卒業しても、書くことから逃げられない! 今日から始めたい「書くこと貯金」
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2021年1月から、現在のセンター試験に代わり大学入学共通テスト(新テスト)が始まります。センター試験と大きく異なるのは、記述式の問題が出題されること。どういう勉強をすればいいのか戸惑っている人も多いことでしょう。また、AO入試や一般入試でも小論文を出題する大学が多く、皆さんの「文章で表現する力」が問われているといえます。
そこで今回、長年にわたり教壇に立って国語を教え、現在は全国高等学校国語教育研究連合会の会長を務める佐藤和彦先生に、「文章で表現する力」をつける秘訣についてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 短文は得意、長文が苦手な高校生が増えている
- 日常的に読む習慣をつければ、書く力につながる
- 今日から「書くこと貯金」を始めよう
短文に強いけど、長文は苦手な最近の高校生
――最近の高校生の「文章で表現する力」について、先生はどのようにお考えですか?
正直言って、少し前から長文を書く力は落ちているような気がします。今の生徒たちは、短文で自分の思いを表現することはとても得意。SNSが良い例ですよね。限られた文字数で、いかにインパクトのある言葉を発信するかという点では問題なくできているのですが、長文を書くとなると様子が違ってきます。
私自身が感じたのは、新しい学年が始まる4月に生徒に作文を書かせた時です。自由なテーマで400字以上書くことを指示したのですが、最近400字をクリアできない子が増えてきました。これはどういうことかというと、字数をクリアするだけの文章表現力がないということですね。
――こうした傾向が出てきたのは、やはりSNSが原因なのでしょうか?
いえ、もっと根本の原因があると思います。小さい頃に本を読まなくなったことが大きいのではないでしょうか。昔は娯楽がなかったので、子どもは本を読んだり親御さんに読み聞かせをしてもらったりしていました。でも今は、本以外にも楽しみがたくさんあります。テレビやゲーム、インターネットを見ることもそうです。それらをすることで、単純に本を読む時間がなくなってしまったのではないでしょうか。
――学校図書館の本の貸し出し数は減っているのですか?
今の時代でもいわゆる本好きの子はいるので、そういう子たちは一定数借りているようです。ですので、冊数としてみるならそんなに大きな変化はないのかもしれませんが、個々人で当てはめてみると、読まない層は増えていると思います。
実際に東京都では、本を全く読まない生徒を減らそうという取り組みをしています。1カ月に本を全く読まない生徒を22%以下にしようと具体的な数字を掲げていますが、それほど危機感を感じているということなのかもしれません。
活字はイヤ!という人は漫画でもOK!? 日常的に読む習慣をつけよう
――読書をしないことが文章表現力の低下につながっているということですが、具体的にどうすればよいでしょうか?
まず人が書いた文章を読むということは、語彙力が増えます。知っている言葉が増えると、読むことが苦になりませんし、楽しくなります。語彙力が増えれば当然、書くときに表現する言葉の幅が広がります。
文章を読むのに手っ取り早いのは新聞ですね。今、新聞を取っている家庭が減っているようですが、新聞記事は中学3年生の義務教育修了段階の子どもが理解できるレベルで書かれているので、とてもよいと思います。朝刊のコラムなどはコンパクトにまとめられており、段落構成を追うだけでもためになります。また記事の見出しは本文を要約しているものなので、どうしてこの見出しがつけられているのかを考えるだけでも、本文を要約するコツが見えてくるかもしれません。
――今はスマホでも新聞が読める時代です。電子版でも良いのでしょうか?
できれば紙面で読むことをおすすめします。なぜかというと、ペラペラめくるだけでいろいろな記事を目にすることができるからです。全く興味がないと思っていたことでも「何だ、これ?」と目につくことがあります。興味があまりなかった分野について理解しようと記事を読むことは、読解力の向上につながると思います。
今は雑誌も電子版でたくさん読めますが、これもできれば紙版で読むほうがいいですね。ただし全く何も活字を読まないよりは、スマホなどで何かしらの文章を読むことは効果があると思います。
――どうしても活字を読みたくない場合は、どうすればいいでしょうか?
そういう人には、漫画がおすすめです。人物の動きやセリフが絵で分かるし、セリフは当然文字ですから活字を読むことになります。どうしても本を読みたくない人は、漫画を読むだけでもぜひやってみてほしいですね。
「文章で表現する力」に宝くじはない! コツコツやろう「書くこと貯金」
――2017年5月に文部科学省から大学入学共通テストの記述式モデル問題が公表されました。「高校生には難しいのでは?」と感じました。先生はどう思われますか?
私はモデル問題が難しいとは思いませんでした。
あの問題を難しいと感じるのは、現在の国語の授業は文章を読むことが中心で「文章で表現する力をつける」ことに対して向いていないからなのではと考えています。どうしても読むこと、つまりインプット中心の授業になってしまい、アウトプットに力を入れることができません。これは大学入試に合格することに基準を合わせなければいけないため、やむを得ないことといえるでしょう。
ただ、2018年に高等学校の学習指導要領が変更になります。大学入学共通テストの導入などの改革に合わせて、従来の授業とはまた違ったものになっていくのではないかと思っています。
――モデル問題が「難しい」と感じたのは、私たち大人も「インプット中心」の授業を受けてきたからなのですね。一方で「とてもいい問題だな」とも感じました。
国語という科目が「実生活に必要なもの」あるいは「社会人として必要なもの」と考えた場合、モデル問題のように、資料を読みこんだり、地図を見たり、親子の会話を通して問題点を話し合い、自分の意見を述べることこそが重要になってくると思うのです。
もう一つ、さまざまな資料を読み込んで問題を解く方式は、グローバル化を意識してのことです。今の子どもたちが大人になって社会に出る頃、世界のビジネスシーンではいろいろな資料を読んで判断をすることが当たり前となるでしょう。それに対応できるように考えられていると思います。
――そうなると、ますます書くことに力を入れる必要がありそうですね。書くことが好きになるにはどうしたらいいのでしょうか?
私自身、書くことはそんなに好きではないですからね(笑)。だから書くことが嫌いだという生徒の気持ちはよく分かります。
ただ社会で働く人のほとんどが実感していると思いますが、書くことはずっと付きまとうもので、逃げ切れません。ですから向き合うしかないんですよ。それに書く力がつけばいいことはたくさんあります。書くことによって自分の考えを深めることができ、論理的思考力が高まりますからね。
書くことが好きになるかどうかはともかくとして、やはり実際にコツコツ書いていくことが力をつける近道になると思います。何を書けばよいか分からないという人は、まずは日常会話を話し言葉そのままで書いてみるのはどうでしょうか。友達や親との会話が成立しているかぎりは、自分の考えを言っているわけですから、それをそのままノートに書いてみるのです。そして話し言葉を書き言葉に変えて、もう1度書いてみましょう。そこで文章を整えればきちんとしたものになるはずです。
――その方法なら「ちょっと書いてみようかな」という気持ちになれそうですね。
「書いてみようかな」という気持ちになることが、とても重要だと思います。
書くことに宝くじはありませんから、コツコツやっていくしかないです。いわゆる「書くこと貯金」です。それは早ければ早いほど良いです。高校1~2年生であれば、まだまだ間に合いますから、スマホを見る時間を少しだけ減らして今日から書くこと貯金を始めましょう。
とても気さくに質問に答えてくださった佐藤先生。国語の先生でも、書くことはそんなに好きではないと感じるのかと思うと、少しホッとしますよね。
今回のお話で「読むことが書く力をつける」「コツコツ書くことが重要」だということが分かりました。「書くことに宝くじはない」という先生の言葉どおり、今日から書くこと貯金を始めてみましょう。
【取材協力】
東京都立広尾高等学校 校長
全国高等学校国語教育研究連合会 会長
東京都高等学校文化連盟副理事長・文芸部門部会長
佐藤 和彦先生