【シゴトを知ろう】消防官 ~番外編~

新小学1年生(男の子)の将来就きたい職業ランキング4位(2017年版 新小学1年生の「将来就きたい職業」・クラレ調べ)に入るなど、消防官は小さい男の子が憧れる職業。東京消防庁滝野川消防署・田端出張所の消防士・山田昇吾さんもその一人でした。
2度目の挑戦で夢をかなえた山田さんに、消防官採用試験に合格後全員が入る消防学校(職員研修所)での訓練や新人消防官とベテラン消防官の違いなどについてお話を伺ったので、番外編として紹介します。
この記事をまとめると
- 消防官、それとも消防士? 普段何気なく使っている名称の違いを解説
- 消防車は常にピカピカ! 点検・メンテナンスを欠かさず出場に備える
- 40kgの装備で階段を駆け上がる。消防学校では実践に即した訓練が行われている
昇任試験は年1回。階級によって上下関係が決まる
――「消防士」と「消防官」の名称の違いについて教えてください。
消防士と消防官は一般的に同じ意味で使われることが多いようですが、実は「消防士」は職業の名称ではなく、10ある消防官の階級のうち最も下位の階級の名称です。また、東京消防庁では「消防官採用試験」と告示していますが「消防官」も俗称に近いもので、正式には「消防吏員」といいます。
消防官の採用試験合格後に消防士として任命されて、消防学校で消防活動などに関わる知識を学び、さまざまな訓練を受けます。
――消防官の世界は上下関係が厳しいのでしょうか?
採用された時の期生によって先輩、後輩が決まります。一般の会社と同じように、年下の上司や年上の部下もよくあることです。階級が上位の人が隊長となり、命がけの災害現場で活動する上では絶対的なものとなります。しかし、24時間一緒に勤務する仲間達です。談笑したり、和気あいあいとした場面もあります。ある種、家族のような関係ですね。
毎年1回、昇進を決める昇任試験が行われています。筆記試験の成績だけではなく、日頃の勤務成績も合否の判定要素となります。この時は、上司や先輩などが試験のアドバイスをしてくれるので、効率良く勉強できます。
――消防活動以外の消防の仕事について教えてください。
火災の後、出火原因や火元を調べることも大事な仕事です。火災に遭った人の罹災(りさい)規模を証明して、火災保険の手続きなどをしていただくのに必要なことです。火災原因を特定することは、今後の火災予防を呼びかけるためにも大切です。
また、火災現場では警察が犯罪捜査のために鑑識活動を行いますので、合同で仕事をしています。
迅速に出場するために使うのは、すべり棒ではなく階段
――山田さんが出場する際に乗る消防車はどんなタイプでしょうか?
「消防車」と呼ばれる車両にはポンプ車やはしご車、化学車などがあり、私が乗っているのは最も一般的な消防車であるポンプ車です。
ポンプ車には、水を積んだ車両(現場に到着後すぐに消火活動が可能)と積んでいない車両があります。私が普段乗っているのは後者で、現場周辺にある消火栓にホースをつないで水を送り出します。
――消防車がピカピカですが、毎日洗っているのでしょうか?
消防車は隊員全員で毎日きれいにしています。これは消防署の慣習ですね。車両をきれいにして小さな不具合を見つけやすくするとともに、少しでも長持ちさせるためです。
車両のメンテナンスは主に機関員(運転手)が行っていて、毎朝の交替時に異常や気になることについて引き継ぎをし、不具合があれば東京消防庁の工場で整備します。毎日の点検は隊員が担当していて、私はホースやライトなどの資器材を点検します。
――消防官が出場する時は「すべり棒」で降りてくるイメージがありますが、現在も使われていますか?
今はもうほとんど使われていませんが、古い消防署には残っているところもあります。
実は、車庫に降りてくる時間をすべり棒と階段で比べてみたところ、それほど違いがなかったんです。すべり棒を使った場合、隊員が降り切らないうちに次の隊員が降りてきてぶつかってけがをすることがあったり、仮眠中に出場するときに危険が大きかったりするので、今は階段を使っています。
厳しい訓練に耐えられる体力と気力が必須
――消防学校の訓練で大変だったことは何でしょうか?
消防学校ではさまざまな訓練を行いますが、特に大変だったのは重い資器材を持って走る訓練でした。資器材とは暗い場所を照らすライトと、ライトの電源となる発電機のことで、合わせて約20kgになります。消防活動の際に身に着ける防火衣一式も20kgくらいあるため、合計で40kgもの重さになるんです。この装備で真夏の炎天下を走る訓練が一番つらかったですね。
実際に火災現場で活動に当たる時は、この状態でビルの4、5階まで階段で上がっていくこともあります。消防学校での訓練は非常にきつかったのですが、厳しい訓練は仲間意識を強くしてくれるので、みんなで励まし合って乗り切ることができました。
――新人消防官とベテラン消防官の違いはどんなところにありますか?
火災の規模や燃え方、出火の原因や建物の構造、救出すべき人はいるのか、いるとすればその人数、大人か子どもかなど、火災の現場は毎回違います。
そのため、消防学校ではあらゆるパターンの火災に備えて過酷な訓練を行い消防活動に関する知識や技術を身に付けるのですが、それでも新人の頃は、いざ現場に出てみると自分がどのように動けばいいのか分からず、ぼうぜんとしてしまうことが多々ありました。
一方、ベテラン消防官の中には、20年、30年という長い期間現場に出ている人もいて、経験がとても豊富です。目に見えない危険は、経験を積まないと分からないことがたくさんあります。どう動けばいいのか分からない新人消防官に対して、はっきりとした大きな声で的確な指示を行い、これ以上進むと危ないといった部分まで新人に教えることができるのがベテラン消防官だと思います。
消防の仕事には、消火・救助以外にもいろいろな業務がありますが、災害現場では、救助を求めている人や現場にいる隊員、自分自身の命も守らなければならず、常に危険と隣り合わせの状態です。使命感だけではなく、知識や技術、経験がないと務まらない仕事だからこそ、厳しい訓練が必要なんですね。
一刻を争う災害現場では、チームによる連携が求められます。消防官になりたいと考えている人は、部活や学校行事などの集団行動を通して協調性を養っておくといいかもしれません。
【profile】東京消防庁滝野川消防署・田端出張所 消防士 山田昇吾
東京消防庁滝野川消防署 http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-takinogawa/
取材協力:東京消防庁
●参照URL
http://www.kuraray.co.jp/enquete/occupation/2017/boys.html
この記事のテーマ
「公務員・政治・法律」を解説
公務員は、国や地方自治体の行政に携わり、よりよい地域、町づくりを支える仕事です。政治に関しては政党の活動を支える政党職員、法律では弁護士や検察官などの仕事もあります。これらの仕事に就くには、公務員採用試験、司法試験など関連する資格を取得し、官公庁や行政機関の採用試験を通過することが必要です。
この記事で取り上げた
「消防官」
はこんな仕事です
火災現場などで消火活動をし、人命救助を行うとともに、防災活動に務める仕事だ。消火することで人や街の安全を守る他、直接火災現場に飛び込み、人命救助にあたる。火を消す以外にも、防火・防災活動を普及する活動を行ったり、ビルやマンションなどの消防設備を点検したりする。火災を知らせる出場指令がない場合も、勤務中は入念に装備や車両の点検を行い、消火や救助の訓練を常に積んでおく。火災や災害はいつ起こるか分からないため、24時間交代制での勤務となる。
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