【シゴトを知ろう】児童自立支援専門員・児童生活支援員 編
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家庭や学校での環境に恵まれず、つまづいたり失敗したりして孤立してしまった子どもたちが、安心して過ごせる環境を作り、社会に出るサポートをするのが「児童自立支援専門員」の仕事です。
今回は、埼玉県にある国立武蔵野学院で児童自立支援専門員として働く関根祥子さんに、その仕事内容や、この仕事に就くまでの道のりについて教えていただきました。
この記事をまとめると
- 児童自立支援専門員には、主に交替制と夫婦制の働き方がある
- この仕事に就くには、児童福祉や社会福祉について学ぶ必要がある
- 学生のうちからたくさんの人と関わり、さまざまな価値観に触れると良い
夫婦の職員が、子どもたちと同じ屋根の下で生活する
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。
児童自立支援専門員は、児童自立支援施設に入所している不良行為をした、またはするおそれのある子どもたちや、あらゆる理由で生活指導を必要とする子どもたちが、安心して生活できる場を作り支援する仕事です。
児童自立支援施設での働き方には、複数の専門員が交替で支援を行う「交替制」と、子どもたちが暮らす寮に実際の夫婦が住んで父親役と母親役を務める「夫婦制」があります。私は夫と共に夫婦制で勤務しており、子どもたちと同じ屋根の下で暮らしています。私たちには2歳の息子がいますが、同じ寮で我が子も育てているんです。なので、仕事というよりは生活の延長でもありますね。
<ある一日のスケジュール>
06:30 起床、息子を保育園へ送り出す
08:30 職員同士の打ち合わせ、関係機関との連絡調整など
12:00 寮で子どもたちと昼食
13:30 作業指導
15:45 レクリエーション(スポーツ)
17:00 息子のお迎え、掃除、子どもたちと夕飯
22:00日誌記入、子どもたちの自習チェック、日記にコメントを記入、夫と一日の振り返り
00:00 就寝
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
子どもたちと一緒に庭を眺めたりおしゃべりをしたりする、なんでもない日常に充実感を得ます。施設に来る以前は異なる人生を歩んできた者同士が、日常を共有し目標や楽しみを分かち合う経験を積み重ねることが大切なんです。その中で子どもたちは、こちらの予想を超える創造力や優しさを見せてくれます。
また、学院を退所した子どもが近況を連絡してくれると、この仕事のやりがいを感じますね。彼らの人生の中で私たちと過ごす期間はごく短いものですが、距離が離れても、連絡を取ったり久しぶりに会ったりして長く付き合っていきたいと思っています。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
児童自立支援施設では度々、子どもたちの反発心が問題行動として表れます。その状況が続くと、私たちも精神的かつ体力的に追い込まれ、目先の問題解決しか見えなくなるんです。すると、私たちも子どもたちも互いに不信感を抱き、つらい状況を生み出してしまいます。
しかし、単純に行いを正すだけではなく、あくまで「一緒に解決していく」という姿勢がこの仕事には必要です。なので、どんなに大変であっても、独りよがりにならないで「どうしたら解決できるか」を子どもたちと考えるよう意識しています。
養護教諭の母を見て、子どもの支えになる仕事を志した
Q4. どのようなきっかけ・経緯で児童自立支援専門員の仕事に就きましたか?
小学校の養護教諭だった私の母が不登校の子どもと関わる姿を見ているうちに、子どもに接する仕事への興味が湧きました。そして大学で児童福祉と精神保健福祉を学び、とりわけ心に問題を抱えた子どもたちを支える仕事に就きたいと思ったんです。
そして、具体的な職業を調べる中で見つけたのが「児童自立支援専門員」でした。児童自立支援施設で働くには国立(厚生労働省の所管)の養成機関に行く方法があると知り、大学を卒業してすぐ養成機関に進み、実際に子どもたちと接しながら専門的な知識を学びました。
Q5. 養成機関では何を学びましたか?
座学で学んだのは、児童福祉や社会福祉の知識です。しかし、それ以上に大きな学びとなったのが、実際に児童自立支援施設で働く先生方の働きを間近で見たことです。私の学んだ養成機関では、学生も子どもたちと生活を共にし、毎日の作業や年間行事を通して子どもたちと触れ合いました。
その過程には大変なこともありますが、周りの先生方は決して子どもたちを否定せず、どんな失敗も受け止め、全力で向き合う姿勢を貫いていました。まだ私はその姿に及びませんが、いつか、当時お世話になった先生方のようになりたいです。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
具体的な職業を考えていたわけではありませんが、私は人と関わる機会を多く持ち、楽しんでいた記憶があります。中でも一番時間をかけて取り組んだのが、ボランティア活動です。自治体が主催しているレクリエーション活動に参加し、小学生から大人まで多くの人と触れ合いました。
この経験で生まれた「人とじっくり関われる仕事がしたい」という思いは、今の仕事を選んだことにつながっていると感じます。
たくさんの人と触れ合い、心に触れる経験を積む
Q7. どういう人が児童自立支援専門員の仕事に向いていると思いますか?
よく、「一芸に秀でているといい」とか、「体が大きく運動ができるといい」などと言われますが、私は、子どもたちの心の声に耳を傾け、一緒に課題に向き合えることが、この仕事において本当に大切なことだと思います。どんなに小さな声でも拾い上げて寄り添ってあげられる人が、この仕事に向いているのではないでしょうか。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
この仕事に就くと、気持ちの上では四六時中、人との関わりの中に身を置くことになります。さまざまな背景を持つ子どもたちはもちろん、その家族や職員、たくさんの人と長い時間を共にし、向き合っていかなければなりません。その中で多くの価値観や思いに触れながら、「本当に大切なものは何か」を子どもたちと共に探していく毎日です。高校生のみなさんには、自分の殻を破り、いろいろな世界で生きる人の価値観を受け止める準備をしてほしいと思います。
家族のように子どもたちと寝食を共にしながら、彼らが安らげる居場所を作っていく児童自立支援専門員の仕事。この仕事には相手の考えを認めることや、子どもたちと分かり合うために正面からぶつかる勇気と相手の考えを理解し認めることが必要です。
この仕事に興味が湧いた方は、関根さんのように高校生のうちから人と関わり、福祉や社会について学べる学校を探してみてくださいね。
【profile】国立武蔵野学院 厚生労働教官(第6副寮長) 関根祥子
この記事のテーマ
「福祉・介護」を解説
現場で福祉を担う介護福祉士などのスペシャリストや、福祉サービスの企画・提案ができる人材を育成します。通常の生活を営むことが困難な人の生活を助けるための専門知識、技術を身につけ、職種により就業に必要な資格取得を目指します。高齢化が進む中、精神的なケアや寝たきりを防ぐための運動指導など、必要な専門知識や技術も幅広くなっています。
この記事で取り上げた
「児童自立支援専門員・児童生活支援員」
はこんな仕事です
傷害や窃盗などの非行問題に対応する児童自立支援施設の寮職員として、子どもと寝食をともにしながら指導にあたる仕事。児童自立支援専門員と児童生活支援員が、力仕事など生きるのための技術を教える父親役と、掃除や炊事などの生活技術を教える母親役を分担する。勤務形態は、実夫婦の職員が小規模の寮舎に住み込み、アットホームな環境下で継続的に支援する昔ながらの「小舎夫婦制」のほか、交代制や並立制、通勤制などがある。家庭的かつ福祉的アプローチで大人不信の子どもとの心の距離を縮め、社会的自立へと導く。