【シゴトを知ろう】スポーツリハビリトレーナー ~番外編~
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高校時代に患ったケガが原因で子どもの頃から続けていた野球を辞めた渡部真弘さんは今、日本一にもなった高校野球チームのトレーナーとして活躍しています。強豪校の野球選手をどのようにサポートしているのか、詳しく伺いました。
この記事をまとめると
- チームの交流の場を作るのもトレーナーの仕事
- 選手と一緒に戦っている感覚を味わえるのが一番のやりがい
- 「トレーニング」「栄養」「休養」のバランスを取ることが大事
優勝するチームは会話が多い
――日本一になったときの野球部のチームの雰囲気はどうでしたか?
トレーナーとして甲子園の期間中ずっとチームに帯同しましたが、やはり優勝しそうな雰囲気は最初からありましたね。野球部には寮生が多いのですが、10年ほどこのチームのトレーナーをしていて感じるのは、寮の談話室に人がたくさん集まっているときのチームは強いということです。勝っているチームは何もなくても同じ空間に集まり、テレビを見たりストレッチをしたり普通に会話したりという時間が長いんです。日本一になったときのチームもまさにそうでした。
そういう場を作ってあげることもトレーナーの仕事だと思っています。甲子園の期間中はホテルの部屋にこもる時間が長くなるため、チームメイト同士の交流が少なくなったり、スマホや携帯をいじって寝不足になったり目に負担をかけたりという弊害も出てきます。そうならないようホテルにみんなが集まれる共有スペースを借りました。夕食時もみんなで集まるのですが、監督やコーチ、教員の皆さんもいるので生徒同士の会話はあまり弾みません。そのため毎夕食後に生徒だけで自由に外出させて、その後共有スペースに集まって30分くらいストレッチなどをする時間を作りました。そこではたくさんの会話が生まれました。野球の話よりもふざけた話のほうが多いのですが(笑)、リフレッシュもできてチームの一体感を高める場を作ることの重要性を感じました。
――選手だけでなく、監督やコーチと良い関係性を作ることも大切ですよね。やはりそこは気を使いますか?
それが一番気を使うところで、チームに付く仕事の大変な部分でもあります。僕は週に1回は選手全員の状態をチェックしているので、みんなが下半身に症状を訴えているときなどは「ちょっと練習量が多いんじゃないかな」と思うのですが、それを監督に提案する際の切り出し方はすごく気を使います。単純に「練習量を減らしてください」と言っても納得してもらえないので、選手の足に疲労が溜まっていることから、それがどうケガにつながるかということを順序立てて説明しないといけません。
また、ケガにつながるようなフォームで投げている投手を見たりすると練習メニューにも細かく指示を出したくなるのですが、トレーナーという立場のため全てに口出しすることはできません。
――そうなると、自分で監督をやりたくなってしまいませんか?
実は20代前半の頃には少し思ったことがあります。トレーナーの知識を持った人が監督をやればケガは生まれないんじゃないかと思ったんですね。でもそうではありませんでした。監督というのは勝負師でないといけません。逆にトレーナーは勝負師になってはいけない仕事です。トレーナー目線では選手がケガをしないように限界を超えないよう制限をかけてしまいますが、いざ勝負となればケガを負っていても試合に出場しなくてはいけないときがあります。つらさを耐えて踏ん張ることで成長できることがアスリートにはよくあり、ちょっと痛いくらいで止めさせていたら選手も成長できません。もちろん選手生命に関わるケガを負っている時は断固として出場させませんが。監督やコーチというのは、その大事な局面を見極める目を持っている人が多く、トレーナーとは適性が全く違うんですね。
社会人野球やプロ野球のステージにも挑戦したい
――この仕事をしていて休日や住む場所などが制限されることはありますか?
日曜日は試合に帯同したり、選手と一緒に病院へ行って医師の話を聞かないといけないこともあるので休めないことが多いです。代わりに水曜日を定休にしています。さすがに一般の会社員の方に比べたら休日の数は少ないと思いますが、その代わり選手が試合で活躍したりチームが勝ったときは大きな喜びを共有できます。一緒に戦っているという感覚なんです。それが一番のやりがいでもあります。
住む場所は現場の近くがやはり便利なので、契約先に左右されますね。僕はメインで見ている野球部のある高校の近くに整骨院を立ち上げ、その近くに住んでいます。
――渡部さんのように拠点となる整骨院を開業するトレーナーの方も多いようですが、整骨院を開業するのは大変でしたか?
治療に使う機器が高額なので、初期費用が一番のネックでしたね。僕は銀行から融資してもらいましたが、規模を抑えて小さくスタートすることもできると思います。院は今年で5年目になりますが、選手以外にも地元の高齢者の方など一般の患者さんにも来院していただいています。スタッフも6名いるので僕がチームの現場へ行くときは彼らに任せています。
――スポーツに打ち込んでいる高校生に対して、プロのトレーナーとしてどんなアドバイスを送りたいですか?
最近は昔に比べて練習量を抑える傾向にあります。というのも「トレーニング(練習)」「栄養」「休養」の3つのバランスが良くないとケガや病気が起こりやすくなるからです。トレーニングしていれば強いというわけではなく、バランスが大事なんです。どうしてもトレーニングがメインになりがちですが、睡眠時間が短くなったり食事をおろそかにしてしまうと、体が細くなって不調が出やすくなります。だからアスリートは普通の人より風邪をひきやすかったり、心臓に負担がかかって突然死することもあります。そうならないためには偏りなく3つ全てを高めていくことが大切です。
――今後チャレンジしたいことはありますか?
高校野球のトレーナーを長年続けてきたので、大学野球や社会人野球、プロ野球など、違うカテゴリーにもチャレンジしてみたいです。トレーナーとしてのランクがカテゴリーによって変わるわけではないのですが、ずっと見てきた高校生たちが卒業して次のステージに進んだ後も見続けたいという気持ちがあります。またいろいろなカテゴリーを一通り経験することで見えてくることもあると思うんです。
あとはトレーナーならみんな思っていることだと思いますが、2020年の東京オリンピックに何かしらの形で関わりたいなと思っています。野球で関わることができれば一番良いのですが、関われることがあるなら何でもしたいです。オリンピックというものがどういうものなのか、一度は体験してみたいですね。
トレーナーの仕事は現場での対応だけでなく、長い目で見たトレーニングの指導やメンタルのケア、栄養指導なども求められます。渡部さんのようにチームに付いている場合、選手同士の交流を深めたりチームの士気を高めたりするための役割を買って出ることもあります。自分次第で仕事を広げられるやりがいのあるお仕事のようですね。
【profile】さがみが丘整骨院 院長 渡部真弘(わたなべ まさひろ)
http://sagamigaoka.com/
この記事のテーマ
「健康・スポーツ」を解説
スポーツ選手のトレーニングやコンディション管理に関わる仕事と、インストラクターなどの運動指導者として心身の健康管理やスポーツの有用性を広く一般に伝える仕事に大別できます。特に一般向けは、高齢化の進展や生活習慣病の蔓延が社会問題化する中、食生活や睡眠も含めて指導できる者への需要が高まっています。授業は目指す職業により異なります。
この記事で取り上げた
「スポーツリハビリトレーナー」
はこんな仕事です
スポーツ選手がベストパフォーマンスを発揮できるようサポートする職業。トレーニング理論やリハビリの知識・技術を生かし、健康管理や栄養指導をはじめ、メンタルケア、慢性疾患に対するマッサージ、けがの応急処置などを行う。さまざまな専門能力が問われるため、複数のスポーツリハビリトレーナーが連携して選手のケアにあたる場合もある。必須となる資格はないが、公益財団法人日本スポーツ協会が認定する「アスレティックトレーナー」や日本アスリートリハビリテーショントレーナー協会が認定するトレーナーなどの資格がある。
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