【シゴトを知ろう】レーサー ~番外編~
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国内自動車レースのトップカテゴリで活躍するレーサーの大嶋和也さん。レーサーにとって最も大事な「速さ」を分けるものについて、レーサーになるための具体的なルートについて、そして謎の“レーサーあるある”についても伺いました。
この記事をまとめると
- メカニックが信頼を寄せるような人間でないといけない
- 車の状態を繊細に感じ取る力と平常心が「速さ」を分ける
- 日本では自動車メーカーの育成プログラムがレーサーの登竜門になる
1秒でも早く家に帰りたい!?
――“レーサーあるある”のようなエピソードがあれば教えてください!
みんな負けず嫌いなので、ゲームでも何でも勝負事を始めると終わらなくなります(笑)。それと時間に異常にこだわりますね。レースが終わった後、いかに1分でも早く家に帰るかということに懸けていて、みんな毎回ダッシュで新幹線に飛び乗っています。早く帰って何をするわけでもないのですが、とにかく1秒でも早く帰りたいんです(笑)。
――レース業界は皆さん仲が良いのでしょうか。どのような関係性なのでしょうか
ドライバーはそんなに数多くいるわけではないのでみんな仲良しですよ。メカニックもほとんど顔見知りです。どのチームにも1人くらいは以前一緒に働いたことのあるメカニックがいますので、レース期間でもピット裏で会ったときは話をします。もちろんピリピリするところもありますが、「何か情報を教えて」と言えば、差し障りのない範囲で多少は教えてくれたりします。この業界は自分が働きやすい環境にどんどん移っていけばいいという考えがあるので、別のチームに移ったからといって気まずくなることはありません。
――仕事で転機となった出来事は?
2007年に「全日本F3選手権」と「SUPER GT」のGT300クラスで年間チャンピオンになり、翌年ヨーロッパに渡って「ヨーロッパ・フォーミュラ3選手権」に1年参戦しました。なかなか環境になじめなくて、レースは簡単に結果が出るものでもないので大変な思いをしました。車の問題もあったので現地のスタッフは励ましてくれましたが、日本にいる人たちは結果しか見てくれませんから、「なぜ結果を出せないんだ」と電話で言われたりしたこともつらかったですね。結果だけ見るとさんざんな1年でしたが、今考えればそれも良い経験になったと思います。
――レーサーはどのようにキャリアを積み上げていくのでしょうか
日本ではトップカテゴリである「SUPER GT」のGT500クラスと「スーパーフォーミュラ」に参戦するレーサーが唯一プロと言えるレーサー。つまりレーサーとして生計を立てられている人たちです。海外でプロのレーサーとして活躍するのは日本より難しいことです。日本では自動車メーカーの支援もありますしレースの観客動員数も多いので、その環境を求めて海外からもたくさんのレーサーがやって来ます。
速さだけでなく人間性が大事
――レーサーは何歳くらいまで活動できるのでしょうか
最近は体づくりのノウハウも向上しており、年齢を重ねてもトレーニングをすれば体は衰えません。40歳半ばのドライバーでも速い人はいますよ。それくらいの年齢までは続けられると思います。ただ、ストレスが強い仕事なので、それに耐えられるかどうかという問題はあります。
――第一線で活躍するレーサーに共通することはありますか?
人間的に魅力のある人が多いです。どれだけ速くても、「このドライバーのために寝ないで頑張ってやろう」というメカニックの人たちがいないと僕らはやっていけません。人間性が何よりも大切です。
――レーサーの「速さ」を分けるものは何ですか?
感覚ですね。運動神経は関係ありません。足・腰・背中・ハンドルから伝わる車の状態を、いかに繊細に感じ取れるかが大切です。僕たちは車高やウイングの角度が0.何ミリ違っても気づきます。あとはいかに平常心で乗れるかという精神的な面が大きいです。調子がいいときに走れば基本的にドライバーの差は出ないんです。その差を分けるのはメンタルです。
――メンタルのトレーニングもしていますか?
若い頃に一般的なスポーツ選手向けのメンタルトレーニングの講習を受けたことがあります。「結果を意識せずに自分自身が楽しもう」という教えだったのですが、自分には合わないなと感じました。レーサーは裏で頑張ってくれる人がいて成り立つ仕事です。「結果は出なかったけれど僕は楽しめました」と口に出したほうがいいとも言われたのですが、そういう人が魅力的だとは思えないし、それは表に出してはいけないことだと思うんです。ひたすら泥臭く1位を狙っていくほうが自分には合っているなと思っています。
――レース前やレース中はどのような心境なのでしょうか
レース前の心境はその時々ですね。「結果を残さないといけない」「ミスをしてはいけない」という恐怖心はありますが、レース自体への恐怖心はありません。車に乗ってハンドルを握れば「1秒でも速く」ということ以外は何も考えません。
カートで結果を出すことで突破口が開ける
――レーサーになりたいと思ったらどうすればいいのでしょうか
カートで結果を出して上のカテゴリに上がっていく人が多いですね。僕は子どもの頃に近所にたまたまカート場ができたので毎日通えましたが、そうでない人はその環境を手に入れることから始めないといけません。練習するにはお金も必要です。カートを買う費用だけでなく、カートで全日本チャンピオンを目指すなら速いエンジンも必要です。サーキットによって相性の良いエンジンが異なるため、さまざまなメーカーのエンジンを集めて試す必要がありますし、レースごとにオーバーホールしないといけないのでエンジンチューナーも雇わないといけません。親の援助がないと難しいという面もあります。
――レーサーになるにはどのようなルートがあるのでしょうか
トヨタ自動車や日産自動車などの自動車メーカーは、若手ドライバーの発掘・育成を行うスカラシップ・プログラムを運営しています。カートの大会で結果を出すとそれらのプログラムへの参加を打診されます。急に降ってきたチャンスをつかまないといけない厳しいものではありますが、そこでスカラシップを獲ることができれば国内外の有名なレースに参戦するチャンスが広がります。
それ以外には、実力をつけて自分で営業してスポンサーを獲得し、そのお金を持ち込んでレーシングチームに入り、結果を出して自動車メーカーから声が掛かるのを待つという方法もあります。始める年齢はあまり関係なくて、高校生から始めて結果を出す人もいます。
――今、日本のレース界は盛り上がっていますか?
最近は地上波でレースが放映される機会は少なくなりましたが、インターネットで生中継を見られるようになりましたし、サーキットに来るお客さんの数もだんだん増えてきています。僕が今年参戦する「SUPER GT」や「スーパーフォーミュラ」は初めての方でも楽しめるイベントなのでぜひ一度サーキットに遊びに来てください。
「SUPER GT」のGT300クラスでは年間チャンピオンになったことのある大嶋さん。次の狙いは現在参戦中のGT500で年間チャンピオンを獲ることです。「SUPER GT」の予選はニコニコ生放送でも無料LIVE配信されていますので、興味を持った方はまずはそちらをチェックしてみると良いのではないでしょうか。
【profile】レーシングドライバー 大嶋和也
Twitter:@oshima_kazuya
チームルマン:https://www.teamlemans.co.jp
SUPER GT:https://supergt.net
スーパーフォーミュラ:http://superformula.net/
この記事のテーマ
「自動車・航空・船舶・鉄道・宇宙」を解説
陸・海・空の交通や物流に関わるスキルを学びます。自動車、飛行機、船舶、鉄道車両などの整備・保守や設計・開発、製造ラインや安全の管理、乗客サービスなど、身につけるべき知識や技術は職業によってさまざまで、特定の資格が求められる職業も多数あります。宇宙については、気象観測や通信を支える衛星に関わる仕事の技術などを学びます。
この記事で取り上げた
「レーサー」
はこんな仕事です
レースで自動車を運転することが仕事。競技選手として、サーキットでスピードや技術、走行距離を競う。普通自動車運転免許の取得はもちろん、ライセンスも必要。国内Aライセンスがあればほとんどの国内レースに出場でき、国際C、B、A、スーパーライセンスの順で取得していく。そしてスーパーライセンスを持つ者は、F1に参加することもできる。レーサーになるには、レーシングスクールや養成所を経てレーシングチームと契約をするのが一般的。レースで好成績を収め、スカウトされる場合もある。
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