【シゴトを知ろう】ソーイングスタッフ ~番外編~

コレクションや展示会のために作られる1点もののサンプル縫製を手がけるサンプル工場は、高い技術を持ったソーイングスタッフによって支えられています。番外編では、サンプル工場での仕事がどのようなものか、日頃どのようなことを心掛けているかなどについて、株式会社アトリエセゾン縫製チームチーフの宮沢さんに伺いました。
この記事をまとめると
- 一着仕上げるのに早くて7〜8時間 特殊なデザインだと数日かかることも
- 洋裁学校は洋服の知識は学べるが、縫いの技術を教えてくれる所は少ない
- 縫い方も時代と共に変化する。固定概念にしばられないことが大事
依頼はほとんどが口コミ、一つひとつの作品が勝負
――ソーイングスタッフを志す人は、まず量産工場からキャリアをスタートさせることが多いということですが、量産工場の仕事について教えてください。
私は量産工場での経験が短く、あまり詳しくないのですが、量産工場は完全分業制です。「アイロン」「ポケット」「裏地」といったいくつかのパートに分かれて作業します。仕事を始めて間もない新人は、比較的簡単な中間工程のアイロンなどを担当し、経験を積んで腕が上がってくると、袖を縫ったり最後の仕上げをしたりします。部位の難易度によって、誰が担当するか変わります。
――一から十までの縫製を全て1人で担当されるサンプル工場の具体的な仕事の流れとはどのようなものですか?
簡単に説明すると、パターン(*)に従って生地を裁断し、芯を貼り、縫製をし、ボタンホールを開け、最後はアイロンプレスという流れになります。
1着あたりの所要時間は品物によって異なりますが、早いもので7〜8時間程度かかります。シフォンやベルベットなど縫いにくい生地は、より時間がかかります。パリコレクションで使用されるような、デザインが凝ったものの中には数日を要するものもあります。
仕事は納期に従って進めます。しかし納期は厳しいものばかり(笑)! 夕方製作依頼が来て、次の日の午前中納品なんてこともあります。
*パターン:洋服を作るとき、型に合わせて生地(布)を裁断できるよう、洋服の一部の形を切り抜いたり印刷した紙
――どこから、どのようにして仕事の依頼があるのでしょうか? もともとは、営業担当と縫製担当の2人で始めた事業とのことですが、今では規模も拡大され、大変お忙しそうですね。
洋服のパターン・生地・付属品(ボタンやファスナーなど)が全てそろった段階で、アパレルメーカーのMD(*2)や生産担当、ファッションブランドのパタンナー(*3)から仕事の依頼があります。中にはホームページを見て依頼をしてくださる方もいますが、ほとんどは口コミで知って来てくださったお客様です。
うちで取り扱う商品はほぼ全て1点ものです。デザイナーもパタンナーも、自分の思い描いていた通りのものが欲しいので、質の高い仕事をすることが何よりも大切です。
また、ただ指示された通りの作業をするのではなく、作品がより良いものになるよう、気を利かせたりサポートしたりすることもあります。完成した製品の見栄えを良くするコツや、量産ベースになったときよりきれいに早く縫製する方法などは、縫製スタッフの方がよく分かっていますので、パターンに対してアドバイスや提案を積極的にすることを心掛けています。その結果、こちらに安心して任せられると思ってもらえるとうれしいですね。
*2 MD:マーチャンダイザー。ファッションブランドの方向性・企画・戦略などに決定権を持つ。
*3 パタンナー:ファッションデザイナーが作成したデザイン画をもとに型紙(パターン)を作る人。
縫い方は時代と共にどんどん変わるので、常に頭を柔らかくしておきたい
――それだけ質の高い仕事をできる人材は多くはないのでしょうね?
仕事はひっきりなしにありますが、誰でもできる仕事ではないので常に人手不足ですね。たとえ洋裁学校を出たとしても、実際の現場での縫製業務において即、仕事として通用するとは限りません。
――洋裁について学べる学校を出ても、サンプル工場では即戦力にはなりませんか?
縫う技術を本格的に学べる洋裁学校はまだまだ少ないと思います。洋服に関する基礎知識は必要ですから学校は出ていたほうがいいと思いますが、縫製技術を習得するには、個人的に、学校だけでなく実務経験も必要だと思うところはあります。
――サンプル工場で働きたい学生は、どのようにキャリアアップすればよいですか?
まずは量産工場で働いてみるのがいいのではないでしょうか。そこで縫う技術とスピートをつける。アトリエセゾンで働くスタッフは、ゼロからはじめて経験を積んでいった人もいますが、量産工場でリーダーをやっていた人や、他のサンプル工場からの転職者も多いです。
サンプル工場は技術的に難しいというだけでなく、出来高制という、完成させた製品に対して報酬が発生するシステムなので、作業が遅いと収入の上でも成り立ちにくいと思います。
――仕事をする上で、日頃から気を付けていることがあればお聞かせください。
作業面でいうと、例えば、縫う順番を間違ったりしてほどいたりすると、生地が傷んでしまうため、間違わないように手際良く作業することと、劣化を防ぐため生地をあまり触らないように気を付けています。
半ば日常化しているのは、お店などで洋服を見ているときに、自然に縫い方や仕組みをチェックしたりすることです。でも、店員さんには嫌がられます(笑)。
縫製って、時代と共にどんどん変わっていくもので終わりがありません。ここまで縫い方を習得したからもう完成、ということがないんですね。特に私の扱う製品は奇抜なデザインのものも多く、固定観念にとらわれてしまうと先に進めなくなってしまうので、いつも頭を柔らかくしておかないといけないなと思います。
身につけた技術は一生もの。在宅でも続けられる仕事
――実際に仕事を始めてみて、驚かれたことやギャップを感じたことなどはありますか?
縫うことが楽しくてここまでやってきましたので、特にそういうことはありません。量産工場ではアイロンと裏地の作業ばかりだったので、サンプル工場に入りたての頃は、仕事が楽しくてしょうがなかったんです。残業も苦にならないほど、日々新しいことを覚えていく喜びがありました。何事も、覚えたての頃って楽しいですよね。
――この仕事の良さはどのようなところだと思われますか?
一度身に付けた技術は一生ものです。目が悪くならず、体力さえあれば、80歳になっても続けられる仕事です。また、この仕事は自宅でやることも可能です。私も子育て中は在宅で仕事をしました。ですから育児や家族の介護のためにフルタイムで働くのが難しい時期があるかもしれない女性にとっては、時間の融通が利く点で、とても良い仕事だと思います。縫い物であれば、何でも自分で作ることができるのも利点の一つです。子どもが小さかった頃は、子どもの服を作ってあげたりして、とても楽しかったです。
サンプル工場で作る製品は、原則的に1点もの。一つひとつの作品が全て違うため、難しい分毎回新しい発見があり、それがこの仕事の醍醐味の一つだといえます。また、結婚や出産をしても自分なりの生活スタイルで長く続けていける仕事であることも、ソーイングスタッフという仕事の大きな魅力ですね。
宮沢さんをはじめ、スタッフの皆さんの明るい笑い声が絶えない職場であることも、アトリエセゾンのソーイングスタッフの皆さんが楽しく仕事を続けておられる理由だと感じました。
【profile】株式会社アトリエセゾン 縫製チームチーフ 宮沢
コレクション用サンプル縫製工場 アトリエセゾン
http://ateliersaison.jp/
この記事のテーマ
「ファッション」を解説
ファッションの専門知識や業界のビジネスノウハウを学び、感性やセンス、基礎技術を磨きます。作品の発表会や学外での職業実習などを通して職業人としての実践力を身につけるほか、資格取得を目指すカリキュラムもあります。仕事としては、素材づくりや縫製など「つくる仕事」と、PRや販売促進などファッションビジネスに関わる仕事に分かれます。
この記事で取り上げた
「ソーイングスタッフ」
はこんな仕事です
主に衣料品や服飾雑貨など、布製品の縫製を手がける職種。アトリエ(洋装店)での手縫いから工場で業務用ミシンを用いる作業まで、取り扱う製品や技術レベルによって、仕事内容は細分化される。既製服を量産する仕事もあれば、袖、身頃といったパーツごとに分業で縫製する仕事も多い。工場レベルでの縫製業務の場合は、受発注など管理業務に携わるケースもある。いっそう専門技術を求められる分野としては、アパレルメーカーのサンプルづくりや、オーダーメイド商品の縫製など、一点物を縫い上げる仕事がある。
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