【シゴトを知ろう】社会福祉施設介護職員 ~番外編~
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高齢者向けの社会福祉施設の中に、長期療養を経て自宅に戻るまでの間、機能回復訓練(リハビリ)を提供する「介護老人保健施設」があります。
番外編では引き続き、福島県にある介護老人保健施設「仮設楢葉ときわ苑」で介護部門長として働く遠藤丈志さんに、仕事に対する考え方、そして東日本大震災後に起きた福島の原発事故が与えた影響などについて語っていただきました。
この記事をまとめると
- 意見しやすい職場環境は、質の高い介護のために必要なこと
- 介護老人保健施設では、介護職以外の専門職も多く活躍している
- 福祉施設は、同郷の人たちが励まし合い安心して暮らせる場所でもある
リーダーとして、風通しの良い職場環境づくりに注力
――現在介護部門長として後進の指導にあたられていますが、人材育成について気を付けている点、こだわっている点がありましたら教えてください。
同じフロア・ポジションで長く勤めていると、どうしても固定概念が生まれ柔軟な発想ができなくなり、仕事を教わる他の職員にも悪影響が出てきます。そうならないためにも定期的にスタッフの異動を行い、入社1年目の職員、10年以上いるベテラン職員問わず、経験や年齢を超えてお互い意見が言いやすい環境づくりに努めています。
私も20年近く介護の施設などで勤務していますが、自分の意見が絶対ではないというスタンスで職員に接するようにしています。部下と接していて意見がぶつかることもありますが、お互いの意見を聞いて相手の意見が正しいと思うことがあれば素直にこちらが折れることもあります。介護は心を扱う仕事だと思っているので、何でも言い合える環境でないと全てが滞ってしまうような気がするのです。
――介護老人保健施設(以下、老健)ではリハビリの提供を行う他、医療を必要とする高齢者も多くいるようですね。こういった介護職以外の専門スタッフとの連携で注意している点はありますか?
老健のケアは介護職だけではなく、医師・看護師・リハビリ職・栄養士など多職種の連携で成り立っているのですが、お互いの仕事で見えない部分がまだまだあるので、何か良い方法がないかと日々考えています。
利用者一人ひとりに対してどのようなケアが必要であるかをまとめた施設サービス計画書(ケアプラン)というものがありますが、この計画書に則って、多職種がお互いどのようなケアを実践していけばよいのか、各職種の動きの見える化を目指しています。老健の場合は健康を取り戻して自宅に戻るという最大の目標があります。同じゴールを目指してできることをお互いが知っておくことは、質の高いケアの実現のためにとても重要なことではないかと思います。
思い出に残らないほど疲弊しきった原発事故当時の状況
――東日本大震災後に起きた原発事故によって、かつて楢葉町にあった施設が使えなくなったそうですね。事故当時はどのような状況だったのでしょうか?
私が震災で一番大変だったのは、職員が被災者でありながら介護者であったことです。家族に連絡してもつながらない、家の状況が分からないといった状況の中、不安と焦りを押し殺し「自分たちが利用者を守らねば」という使命感や責任感だけでやってきた気がします。いろいろと苦労はあったはずが、当時の記憶が一枚の写真のように断片的にしか思い出せないというのが正直なところです。
同じ県内にあるとはいえ住み慣れた町を離れた代償は大きく、落胆されている方が多いです。避難生活では、見ず知らずの土地・人・住環境などへの適応が困難で、生活機能の低下や、認知症を発症して入所された方もいらっしゃいました。
そういったつらい経験をされた中、同郷の方と一緒に過ごし、笑い合える時間はとても幸せなものだと思います。利用者の方々が同郷の町の思い出話に花を咲かせるようになり「家があるのはこの辺だった」とか「あのスーパーによく買い物に行った」とか、些細なことでも共通の話題ができたことによって、少しずつ笑顔が戻ってきたような気がします。国の助成を受けて仮設楢葉ときわ苑をいわき市に建設しましたが、遠く離れてしまっても、仮設楢葉ときわ苑は同じ町の人たちが寄り添う、もう一つのふるさととしての役割も担っている。そんな気がしてなりません。
元気に自宅に戻る姿を見ることが、一番やりがいを感じる瞬間
――最後に、お仕事の中で一番の思い出や達成感を感じたエピソードについて教えてください。
あまり過去を振り返らない性格なので、一番に印象深い思い出というのは特にないですね。多職種の連携強化の目標もそうですが、過去を振り返るより常に未来を見て何ができるかを考える方がワクワクするじゃないですか?
正直、中にはとても症状の重い方がいたり原発事故の影響もあったりと、在宅復帰できる方は年に数人程度で、自宅に戻ることなくここで亡くなられる方もいらっしゃいます。皆さん、さまざまな思いがあってここに入所されることだとは思いますが、利用者の方が目標を達成されて家族の元へ無事に帰ることができたときは、とてもうれしく感じます。
職員の働きやすさを重要視して現場の雰囲気向上に努める遠藤さん。途中さまざまな困難が待ち受けていましたが、遠藤さんの明るく前向きな姿勢があったからこそ現場に活気が戻ってきたのでしょう。社会福祉施設介護職員の仕事に興味が湧いた方は、他にはどんな施設や業務があるのか調べてみるといいかもしれませんね。
【profile】医療法人社団ときわ会 介護老人保健施設 仮設楢葉ときわ苑
介護部部門長 遠藤丈志
http://www.tokiwa.or.jp/index.php
http://www.tokiwa.or.jp/system/blog_naraha.php?cd=new
この記事のテーマ
「福祉・介護」を解説
現場で福祉を担う介護福祉士などのスペシャリストや、福祉サービスの企画・提案ができる人材を育成します。通常の生活を営むことが困難な人の生活を助けるための専門知識、技術を身につけ、職種により就業に必要な資格取得を目指します。高齢化が進む中、精神的なケアや寝たきりを防ぐための運動指導など、必要な専門知識や技術も幅広くなっています。
この記事で取り上げた
「社会福祉施設介護職員」
はこんな仕事です
特別養護老人ホーム、高齢者福祉施設などの福祉施設で、日常生活の介助を行う。食事の世話、入浴介助、排尿・排便介助、下着・上着の更衣介助、歩行・車いすの移動介助、必要時の見守りなど、生活全般にわたるサポート活動に従事する。寝たきりの人もいれば、視覚障がいのある人もいるので、社会福祉施設介護職員は、自分が担当する利用者別に、柔軟性に富んだ細かな介護プランを準備し、快適な環境づくりに奉仕しなければならない。しかし、利用者の生きがいや喜びに直結する仕事だけに日々の充実感も大きい。
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