【シゴトを知ろう】精神保健福祉士(精神医学ソーシャルワーカー) ~番外編~
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発展の途中にある日本の精神医療。その中で比較的新しく、これからの働きに期待されている仕事が精神障がいを持つ人々の生活を支援する精神保健福祉士(精神医学ソーシャルワーカー)です。
慈雲堂病院で精神保健福祉士として働く田平さんは、日々さまざまな部署と連携して患者さんの支援に当たっているそうです。この番外編では仕事の裏側や印象的な出来事についてお話いただきました。
この記事をまとめると
- 学力アップには自分に合った勉強法を見つけることが大切
- 退院支援には院内スタッフや地域関係者との事前の情報共有が不可欠
- 無事退院して元気に暮らす患者さんの姿が自分の達成感につながる
他の機関と連携し、入院中から患者さんと地域をつないでいく
――このお仕事に就くには国家試験受験が必要ですが、田平さんから高校生に向けて勉強のコツやアドバイスがあれば教えてください。
学力アップに必要なのは、自分に合う勉強法を見つけることです。決まった時間に勉強する、暗記したい部分は音読する、何十回も繰り返し単語を書くなど、人によって異なると思いますが、まずはいろいろな方法を試してみるといいかもしれませんね。
ちなみに私の場合は、暗記ものは赤いクリアシートを使って回答を隠す方法が向いていました。自分に合わない方法で長時間勉強机に向かうよりも、継続できるやり方で少しずつ知識を蓄積していくことから始めてみてください。
――このお仕事では、他の部署との連携が大切だと聞きました。どのように協力して患者さんの支援を進めているか教えてください。
特に周囲との連携を要するのは退院支援で、医師や看護師だけでなく、作業療法士や地域関係者との連携も密になります。
作業療法士はいわゆるリハビリテーションを担っています。作業療法士は縫い物や革細工の製作を患者さんに行ってもらい、段取り良く作業ができるか、最後まで集中して行えるかといった点の評価もします。この作業評価は家事や移動・買い物・日中活動などの退院後の生活に直結するので、作業療法士の支援は非常に重要です。
また、行政や福祉施設の職員を始めとする地域関係者は、退院後の患者さんを支えていく存在です。入院中からしっかりと地域関係者に情報を引き継げるかどうかが、患者さんの退院後の生活を左右します。緊急時の対応を共有したり、日中活動体験の場を設けてもらったりして、協力して支援を行っていきます。
ご家族が主役という意識で患者さんの家族と関わる
――患者さんのご家族のケアのため、普段から心掛けていることがあれば教えてください。
患者さんのご家族から相談を受けるときは、ご家族が主役と思いながら接しています。当然ですが、ご家族は患者さんのサポーターである前に一人の人間であり、ご家族一人ひとりの人生や生活があります。しかし診療においては、ときにこの点が見落とされ、軽視されがちなのも事実です。
こういった状況が続くと最終的に患者さんの治療にも良い影響は与えません。たとえ患者さんに関する相談内容であっても、まずは相談者であるご家族の気持ちに配慮し、関わりを持つように心掛けています。
約20年間入院していた患者さんが、病院外の世界で暮らせるように
――最後にお仕事の中で、一番の思い出や達成感を感じたエピソードについて教えてください。
私が初めて対応した長期入院患者さんとの関わりは、今も強く印象に残っています。その方は20年間ずっと入院されていた女性で、身の回りのことを全て他人が行う環境で過ごしているうちに「自分が何をしたいか」「自分で何ができるのか」を考えられなくなっていたのです。ある日、その患者さんから「病院の外を歩いているだけで幸せです」と言われ、私は大きなショックを受けました。もっと外の世界との接点を設けていれば、ここまでの状態にならなかったのではないかと、やるせない思いを抱いたのを覚えています。
そんな状態から退院への希望を持ってもらうため、他の機関と協力し退院支援を行っていきました。まずは、外出したりお化粧をしたりして外の世界を知ってもらうことから始めました。その患者さんはずっと病院の中でしか生活してこなかったので、ハンバーガーを口にするだけでも「こんな食べ物があったのね!」と驚き、たった1回のお出かけも発見の連続でした。こうした挑戦を続けていく中で、少しずつ外の世界への興味を取り戻していき、退院後に暮らすグループホームの見学や日中活動体験ができるくらいに回復しました。結果的に、2年半かけて無事退院が決まったときは、自分のことのようにうれしかったです。
その患者さんは、今ではアパートで暮らしをして、病院外の知人もできたそうです。美容院で髪の毛を染めたり、スーパーで買い物をしたりして地域での生活を楽しんでいます。患者さんとの日々の関わりでは悩むこともありますが、その分、大きな達成感が得られます。
医師や看護師はもちろん、病院外の機関とも連携して患者さんを支援する精神保健福祉士。各方面への配慮や理解が求められ、大変なこともたくさんありますが、その分患者さんが退院し、再スタートを切れたときの喜びも大きいのだと分かりました。人と関わるのが好き、人のために何かをしたい、そんな風に思っている人は、この仕事についてもっと調べてみてはいかがでしょうか。
【profile】医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院 医療相談室 田平政彦
【取材協力】東京精神保健福祉士協会
この記事のテーマ
「福祉・介護」を解説
ソーシャルワーカーや介護福祉士など、お年寄りやさまざまな理由で暮らしに不自由を感じている人に寄り添い、福祉サービスの企画や提案、実施を行う仕事です。特に高齢化が進む現代社会においては、精神的なケアや寝たきりを防ぐ運動指導など、求められる専門知識や技術がより高度に、幅広くなってきています。
この記事で取り上げた
「精神保健福祉士(精神科ソーシャルワーカー)」
はこんな仕事です
精神的障がいのある人やその家族に対し、その人に適した日常生活が送れるよう助言や指導をする仕事。ソーシャルワーカーの一種で、精神的障がいのある人に特化した専門職だ。医療施設で医師や看護師と連携を取りながら、就職や関連施設への入所など、退院後の生活を支援。地域の関連施設や機関とのネットワークを強めることも仕事の一つ。また、社会復帰施設の指導員として、就労訓練やレクリエーション活動などをサポートする人もいる。
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