【シゴトを知ろう】住宅デザイナー ~番外編~
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「【シゴトを知ろう】住宅デザイナー 編」では有限会社カサゴラコーポレーションの高原美由紀さんにお話を伺いました。人が暮らす住宅のデザインは、建築の知識と合わせて心理学や行動分析学といった人間科学の知識が役に立つようです。
今回の番外編では、住宅デザインに役立つ心理学の考え方や住宅デザイナーならではのあるあるについて教えていただきました。
この記事をまとめると
- 心理学を用いると、お客様の目的に適した住宅デザインができる
- デザインの情報は、実際に目で見たり手で触れたりして得ている
- お客様がありのままの住宅を見せてくれたため、悩みの原因が判明した
人間の心理から目的に沿った住宅デザインを行う
――心理学を利用したデザインにはどのようなものがありますか?
人は空間を無意識に感じたり、認識したりして行動しています。その行動に至る心理には2つあります。一つは人間が動物として進化する過程で身に付けた「共通の心理」です。動物は無意識に自分の生命を維持して、種を繁栄させるために行動しています。人間にも同様の心理が働いていて、危険だと感じる暗い場所を避け、明るい場所を好むのです。また、動物にとっての光は日光を意味しますので、光を頭上から浴びることが人間にとっても普通の感覚です。そのため「非日常を感じたい」と言うお客様の住宅には、床から光が差すデザインを提案します。この心理はアミューズメント施設にも応用されていますよ。
もう一つの心理は、人間が成長する過程で身に付けた「個人の心理」です。自然があふれる空間に対して、田舎で育った方は落ち着くという感想を抱きますが、都会で育った方は珍しさを感じます。落ち着く場所や広さの基準は子どものころの環境によって異なるのです。
2つの心理を生かせば「わくわくしたい」「のんびりくつろぎたい」などの目的に沿った空間デザインができます。
すてきだと思う建築物には、思わず触れてしまう
――住宅デザイナーならではの「休日あるある」やついしてしまう癖を教えてください。
レストランやカフェに入ると、メニューよりも建築デザインをチェックしてしまいます。街を歩いていても、すてきなお店や素材が視界に入るとつい近付いてしまいますね。そんな時は、素材を確かめるために壁や柱を手で撫でているのですが、友達には「また建築物とイチャイチャしてる」と言われます(笑)。
――総合的なデザインのため、流行のリサーチは大変かと思いますが、新しい情報はどのように入手していますか?
イタリアで年に1度開かれる世界最大規模の国際家具展示市「ミラノサローネ」に足を運んでいます。多くの国の同業者が訪れますので、他の国のデザインの考え方に触れることができます。その度に視野が広がりますし、刺激を受けますね。また、建材や工法などを紹介する国内の建築展示会にも行きます。
展示会だけではなく、新しくできたホテルやお店は、実際に見て、触って情報を得ています。雑誌やインターネットといったメディアで知るだけではなく、体感を大事にしています。
信頼してくれたお客様を思い出すと、幸せな気持ちになれる
――お仕事の中で一番の思い出や達成感を感じたエピソードを教えてください。
4人のお子さんがいるご夫婦から「子どもが大きくなったので、リビングを片付けるためにも室内を仕切り、子ども部屋を作りたい」とご相談がありました。お客様のお住まいに伺った際は、私を信頼してくれて一般的には他人には見せたくないような寝室や食品庫まで見せてくれました。「いつもの状態を見てもらった方がいいから」と散らかったままのお部屋で迎えてくれたので、住宅の特徴や人の動線(移動するときの経路)、散らかっている品々をしっかりと調査できました。
その結果、散らかる原因は子ども部屋がないからではなく、玄関から奥様がいるキッチンに至るまでの子ども達の動線と、リビングがくつろぐ場所と意味付けられていないことだと判明しました。そのお宅は増築を重ねて、部屋ごとの役割が曖昧になっていたのです。
そのため、キッチンの周辺には、子ども達が奥様と一緒に過ごせるキッズスペースと収納を設置しました。また、リビングを落ち着いて過ごす部屋だと意味付けるために家をまとめる色使いの計画も立てました。原因を正しく解明できたので、お客様の悩みも解消されましたし、「リビングがすっきりしただけではなく、子どもが大人しく勉強するようになって家族みんなのストレスと夫婦げんかが減りました」とうれしいお声もいただきました。
そのご家庭とのお付き合いは一度に留まらず、旦那さんの職場である病院のデザインも任せてもらえました。その時、医師の方から「高原さんも忙しくて疲れているだろうから」とリラックス効果のある楽曲のCDをいただくなど、気遣ってくださったのを覚えています。今でも思い出すと暖かい気持ちになる、幸せな経験でした。
お客様の要望を聞き、住みやすい住宅を作るためには建築の知識以外も役立つのですね。住宅デザイナーの仕事が気になったら、専門的な授業以外にはどのような授業があるかに着目して進路選択をしてみてはいかがでしょうか。意外な得意分野に気付けたり、住宅デザインにつながる知識を得られたりするかもしれませんよ。
【profile】有限会社カサゴラコーポレーション 高原美由紀
この記事のテーマ
「建築・土木・インテリア」を解説
建築や土木に関する技術を中心に学ぶ分野と、インテリアコーディネイトなどデザインを中心に学ぶ分野の2つに大きく分かれます。資格取得のために学ぶことは、建築やインテリアの設計やプランニングに必要な専門知識、CADの使い方などが中心です。どちらの分野も依頼主の要望を具体化できる幅広い知識とコミュニケーション能力も求められます。
この記事で取り上げた
「住宅デザイナー」
はこんな仕事です
住宅を建てる場合、建物、インテリア、エクステリアはそれぞれのデザイナーが行うことが多いが、それらをトータルに担当するのが住宅デザイナーの仕事。顧客のライフスタイルを考慮した上で、どのようなデザインを理想としているかを引き出し、より住みやすく希望に沿った住宅デザインを提案する。「二級建築士」の資格を取得して、「インテリアコーディネーター」や「インテリアプランナー」などの資格も併せて取得すれば、仕事の幅が広がるだろう。
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