【シゴトを知ろう】科学捜査研究員 編
科学捜査研究所は、都道府県警察本部に設置されている研究機関。「科捜研」という略称を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。研究員の皆さんはいくつかの専門分野に分かれて事件現場に残されたさまざまな物を鑑定し、科学的な見地から犯罪捜査に貢献しています。神奈川県警察の科学捜査研究所で働くEさんに、そのお仕事内容を伺いました。
この記事をまとめると
- 証拠物件を科学技術で鑑定・検査し、有用な情報に変える仕事
- 生物科学・化学・機械工学・文書・心理といった各専門分野がある
- 物事に真面目に取り組める勤勉な人が向いている
裁判の結果にも関わる、責任とやりがいの大きい仕事
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください
科学捜査研究所は、科学を使って犯罪を証明する機関です。私たちの役割は、犯罪で使用された物や現場で採取された証拠物件などを鑑定・検査し、有用な情報に変えていくこと。例えば薬物なら、それがどんな薬物で、法規制されているものなのかどうか。そういったことを科学的な技術によって明らかにしていく仕事です。
所内には専門性の異なるいくつかの部門が配置され、生物科学(法医学)・化学・機械工学・文書・心理の5分野に大きく分かれています。私は化学分野を担当し、その中の「工業製品科」という部署に所属しています。工業製品科で対象とするのは、衣類の繊維や自動車の塗膜、樹脂、金属、ガラス、火薬といった工業製品です。犯罪現場に遺留されたこれらのものを、さまざまな機械や科学技術を用いて鑑定しています。
<一日のスケジュール>
8:00 出勤
8:30 朝礼、機器・車両の点検、鑑定
12:00 昼食
13:00 鑑定
17:15 終業、その後研究など
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
鑑定の結果をまとめ、作成する鑑定書は裁判において証拠として扱われます。自分が作成した鑑定書によって裁判がどう進むかが変わるため、非常に大きな責任を伴い、それがやりがいにもつながっています。また科学捜査研究所は警察組織ということもあり、他の機関では扱わないような鑑定を行うこともあります。「ここでしかできないことなんだ」と思うと、やはり仕事にも力が入ります。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
私が扱う工業製品の多くは微細物です。重要な鑑定資料を作業中に見失うようなことは絶対にあってはならないので、取り扱いには非常に神経を使います。また犯罪は平日・休日を問わず起こります。緊急の呼び出しに備えて休日も研究員が交代制で待機しているのですが、その当番の日はなかなか気が休まりませんね。
大学時代に聞いた先輩の話から科捜研の仕事を知る
Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
大学1年生の時、授業の中で科学捜査研究所に勤めるOBの話を聞く機会があり、そこで初めて「こんな仕事があるんだ」ということを知りました。その後大学で勉強するうち、現在の仕事とも関わりのある、物質の化学組成を解析する分析化学という学問に興味を持ちました。そんな中で同じ学部の先輩が科学捜査研究所に就職し、その姿を見て「自分もチャレンジできるかもしれない」と研究員を志望するようになりました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
「薬剤師になりたい」と考え薬学部に進学しました。でも化学に関する知識を幅広く学ぶうちに、薬剤師よりも研究機関で仕事がしたい、その中でも分析化学が使える機関で働きたい、と考えるようになりました。薬学の本質からは少しずれるかもしれませんが、大学で学んだことが現在の仕事に生きる場面もあります。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
高校時代は部活でテニスに打ち込んでいました。また、その頃から化学が好きで、大学は化学系の学部に進みたいと思っていました。当時は薬剤師になりたいと考えていたので、現在の仕事と直接的にはつながっていません。でも薬学部に進学しなければ科学捜査研究所を知るきっかけもなかったので、結果的には良かったと思います。
高校時代の努力は必ず将来に生きてくる
Q7. どういう人がその仕事に向いていると思いますか?
科学捜査研究所なので、少なくとも科学に興味を持っている人。またどんな職種にもいえるかもしれませんが、勤勉な人が向いていると思います。証拠物件の鑑定は非常に大きな責任を伴う仕事なので、いい加減な人だと組織としても困ってしまいます。周りの研究員も、やはりコツコツ真面目に物事に取り組むタイプが多いですね。勤勉な人でないと、細かい分析作業を行うのはなかなか難しいのではないでしょうか。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
自分が進みたい道をしっかりと見定めて、そこに行くにはどうすればいいかを調べ、実現するために努力をしてください。結果的に当初思い描いていた職種とは違う仕事に就いたとしても、努力した過程は絶対どこかで生きてくるはずです。私も初めは薬剤師を志望していましたが、途中で考えが変わり科学捜査研究所の研究員になりました。でもそれまでやってきたことは決して無駄にはなっていません。自分を信じて、今できることに精一杯取り組んでほしいと思います。
科学捜査研究員の採用選考は警察官の採用試験とは別に行われます。採用は毎年定期的に行われるものではなく、基本的には欠員補充や増員の際に募集があるのだそう。科学捜査研究所での仕事に興味がある方は、各警察本部のホームページなどをこまめにチェックしておくとよいかもしれません。
【profile】神奈川県警察 科学捜査研究所 研究員 E
http://www.police.pref.kanagawa.jp
この記事のテーマ
「公務員・政治・法律」を解説
公務員は、国や地方自治体の行政に携わり、よりよい地域、町づくりを支える仕事です。政治に関しては政党の活動を支える政党職員、法律では弁護士や検察官などの仕事もあります。これらの仕事に就くには、公務員採用試験、司法試験など関連する資格を取得し、官公庁や行政機関の採用試験を通過することが必要です。
この記事で取り上げた
「科学捜査研究員」
はこんな仕事です
略称は科捜研(かそうけん)、警視庁や道府県警察本部に置かれている犯罪科学に関わる研究機関だ。生物学、医学、化学など、専門性の異なる各部門が配置されている。生物第四研究室では、犯罪捜査の鑑定・検査のためのDNA個人識別法などを実施。物理研究室は、画像解析技術などの研究開発を展開。化学第四研究室では、土砂、植物の鑑定法を研究。そして、化学第五研究室が、有害性ガスや化学兵器、異臭事案などの鑑定・検査を推進している。法科学に関する総合的な知見を深めたい人に最適な研究職である。
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