【シゴトを知ろう】原子力系研究・技術者 ~番外編~
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原子力系研究・技術者である理学博士の羽鳥聡さんは、福井県にある若狭湾エネルギー研究センターで、センターの中核となる加速器システムの責任者をされています。
原子力系の研究や加速器に携わる研究者の方々との関わりなどについてお話を伺ったので紹介します。
この記事をまとめると
- 医療や農業、工業など、加速器を用いた原子力の応用研究範囲は幅広い
- 原子核物理学を共に学んだ同級生たち、その多くが日本の原子力系研究を支えている
- 放射線の被ばくについて、施設内では万全の体制が取られている
がんの治療から文化財の元素分析まで、加速器の活用分野はさまざま
――加速器について詳しく教えてください。
加速器とは、電子や陽子のような素粒子やヘリウムからウランに至るさまざまな原子核を、高速に加速する装置です。もともと加速器は素粒子や原子核など物質の極微の世界を調べる装置ですが、当センターでは、産業に結びつける応用研究を進めていて、がんの治療研究や農産物の品種改良研究などに利用されています。また、ナノ材料から生物・文化財まで多様な対象の元素分析をする技術開発にも関わっています。
加速器の種類は、加速する粒子やエネルギーによっていろいろなタイプがあり、当研究センターにはタンデム加速器とシンクロトロンが設置されています。
――加速器は、実験に使うときだけ稼働させるのでしょうか?
点検期間以外は24時間動かしています。運転員は2人1組で3交替制を取っていますが、私は加速器を管理する立場にあってトラブル対応も行うので、夜中までセンターにいることが多いですね。日中も自分の研究室にいることはあまりなく、たいていは加速器がある建物にいます。
学会や研究会は貴重な情報交換の場
――大学の同級生はどのような仕事をされていますか?
民間企業で働いている同級生もいますが、多くが原子核物理学の研究を行っている大学や公的機関で研究者をしています。大学の核物理研究センター長をしている友人や国立の研究所で要職に就いている後輩もいますよ。
――原子力系研究に関わる研究者の方たちが顔を合わせる機会はありますか?
原子力系研究に関する学会で、よく顔を合わせます。日本物理学会は学位取得前から所属しており、当センターに勤務するようになってからは、日本原子力学会にも参加しています。日本加速器学会では、年に1度行われる年会の組織委員をしています。
ほかには、「タンデム加速器及びその周辺技術の研究会」(以下、タンデム研究会)の世話人を務めています。
研究会発足当時、加速器の定期的な研究会は行われておらず、開発や運転、応用などの現場で発生する問題には、各研究機関や個人で取り組んでいました。しかし、1988年に行われた第1回の研究会は、加速器に関わる研究者や技術者が一堂に集まり、さまざまな報告や議論がなされました。
――タンデム研究会について教えてください。
タンデム研究会は、研究者たちが集まって具体的な問題を解決したり、解決方法までは分からなくても、関連した意見や情報交換、議論をしたりする場所としてスタートした研究会です。
完成した仕事よりも未完の仕事、成功例よりは失敗例、独創的な失敗を歓迎するユニークな雰囲気を持っています。研究者からの報告に対し、突っ込みを入れながらもアドバイスをするのが私の役割です。
近年、タンデム加速器の応用範囲が広がり、原子核物理学の研究をしている施設以外でもタンデム加速器の導入が増えています。反面、加速器の技術的な話ができる現場の人たちがだんだんと減っています。そのような状況の中、タンデム加速器の技術的な話ができる人間として、この業界を支えていきたいと思っています。
原子力を有効活用するため、取り扱いには細心の注意を払う
――原子力関連の施設では放射線の被ばくが気になります。どのような対策が取られていますか?
私が関わっている加速器は放射線発生装置の一つなので、被ばくに注意しなければなりません。ビームを引き出して試料(*1)に照射している間は、加速器室や照射室に誰も入ることができませんし、照射が終わっても、室内の線量(放射線の量)が安全なレベルに下がるまでは入室できないようになっています。
また、ビームの通るダクトにビームが当たって、ダクトが放射化する可能性がありますが、管理部の担当者がビームダクトの残留放射能を測定し、放射線管理区域入口に毎週張り出しています。被ばくの危険がある場所の付近で仕事をする場合は、放射線検出器(*2)を持って入室し、危険性の存在を意識して作業することが重要です。
*1 試料:検査や分析などにおいて使用する物質のこと。
*2 放射線検出器(放射線測定器):その場における放射線の量を測定する機器のこと。
――線量計(*3)はどのようなものを携行するのですか?
放射線管理区域に入室するときは、ガラスバッジとアラームメーターを常に携行しています。
ガラスバッジによって、一定期間の被ばく量の積算が分かります。アラームメーターは、あらかじめ設定した数値以上の積算線量になると警告音が鳴るようになっています。
*3 線量計:一定期間に被ばくした線量(放射線の量)の積算を管理する機器のこと。個人が身に付けることで、その期間に自分が受けた線量の合計を測定することができる。
取材時は、年に1度の定期点検を行っている期間だったので、普段は絶対に入れない加速器の中を見せていただくことができました。SF映画に出てくるような装置の中は、まさに異次元空間でした。
原子核物理学の研究者の中でも、加速器に携わる仕事ができる研究者はごくわずかだそうです。実験や研究が好きで、目には見えないミクロの世界に興味がある人は、原子力に関わる研究の成果が、私たちの生活にどのような影響を与えているのかについて調べてみてはいかがでしょうか。
【profile】公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター 研究開発部加速器室室長・理学博士 羽鳥聡
公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター http://www.werc.or.jp/
この記事のテーマ
「環境・自然・バイオ」を解説
エネルギーの安定供給や環境問題の解決など、自然や環境を調査・研究し、人の未来や暮らしをサポートする仕事につながります。また、自然ガイドなど、海や山の素晴らしさと安全なレジャーを多くの人に伝える仕事もあります。それぞれ高い専門性が求められる職業に応じて、専門知識や技術を学び、カリキュラムによっては資格取得や検定も目指します。
この記事で取り上げた
「原子力系研究・技術者」
はこんな仕事です
電力だけでなく、医療系や工業・農業など、活用できる分野が多岐にわたるのが原子力系研究者や技術者の仕事の特徴だ。研究者や技術者の多くは、それぞれに専門分野を持つ。電力分野だけでも、原子炉の設計を行う技術者から、核融合を専門的に行う研究者まで幅広い。医療・工業・農業においても、近年では治療や検査などに放射線技術が広く使われ、放射線利用技術者の活躍の場が広がっている。電力会社や電子機器製造業、病院や大学などで働くことができ、勤務先も多様だ。
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