【シゴトを知ろう】法医学医 編
メイン
テーマ

ドラマや小説にも登場することの多い、医学的な判断で真相に迫る法医学医。クールで聡明なその雰囲気に、憧れた経験があるかもしれませんね。しかし、実際に法医学医がどんな働き方をしているのかは、知らない人が多いのではないでしょうか。
今回は、神奈川県にある大学に籍を置き、法医学医として活躍している井濱容子さんに、その仕事内容ややりがいについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 法医学医の仕事には法医実務、研究、教育の3本の柱がある
- 法医学医になるには、大学院に進学し幅広い分野の学びが必要
- たくさんの経験をして、人の気持ちや物事の背景に敏感になることが大切
医学的な判断を下すことで、世の中の平和に貢献できる仕事
Q1. 仕事内容を教えてください
法医学医の仕事には、ご遺体の死因を明らかにして警察や司法に医学の面で協力する「法医実務」と、大学に所属して行う「研究」、大学の講師として学生に講義する「教育」の3つの柱があります。
毎日の仕事の流れは、その日に対応すべき法医解剖や生体鑑定(虐待を受けた子どもの損傷鑑定など)のボリュームによって大きく変わります。解剖がある日は、だいたい朝の9時頃から正午過ぎまで解剖を行い、午後は、大学で研究や講義をしていますね。解剖が2件以上ある日は午後も作業を続けるので、かなり長丁場となります。
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
やはり、世の中の平和に貢献できることですね。例えば、犯人はもちろん、使用された凶器も分からないという事件でも、法医学医の検証によって、犯行状況や凶器について助言できることがあります。早期の事件解決や犯人逮捕につながる働きができるという点は大きなやりがいになっています。
加えて、法医学は扱う事件によって知っておくべき知識のジャンルや学問分野が幅広いため、勉強しなければならない領域がとても広いのですが、さまざまなことを学んだり経験したりできるのも魅力的な点だといえます。
また、検察官や警察官、裁判官や児童相談所の職員など、普段は関わらないような人たちとの出会いがあるのも刺激になります。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
法医学医の醍醐味ともつながりますが、鑑定を行う際には自分の中で判断を下さなければならないことがたくさんあります。自分の判断によってその後の捜査や裁判の進め方などの対応が変わるので、大きな責任と緊張を感じる場面もあります。
しかし、そういったプレッシャーを乗り越えて判断を下すことで、事件解決やご遺族の救いになれるのではと考えています。
たくさん泣いたり笑ったりした経験が今に生きている
Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
高校卒業後、青森県にある大学の医学部に進学しました。大学4年生の授業で法医学を学びましたが、それまでは法医学についての知識はほとんどありませんでした。そのころは、自分が法医学医になるとは思っていませんでしたね。
ただ、学生時代から病理学(顕微鏡を使って病気の原因やその経過を研究する学問)、解剖学、外科学、精神科学など多くの医学分野に興味があったので、いろいろな分野に関わる法医学を専攻しようと思ったんです。
Q5. 大学では何を学びましたか?
医学部では、臨床医になる人と同じように医学の基礎や最新医療について学び、医師国家試験を受けて合格しました。ちなみに、法医学医になるには、このプロセスが必須です。
その後は、初期研修と呼ばれる、実際の病院で医師として働く研修を経て、法医学を専攻するために大学院に進学しました。大学院では博士号を取るために法医学的な研究を行うとともに、一人前の法医学医になるために必要な知識や技術を身に付けました。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
小さいころから人の精神構造に興味があり、漠然と「精神科医になりたい」と考えていました。精神科医とは、精神障害や依存症の治療、予防などを専門に扱う医師のこと。人の心理や行動に関係することが多い法医学は、精神医学と大きく関わっているので、当時の思いが今の仕事につながっているともいえますね。
また、高校時代に、友人とともに泣いたり笑ったりして感情をたくさん動かした経験が、法医学医としての考え方に役立っていると感じることがあります。
一つの事象から、多くのことを読み取り考えられる人が向いている
Q7. どういう人が法医学医の仕事に向いていると思いますか?
私自身が「こうでありたい」と思う理想でもありますが、目の前にあるものだけでなく、その先にあるものを見据えるしっかりとしたビジョンや信念を持っていることは大切ですね。
人が亡くなる背景には、多くの人とたくさんの事象が複雑に関係しています。法医学医は、目に見えない背景にも心を巡らせる必要があると思っています。なので、目に見える事柄だけではなく、その意味や理由、影響まで考えられる人は向いているのではないでしょうか。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
法医学の任務である「死を診る」ということは、人が最期に受ける医療です。これは社会にとって不可欠であり、「私がやらなければ」という自負と誇りを持って日々働いています。
亡くなった方は、それぞれの人生を歩み、あらゆる理由で我々法医学医のところにやってきます。彼らの最期をきちんと受け止めるためには、机の上だけではなく、社会や人間についての“勉強”をする必要があると思っています。
だからこそ、高校生のうちはとにかく一生懸命泣いて、笑って、怒って、喜んで、人の心に臆せず触れてみてください。その経験は、あなたが法医学医の仕事に就いたときに、必ず生きてきます。
さまざまな分野への興味から、法医学の世界に飛び込んだ井濱さん。事件を解決に導き、世の中の平和に貢献するためには、法律、医学の知識だけではなく、幅広い領域の学びが必要となるのですね。
法医学医の仕事に惹かれた人は、医学にはどんな分野があるのか調べてみてはいかがでしょう。興味の湧いた分野から、法医学につながる道があるかもしれませんよ。
【profile】法医学医 井濱容子
この記事のテーマ
「医療・歯科・看護・リハビリ」を解説
医師とともにチーム医療の一員として、高度な知識と技術をもって患者に医療技術を施すスペシャリストを育成します。医療の高度化に伴い、呼吸器、透析装置、放射線治療などの医療・検査機器の技師が現場で不可欠になってきました。専門的な技術や資格を要する職業のため、授業では基礎知識から医療現場での実践能力にいたるまで、段階的に学びます。
この記事で取り上げた
「法医学医」
はこんな仕事です
法律に関わる諸問題に医学的な判断が必要とされる場合、これを鑑定・研究して解明し判断を下す仕事。具体的には死因や身元を特定するための司法解剖、親子鑑定、血液型鑑定などが挙げられる。法医学医として働くには、医師免許に加えて死体解剖資格、機関長の推薦、法医学教室での200例以上の法医解剖経験、5回以上の学会報告などが必要で、日本法医学会の認定制度の審査を受けて、認定を受けなければならない。多くの場合、法医学教室で研修医として経験を積んだ後、専門の研究機関などに就職する。