【シゴトを知ろう】産業カウンセラー 編
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2015年12月、50人以上の従業員が働く事業所において、職場のストレス状況を調べるための検査(ストレスチェック)を定期的に行うことが義務付けられる(*1)など、近年、働く人の心の健康について採り上げられることが増えています。
今回は、心理系の著書を出版されたり、講演を行ったりしている産業カウンセラー(*2)の笹氣健治(ささきけんじ)さんに、ビジネスパーソンを対象にしたカウンセリングの目的や難しさ、心理学に興味を持つようになったきっかけなどについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 抱えている問題を解決できるのは自分自身。カウンセラーは考え方や行動を改善へと導く
- 仕事や家庭が思うようにいかない……。実践したのは心理学的アプローチ
- 努力して目標達成した経験が自信につながる。精神力や粘り強さを身に付けるため、成功体験を積み重ねよう
スポーツクラブ経営、カウンセリング、講演、執筆……。大忙しの毎日!
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください
メインの仕事として宮城県仙台市でスポーツクラブを経営していますが、ビジネス分野でのカウンセラーとしても活動しています。
執筆した本や月に1回程度配信している心の健康に関するメールマガジンの読者、知り合いからの紹介で来られた人に対してカウンセリングを行う他、企業や団体から依頼を受けて、メンタルヘルス(心の健康)や職場でのコミュニケーションの取り方などに関する講演をしています。
ビジネスパーソンに向けたカウンセリングは、心理学に基づいた手法を用いて、その人が抱える問題を自力で解決できるようにサポートすることが目的です。上司や部下との人間関係、仕事でのストレス、将来への不安などから心や体が不調になることがあるので、一緒に原因を探ります。
うつ病などの精神疾患を扱う精神科医とは異なり、日常生活で抱えるストレスや悩みを解消するために、考え方や行動の改善を図る支援をします。
一日のスケジュールは日によって変わります。カウンセリングや講演の予定が入っているときはその準備や対応を優先的に行いますが、スポーツクラブの経営や執筆活動など他の仕事もありますので、複数の仕事を調整しながら同時進行しています。
<ある一日のスケジュール>
09:00 スポーツクラブへ出社
09:10 心理学の勉強
10:00 社内打ち合わせ、メールチェック
12:00 ランチ
13:00 カウンセリング(社内のカウンセリングルームで来訪者に対して)
15:00 移動
16:00 心理学についての講演
18:30 帰社
19:00 メールチェック、退社
*1 ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等重労働対策等
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/
*2 産業カウンセラー:メンタルヘルス対策やキャリア開発、組織作りに関する専門知識と心理学を用いたカウンセリングによって、働く人とその職場を援助することを目的とした資格。一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定している。ハローワークの相談員、企業の人事部、管理職などで本資格を生かして活躍している人も多い。
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
似たような悩みを持つ相談者がいても、同じ対応でうまくいくこともあれば、そうではないこともあります。人は皆それぞれ違った人生を生きていますので、その人に合った対応ができるようにカウンセリング技術を常に高め続ける必要があります。知識を深め実践してみて結果が出るとうれしいですし、その臨機応変さを学ぶことを楽しんでいます。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
カウンセリングをした人との距離の取り方が難しいことがあります。精神的に追いつめられた方の場合、突発的に自殺願望が現れることもあるので、真夜中に連絡を受けることがあるんです。
「今、話を聞いてほしい!」と支援を求めてくるのですが、その対応は常に迷います。人によってはカウンセラーへの依存を強めてしまうため、予定された時間外の対応はしない方がいい場合があるからです。カウンセリングで会う時間以外にどこまでその人に関わるのか、難しい問題ですね。
心理学に興味を持ったのは、自分自身の悩みがきっかけ
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
大学卒業後はしばらくサラリーマンとして仕事をしていましたが退職し、父の事業を継いでスポーツクラブ経営に携わるようになりました。ところが、初めて経営の仕事に関わったためか、部下との信頼関係づくりにとても苦労したんです。
さらに私生活では、子どもが生まれたのに家庭を顧みず仕事漬けだったため、夫婦関係に溝ができてしまいました。「このままではまずい、何とかしなければ」と思ったことが、カウンセリング心理学を学ぶようになったきっかけです。学んだことを実践してみたら部下や妻との関係が改善したので、心理学にハマりました。
自分と同じようなビジネスパーソンの悩みに寄り添いたいと思い、働く人のメンタルヘルスを支援するために設けられた産業カウンセラーの資格を取得し、スポーツクラブを経営する傍ら、本の執筆や企業向けの講演、大学での非常勤講師、そして個人向けのカウンセリングなどを行うようになりました。
なので私の場合は、経営者をやりながら産業カウンセラーの資格取得を通じて学んだことを生かした仕事を行っています。産業カウンセラーの中でも、私のような仕事のスタイルは珍しいと思います。
カウンセラーとしての知識や技術を磨くため、現在でも臨床心理士の先生に師事して、定期的にトレーニングを受けているんですよ。
Q5. 大学では何を学びましたか?
「これからは国際化の時代。英語を身に付けることが必要だろう」と考えて、英語教育が充実している東京の大学に進学しました。自然科学科の物理専攻で科学と生命を中心に生命や自然現象の解明と応用について学び、南極大陸について研究していました。
地元から離れた大学に進学したのは、単純に、親元を離れて生活してみたいという理由もあったと思います(笑)。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
実は、高校時代にはこれといった夢は持っていませんでした。「とにかく志望する大学に入って、将来のことはそれから考えよう」と思っていました。
将来の夢が明確な人はその実現に向かって頑張ればいいと思いますが、もし今夢がなくても、いつかは見つかるはずです。あまり焦らず、今の自分がやるべきこと、やれることをしっかりやっておけば、将来何かやりたくなったときに必ず役に立つと思います。
尽くすタイプはカウンセラーに向いていない? 燃え尽きに注意!
Q7. どういう人が産業カウンセラーに向いていると思いますか?
人には大きく分けて2つのタイプがいます。一つは相手のために何かしてあげたいと思う気持ちが強いタイプの人、もう一つは、自分を大切に考える気持ちが強いタイプの人です。
前者は人のために尽くすことに喜びを感じる一方で、自分を犠牲にして頑張りすぎてしまうので燃え尽きてしまうことも多いんです。相談者を助けることができても、尽くしすぎてつぶれてしまったら元も子もありません。
そういう意味では、後者のようなタイプがカウンセラーになった方が、つぶれずに長く続けられるので向いているといえるかもしれませんが、理想は、どちらも兼ね備えているバランスが取れた人ですね。
あとは、私のようにビジネス上で大きな悩みを抱えたことがある人も、働く人の悩みに共感できると思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
ぜひ、成功体験を積み上げてほしいと思います。県大会で優勝、コンクールで金賞、クラスで1番など何でもいいんです。1番でなくてもいいので、どんなことでもいいから、自分なりの努力をして少しでも上の目標を達成したという経験を重ねてみてください。
その経験が自信となり、心のよりどころになります。何か成し遂げた経験があると、つらいことがあっても、頑張ってやり遂げる精神力や粘り強さを持ち続けることができますよ。
スポーツクラブ経営者とカウンセラーという二足のわらじを履いて活躍している笹氣さん。自分自身が悩んだ経験を生かして、カウンセリングや著書、講演などさまざまな方法でビジネスパーソンが自らの悩みを克服するサポートをしています。
産業カウンセラーに興味がある人だけではなく、高校生活で人間関係や勉強のことで悩んだことのある人は心理学の勉強をしてみてはいかがでしょうか。悩みと向き合うことで、自分自身や周りの人の問題が改善するかもしれませんよ。
【profile】産業カウンセラー 笹氣健治(ささき けんじ)
一歩ナビ 笹氣健治 公式サイト http://www.1po.jp/
この記事のテーマ
「医療・歯科・看護・リハビリ」を解説
医療の高度化に伴い、呼吸器や透析装置、放射線治療などを取り扱う医療・検査機器の技師がますます求められています。この分野の仕事は、高度な知識と技術をもって患者に医療技術を施すスペシャリスト。めざすには、基礎知識から医療現場での実践能力に至る段階的学びが必要となります。
この記事で取り上げた
「産業カウンセラー」
はこんな仕事です
企業などで働く人たちが抱える悩みなどをヒアリングして、心理学的な観点から解決のためのアドバイスなどをする仕事。活動領域は大きく3つに区分され、リストラなどが原因となるストレスに対するための「メンタルヘルス対策への援助」、働く人の職業生活の質を向上させるための「キャリア開発への援助」、職場での人間関係を改善するための「職場における人間関係開発への援助」がある。就業のための必須資格はないが、一般社団法人日本産業カウンセラー協会の「産業カウンセラー」資格を取得して就業するのが一般的。
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