人観光客に楽しい時間を提供し、日本のイメージアップに貢献できる職業だといえるでしょう。
通訳案内士の資格には10種類の言語があります。得意な言語があり少しでも通訳ガイドに興味がある人は、外国人から見た日本の魅力について考えてみることから始めるといいかもしれませんね。
【profile】通訳案内士 相澤幸子
この記事のテーマ
「語学・国際」を解説
外国語を自在に使い、海外との良好なコミュニケーションを図ります。今後、社会のグローバル化が進む中で通訳や翻訳の仕事は、ビジネスや文化交流などあらゆる場面で求められてきます。この分野の仕事をめざすには、国際情勢などの知識や情報を収集する好奇心、語学力向上の努力が常に必要です。
この記事で取り上げた
「通訳ガイド」
はこんな仕事です
海外で訪れたい国として人気の高い日本。外国人観光客を対象に案内や旅のサポートを行うのが、通訳ガイドの主な仕事となる。外国語の会話能力は必須で、特に必要性が高いのは英語である。旅行者が興味・関心を示す日本文化や歴史、社会背景などに精通しておくことが大切だ。飲食、交通、両替などのアドバイスから旅行中のトラブル対応まで、幅広くこなせる応用力と、おもてなしの精神が欠かせない。日本政府観光局が認める「通訳案内士」という資格が普及し、外国人観光客の増加に伴って活躍の場が広がりつつある。
-
PICK UP! 「通訳ガイド」について学べる学校
-
語学・国際について学べる学校

