意外と知らない「F1種」とTPPがもたらす未来

『F1』種の利点や欠点について解説。また、遺伝子組み換えの種子についても言及し、TPPによってそれらの種子が日本にもたらされた際の危険性を示唆する。
この記事をまとめると
- 「F1種」は違う親同士を交配させて作られ、有利な特徴を持っている
- 「F1」種は一代限り。毎年種を買わなければならない
- TPPによって外国の種子が日本の農業を席巻する懸念がある
『F1種』って何?
『F1種』はバイオテクノロジーなどで人工的に交配させた「種」のことを言います。
昔ながらの固定種は、収穫、自家採種、種まきのプロセスを繰り返すことで「種」を代々受け継いできたのに対し、F1種は異なる特性を持つ親同士を人工的に交配させて作られるので、親とは異なる新しい性質を持った種になります。
暑さや寒さに強い、害虫に強い、などのさまざまな特性を与えることができるため、生育が容易で、形も均一に揃うため市場に出荷しやすいという利点があります。今現在、日本のスーパーに並んでいる野菜のほとんどがこのF1種だと言われています。利点だらけのように思われるが、実は問題点もあるのです。
「F1種」のメリット・デメリット
F1種は一度収穫してしまうと、種を採取することができません。
たとえ採取するができたとしても、違う親をかけ合わせて作られた雑種であるF1種の2代目は、生育に有利な特徴を持っていた初代と異なるものが生まれてしまいます。むしろ親の悪い特徴を持っている場合もあるので、商品作物としての価値はないに等しいのです。つまりF1種は一代限りの品種ということです。
日本ではまだ普及していませんが、あるメーカーの製品の場合、F1種であるだけでなく、遺伝子組み換えによって特定の農薬や除草剤でしか育たないように作られているため、農家は特定のメーカーから、毎年、種、農薬、除草剤をセットで買わなければならないという、「囲い込み」が行われる可能性がある一方で、1年を通じ(またはある時期を見定めて)安定生産が可能になり、安定供給へとつながる側面を考慮すると、後者の「公益性」や「安定性」は非常に魅力的です。
TPPがもたらすもの
TPPをかいつまんで説明すると、日本や米国を中心とした環太平洋地域において、関税や貿易障壁を撤廃しようとする協定のことです。未だに交渉は難航していますが、もし合意に至れば、日本に多くの外国の作物だけでなく、「種子」も輸入されるようになります。
今現在、世界中の種苗メーカーの売上高の1位と2位をアメリカの企業が占めています。その1位がモンサント社であり、同社はF1種だけでなく、先に述べた遺伝子組み換えであるF1種の特許も多く所有しています。
平時に限らずかつて、第二次世界大戦のある戦いにおいて、補給が断たれ食料がなくなっていく最中、某国の研究員は食用にもなる20万もの標本種子を守って餓死した、という事例がありました。種子がどれほど貴重だったかを表す逸話です。
人間にとってなくてはならない「食」の根源となる種子はとても重要なものです。
資源に限りがあるということと同様、「種子」という資源がもたらす未来を農学や国際政治学、そして経済学などのさまざまな観点から考えていく必要があるのではないでしょうか。
この記事のテーマ
「農学・水産学・生物」を解説
私たちは、他の生物から栄養をもらって生活しています。人口が増え、自然環境が悪化する中、食料を安定して確保し、自然から栄養をもらい続け、世界の飢餓問題に対応するには、農業、林業、水産業などの生産技術の向上が欠かせません。動植物や微生物などさまざまな生物の可能性を発見する研究も重要です。
この記事で取り上げた
「生物生産学」
はこんな学問です
世界的な規模での食料不足が心配されるなか、安定した供給体制の確保が急がれる。そのために持続可能な食料生産と生産性の向上を研究する学問である。専門分野としては、生物の生産量についてのさまざまな要因を数理的に分析する「数理解析学」、優れた遺伝的な素質を持った個体を選び集めることで生産性の改善の役に立つ「量的遺伝学」、予想外の収量減や生産物のロスを生じさせる病害虫対策を研究する「病害虫研究」などがある。
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