【シゴトを知ろう】作曲家 ~番外編~

作曲・編曲・ベース奏者として多方面で活躍していらっしゃる音楽家の安岡洋一郎さん。番外編では、より具体的な仕事の流れや、作曲家として活動していくうえでのモチベーションなどをお伺いしました。
この記事をまとめると
- 主に鍵盤・ギターを弾きながら進めていく。最近は作曲時に編曲も必要
- 作曲家は個性的で変わった人が多い。ミュージシャン同士の交流は濃い
- 「この曲を聞くとあの場面を思い出す」そんな曲を作っていきたい
普段からアイデアをストック! ジャンルにこだわらずたくさん音楽を聞く
――作曲の依頼から制作の流れについて具体的に教えていただけますか?
作曲の依頼主は、レコードメーカーや歌手や声優の所属する事務所です。
複数曲から依頼主が選考して決める「コンペ」の場合は、デビュー前の新人でも20曲くらい、ある程度知名度のあるアーティストだと50〜100曲、大御所級になると100〜500曲も集まるケースもあります。
依頼主が直接特定の作詞家・作曲家に依頼をする「決め打ち」は、1970年代に主流で、一度はすたれた形だったのですが、最近は依頼主側も選考に過大な労力が割けないこともあり、信頼できる1〜3社に発注する形が増えています。
依頼の際には大抵、こういった方向性の曲が欲しいという「参考曲」がいくつか同時に提示され、そのイメージに沿って作曲作業を進めます。
納期は、1週間くらいのことが多いですが、急ぎの案件だと数日後の納期で依頼されたりもします。
時には、このアーティストにはこういう曲が合っているのではないか、とこちらから提案をすることもありますね。
ちなみに、作曲家としての収入は曲の買い取りということはあまりなく、ほぼ印税です。
――実際にどのようにして作曲をされているのですか?
普段から断片的なアイデアは常にストックしているという感覚です。基本的には、発注書を見てからこういう方向で作ろうと決めることが多いですね。
作曲の流れですが、一番最初は頭の中だけです。それが具現化されてきたら楽器、僕の場合は鍵盤が多いですね。ロック系の曲だとギターの方が作りやすかったりするので、ギターを弾きながらということも多いです。作曲は基本自宅で、ヘッドフォンをつけて行います。
また、最近はピアノと歌のみというシンプルな形で曲を提出するということはほとんどなく、ある程度アレンジされたものを提出する風潮です。
――1日何時間くらい作曲されていますか? 1曲作るのにどのくらい時間がかかるのでしょう
うーん、どうなんでしょう(笑)。ずっと作曲作業をしているともいえますし、曲を作る時間も本当にまちまちですね。できるときは2、3時間でできてしまうし、できないときは1週間経ってもできません。時間がないときはプレッシャーで、気が抜けてしまいます。
――良いクリエイティブを維持するために、日頃気をつけていることはありますか?
音楽をたくさん聞くことですね。ジャンルによらず何でも聞きます。常に何かを聞いているということではなくて、例えば参考曲を1曲聞くと、そこから興味が派生したり、掘り下げてルーツを辿ってみたり……というようなことはよくしています。
特に勉強という意識はないんですが、流行も気にしますし、若い世代の音楽も聞きます。若者の感性に触れるという意味でも、若い方との交流も積極的にしています。
インターネットの発達した今は音楽を独学で学ぶ事は難しくない
――安岡さんは中高生の時から独学で楽器演奏や作曲を学ばれてきたということですが、通常は音楽専門学校などに行く人が多いのでしょうか?
確かに専門学校に行く人も多いのかもしれませんが、独学でも十分学べると思いますよ。今、SNSやインターネットの情報がすごいじゃないですか。YouTubeでプロの弾くベースの手元が簡単に見られたりしますよね。ですから、独学でいくらでもできると思いますよ。
――そうは言っても、作曲家として認知してもらい、仕事を得るのはなかなか簡単なことではなさそうですね
たしかに個人でやっていくにも限界がありますし、正直なところ運もあると思います。
できる動きとしては、音楽事務所や制作事務所にどんどんデモを送るということでしょうね。デモを募集しているところも結構ありますので、トライするのが一番だと思います。
――作曲家にはどんな人が多いのでしょうか?
変わっている人が多いですね(笑)。みなさん表現の仕方が独特で面白い方ばかりですよ。喋り方だったり、物の例え方だったり、すごく個性的ですね。やはり常に何かを作り続けている人たちなので、みなさん面白いですね。
若い方にもチャンスはあるし、年輩でまだまだ活躍されている大御所もいらっしゃるので、作曲家として活躍できる年代は幅広いです。
――業界内、同業者の横のつながりはあるのでしょうか
取引先との関わりについては、歌い手に限らず、メーカーなどさまざまな多くの関係者と打ち上げやライブへの参加で関わりがあります。直接顔を合わせる機会を持つことは仕事をする上で重要ですが、プライベートで会う事はありません。
同業者間では、狭い業界なのでスタジオへ行けば知り合いに会うようなことは多いですし、今はSNSが発達しているので、芋づる式に知り合いが増えていくといった状況もあります。
ライブの打ち上げや、新年会・忘年会もありますし、何かしら理由をつけて飲みに行きたがりますね。みんなさびしがりやなんですよ(笑)。個性は強いけど、人の好きな人が多いです。
人の思い出に結びついていくような音楽を作りたい
――業界に入ってみて、意外だったこと、驚いたことはありますか?
みんな意外にちゃんとしてる人なんだなと思いましたね(笑)。
年輩のミュージシャンの方に昔の話を聞くと、昔は結構な武勇伝があったようなんですけど、今は健全です。若いミュージシャンの方たちは皆さんちゃんとしていて、一般企業にも就職できそうな感じですよ。
――これからやってみたいことや目標があればお聞かせください
とにかくいい曲を作り続けたいですね。「この音楽を聞くとあの場面を思い出す」というような、それぞれの人の思い出につながるような、そんな風に思ってもらえる音楽を作りたいですね。自分もそのようにして音楽に救われてきた部分も大きいので。
音楽を作ること、演奏することを楽しみながら仕事に向き合っておられる姿勢が、終始印象的でした。
ゼロから人の心を動かす音楽を生み出す作曲家という仕事にとって、知識や技術以上に、明るく前向きに音楽に向き合う姿勢が、良いクリエイティブのためには一番大切なものなのかもしれません。
【profile】株式会社グローブ・エンターブレインズ
作曲家・編曲家・ベースプレイヤー 安岡洋一郎
グローブエンターブレインズホームページ http://www.globe-eb.com/
この記事のテーマ
「音楽・イベント」を解説
エンターテイメントを作り出すため、職種に応じた専門知識や技術を学び、作品制作や企画立案のスキル、表現力を磨きます。音楽制作では、作詞・作曲・編曲などの楽曲づくりのほか、レコーディングやライブでの音響機器の操作を学びます。舞台制作では、演劇やダンスなどの演出のほか、舞台装置の使い方を学びます。楽器の製作・修理もこの分野です。
この記事で取り上げた
「作曲家」
はこんな仕事です
一言で作曲家といっても、クラシックから歌謡曲はもちろん、映画のサウンドトラック、CMソングなどつくった曲が使われる用途は幅広い。どの仕事でも作曲料と別に印税が収入源となる。ほとんどの場合は、依頼主の要望や企画の意図に沿って曲をつくることになる。曲調、長さなど、ボーカルの有無などを依頼主、スタッフとすり合わせてから、曲をつくり譜面を書く。演奏はキーボードなどで弾く以外にパソコン上のDTM(デスクトップミュージック)ソフトを使うこともあるが、作曲家によって手段は異なる。