【シゴトを知ろう】醤油職人 編
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醤油の5大生産地の一つである石川県金沢市大野町で造られる「大野醤油」は、甘みがあってやや淡い色が特徴です。およそ400年前、この地を治めていた前田藩の藩主の命により、大野の町人だった直江屋伊兵衛が紀州(現在の和歌山県と三重県の南部)の醤油醸造技術を学んで持ち帰ったのが、大野醤油の始まりだといわれています。
大野醤油を代表する蔵元の一つである直源(なおげん)醤油の8代目・直江潤一郎さんに、醤油職人、そして経営者としてどのように仕事に取り組まれているのかについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 醤油の「香り・味・色」を造り出すのは、職人と自然の力
- 大学卒業後に会社員を経験したのは、経営者としての幅を広げるため
- 小さくまとまらず冒険を! 社会が求めているのはチャレンジ精神を持った若者
400年の歴史がある醤油の町で、職人として生きる
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。
直源醤油の経営者としての仕事だけではなく、醤油職人として、若い社員と一緒に工場で醤油を造っています。歴史のある醤油造りを次の代に伝えていく必要がありますし、マニュアルを見ただけで覚えられるものではないので、若い社員とのコミュニケーションを大切にしています。
<一日のスケジュール>
07:30 出社
08:00 朝礼(全員で社是唱和、ラジオ体操)
08:30 グループ(醤油、調味料、パッケージなど)に分かれて工場で作業
10:00 休憩
10:15 作業
12:00 昼食
13:00 作業
15:00 休憩
15:15 作業
17:00 工場での作業終了、売店の閉店作業、事務仕事
19:00 帰宅
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
お客さまにおいしいと言っていただくことです。
大野の町は約400年前から醤油の町として栄えてきて、現在も20の蔵元があります。190年続いている直源醤油を守り発展させていくことはもちろんですが、特許庁の地域団体商標(*)に登録が認められた伝統ある「大野醤油」のブランドを守り、後世に伝えていく役割も担っています。
金沢の食文化やイメージを支えているという意識を持って、伝統の醤油を造り続けることに大きなやりがいを感じます。
*地域団体商標:「地域の名称+商品(サービス)の名称等」からなる文字商標のこと。地域の名産品などのブランド価値を保護し、地域経済を活性化することを目的として、2006年に地域団体商標制度が導入された。「大野醤油」の他に、「松阪牛」(三重)や「有田みかん」(和歌山)、「今治タオル」(愛媛)などが登録されている。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
大変なことはいろいろありますが、お客さまに迷惑をかけてしまったときはつらいです。商品に貼る表示シールの誤表記で、商品を回収したこともありました。
また、基本となる醤油は、「香り・味・色」の三拍子がそろっていなくてはなりません。そこは絶対に変えてはいけない大切な部分ですが、成分的には一緒でも、猛暑になると色が濃くなったり、冷夏だと発酵がうまく進まず旨味が不足したりするんです。9月、10月ごろまで暑さが残ると、熟成が進みすぎてしまうこともあります。
ある程度は工場でコントロールできるのですが、やはり自然相手の仕事ですから、全てをコントロールすることはできないところが大変ですね。
伝統を守りながら、新しい分野にもチャレンジ!
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
直源醤油は私で8代目です。小さい頃から、大人になったら醤油屋を継ぐものだと思っていました。祖父(6代目)からも後を継ぐように言われ続けてきましたので、他の仕事をすることは考えませんでしたね。
東京の大学に進学し、卒業後は酒造メーカーに就職して、名古屋などで7年間営業を担当しました。いずれは経営者になって人を動かす立場になるのだから、会社員として誰かの下で働く経験をしないといけないと思ったからです。そして、約20年前に金沢に戻って、直源醤油を継承する準備に入りました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
私が通ったのは農学部の醸造科です。全国から、酒屋やみそ屋、醤油屋を継ぐ若者たちがたくさん集まっていました。
大学では、醸造や醤油造りに関することを一通り学んだ他、大豆やトウモロコシなどの穀物原料からさまざまな成分を引き出す実験などを行ったり、醤油に使われるこうじ菌の大切さを教わったりしました。醸造は、長い時間をかけて大豆や米からうま味成分であるアミノ酸を引き出すものなので、大学でも時間をかけていろいろなことを学びました。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
醤油造りをすることは決めていたのですが、実は、直源醤油を継いだらやってみたいことがたくさんありました。その一つが、醤油をベースにした調味料を製造することです。
現在、地元の野菜を使ったドレッシングなどを販売していて、醤油屋としてきちんと伝統を守りつつ新しい分野にチャレンジしたいという想いが実現できて、満足しています。
失敗から学べることがある。思い切って行動してほしい
Q7. どういう人が醤油職人に向いていると思いますか?
伝統を受け継いで真面目に仕事をするだけではなく、創造力が豊かでチャレンジ精神を持っている人が向いています。
変えてはいけない部分もたくさんありますが、醤油を使った新しい調味料など新しい分野で応用が利く人やうま味を引き出す方法に知恵を絞れる人、お客さまによりおいしいものを提供したいという前向きな気持ちを持っている人がいいですね。もちろん、食べることが大好きな人も向いていますよ(笑)。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。
若いうちは失敗してもいいんです。失敗から学べることはたくさんありますし、若いからこそ失敗が許されると思います。失敗を恐れず、思い切って行動してほしいですね。
最近はインターネットの普及によって、良いことも悪いことも含めいろいろな情報が一気に広まる社会になってしまいました。そのせいで、挑戦することに尻込みをしてしまう若者が増えているような気がします。
何でも与えてもらえる豊かな時代になりましたから、そんなに頑張らなくても、ごはんが食べられなくなるといった危機感も少ないでしょう。そうなると、あえて冒険する気も起こらないし、小さくまとまってしまう無難な人生を送る人も出てきます。
しかし、こんな時代だからこそ、独創性やチャレンジ精神を持った若者たちは社会にとって必要ですし、私も経営者として欲しい人材です。最初から恐れるのではなく、高校生の皆さんはぜひ、たくさんのことにチャレンジしてほしいですね。
直江さんは醤油造りを若い世代に伝えながら、190年続く直源醤油の経営者として、醤油を使った新しい調味料の開発など精力的に仕事をされています。最近では、和食や職人がメディアで取り上げられることも多く、醤油造りに興味を持って入社してくる若い世代が増えたとおっしゃっていました。
蔵元によっては、地域における醤油造りの歴史や製造方法・工程について深く知ることができる工場見学を実施しているので、醤油造りに興味のある人は、足を運んでみてはいかがでしょうか。
【profile】直源醤油株式会社 代表取締役社長 直江潤一郎
直源醤油株式会社 http://www.naogen.co.jp/
●参照URL
http://www.oonomurasaki.jp/oonoshoyu/index.htm
この記事のテーマ
「食・栄養・調理・製菓」を解説
料理や菓子などの調理技術や、栄養や衛生などに関する基礎知識を身につけます。職種に応じた実技を段階的に学ぶほか、栄養士などの職種を希望する場合は、資格取得のための学習も必須です。飲食サービスに関わる仕事を目指す場合は、メニュー開発や盛りつけ、店のコーディネートに関するアイデアやセンス、酒や食材に関する幅広い知識も求められます。
この記事で取り上げた
「醤油職人」
はこんな仕事です
しょうゆメーカーで大豆、小麦、塩を主な原料とするしょうゆを造る仕事。しょうゆは微生物による発酵・熟成によって造られ、半年から2~3年の時間をかけて造られるものも。日本で最初のしょうゆが誕生したのは、1580年(天正年間)ころ。和歌山県湯浅町が発祥の地とされる。現在、しょうゆメーカーは大手から昔ながらの蔵元まで、日本全国に数多くあり、その造り方や種類、こだわりもいろいろ。大学の醸造科などで学び、就職をする人が多いが、一人前のしょうゆ職人になるには長い経験が必要とされるだろう。