【シゴトを知ろう】作業指導員・職業指導員 ~番外編~
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障がいを持つ人たちに対し、作業指導や見守りを行う福祉施設の作業指導員・職業指導員。10年以上のキャリアを誇りさまざまな人と接してきた八千代市福祉作業所の松尾球太さんに、仕事を通じて得た経験や印象深かった思い出について伺いました。
この記事をまとめると
- 福祉の仕事は身体介助だけではなく、外部との連絡、調整なども重要
- 長所を磨くことは障がい者が末永く働くために大切なことである
- 周囲の理解と協力があってこそ障がい者雇用が成り立つ
イベントの企画・運営に携わる機会も多い福祉の仕事
――理想と現実のギャップについて、就職する前とした後で感じたこと、思ったことはありますか?
福祉の仕事について、就職する前まではあくまで身体介助のような具体的な支援がメインの業務だと考えていました。ところが実際に就職してみると、利用者のご家族や行政、業者などに対しての連絡、相談、交渉といったコーディネート的な役割も強く求められます。
例えば、定期的にイベントを企画し決定するのも私たちの役割です。年2回、利用者さんと一緒に出かける旅行があるのですが、場所や日程を調整したり宿の予約を取ったりといった手配も職員が行います。旅行は日帰りもあれば1泊2日で行くものもあります。毎日利用者さんたちと接しているのですが、泊りがけで24時間一緒にいるとなると、今まで知らなかったその人の素顔や意外な一面を知ることができて、職員にとっても有意義な経験です。
明確な目標を立てることで職場の士気が上がる
――普段のお仕事の中で、単純作業にならないように何か工夫されていることはありますか?
私が勤務する八千代市第2作業所では「ボルトの組み立て」がメインの仕事となります。ボルトの胴体にワッシャー(真ん中に穴の空いた、薄い金属円板状の部品)を入れてナットで固定する作業ですが、どうしても単純作業になりがちです。途中手が止まってしまう人がいますが、まずはそういう人たちに声をかけるよう意識しています。
中でも効率よく仕事をしてもらうためには、目標を具体的に提示してあげることが一番大切です。例えば「今日は何時までに何本完成させましょうね」と一声かけるだけで、皆さん目の色を変えて集中して取り組んでくれるようになるのです。
また、障がいの種類やその人の性格によって得意な作業とそうでない作業があります。場合によっては配置転換して、その人が最も得意で力を発揮できる分野を探してあげる工夫をするのも私たち作業指導員の大切な仕事です。
特技が認められ、スーパーマーケットに無事就職
――現在、各所で障がい者雇用が目立つようになりました。技術や経験を得た利用者がステップアップして就職や転職できた成功例がありましたらお聞かせください。
八千代に異動になる前の職場の話ですが、自閉症の方がいて、その方は周囲とのコミュニケーションがとても苦手な人でした。ただ、計量がすごく得意でこのスキルは他所で通用すると私は思いました。
そこで地元のスーパーマーケットにお願いをして、野菜を測りにかけてパッケージする青果部で実習生として数日間働いてもらうことが決まりました。自閉症の人は他者とのコミュニケーションは苦手な傾向がありますが、反面、集中力に長けた人が多く、具体的に「〇〇をやってくれ」とお願いするときちんと遂行してくれます。彼の努力もあって、今でもそのスーパーで働いています。
現在、障がい者の就職自体はさほど難しいものではなくなってきましたが、問題は仕事を継続できるかということ。就職したはいいが、職場環境になじめない、周囲からの理解がなかなか得られないといった理由で辞めてしまう人もいるようです。障がい者に理解のある“企業”も重要ですが、障がい者に理解のある“現場責任者”の存在も大変重要です。その人の性格やスキルをできるかぎり理解してもらうこと。また、就職を手助けする福祉作業所としても、現場責任者と本人の間に入って両者にヒアリングするなど、問題の発見や解決に向けて積極的に動いていくことが求められると思います。
――最後に、お仕事の中で一番の思い出や達成感を感じたエピソードについて教えてください。
福祉作業所を卒業して就職される人は、本人が長所を磨いてそこが認められて就職につながったのだと思います。仕事が決まったときの笑顔や達成感、自信に満ちた表情を見たとき、この仕事をやっていて本当によかったなと思います。重度の障がいを持つために、一般企業で働くことができない利用者さんに対しては、何か一つ目標を決めてチャレンジしてもらい、その目標が達成できたときは、まるで自分のことのようにうれしく思います。
働くことは、同時に税金を納めることでもあり、これは国民の大切な義務でもあります。たとえ障がいのある人でも働いて自らお金を稼ぐこと、そして納税することは本人にとっても、国にとっても重要なプロセスなのです。一人ひとりの可能性を信じて長所を伸ばし就労へとつなげる。そんな作業指導員・職業指導員の仕事は、とても大きな社会貢献といえるのではないでしょうか。
【profile】社会福祉法人佑啓会 八千代市第2福祉作業所 所長 松尾球太さん
http://fgakusya.sakura.ne.jp/om_html/yachiyo.html
この記事のテーマ
「福祉・介護」を解説
ソーシャルワーカーや介護福祉士など、お年寄りやさまざまな理由で暮らしに不自由を感じている人に寄り添い、福祉サービスの企画や提案、実施を行う仕事です。特に高齢化が進む現代社会においては、精神的なケアや寝たきりを防ぐ運動指導など、求められる専門知識や技術がより高度に、幅広くなってきています。
この記事で取り上げた
「作業指導員・職業指導員」
はこんな仕事です
「作業指導員」と「職業指導員」とは、心や身体に障がいのある人を一人ひとりサポートしながら、それぞれが適切な職業に就けるように援助し、トレーニングなどを行う職業。木工、農作業、製造業、飲食業、その他の幅広い軽作業の訓練に携わることになるが、あくまでも障がい者の適性や能力を尊重し、個別の作業プログラムを開発していく必要が生じる。障がいの程度を見極め、作業道具の開発なども行う。労働意欲を引き出し、日常生活の自立や社会参加、社会復帰を促す専門職としてニーズが高まりつつある。
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