【シゴトを知ろう】料理研究家 編
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食べることは人にとって楽しみの一つ。素晴らしい料理は人に感動と笑顔を与えます。料理は人類の進歩に伴って発展し、食卓を彩る食器やカトラリー(*)なども変化してきました。食にまつわるさまざまなことを含めて「食文化」といい、今回ご紹介する料理研究家は、食文化の発展に寄与し人々に感動を与える職業。料理研究家で、フードコーディネータースクール校長、調理師専門学校副校長の住川啓子さんにお話を伺いました。
*カトラリー:食事の際に使用するフォークやナイフ、スプーンのこと。
この記事をまとめると
- メニュー開発から講師、ドラマの料理制作まで! 幅広い活躍の秘訣を探る
- 幼稚園生でお弁当作り、小学生で家族の食事作り、フランスの有名製菓学校で学んだことも
- プロとアマチュアの違いはどこにある? 魔法がかかった料理は確かな知識と技術の証し
「おいしい!」と喜んでいただくために、創意工夫を凝らす
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください
飲食店のプロデュースやレストランのメニュー開発、テーブルコーディネート、空間コーディネートの提案をしている他、大学や調理師・パティシエを養成する専門学校での講師、イベントなどで料理教室をしています。
料理に関する本を出したり、テレビやラジオに出演することもあります。テレビドラマや映画に出てくる料理も手がけていて、これまでに450本以上のドラマなどに携わってきました。女優さんたちに料理のプライベートレッスンも行っています。
料理研究家は、料理と調理法を調査・研究し、新たなメニューを開発することなどを仕事にしていますが、料理そのものだけではなく、食の歴史や食材、調理道具、食器など料理にまつわるさまざまなことも関係してきます。
料理は味の良さはもちろん大切ですが、美しい盛り付けや香り、食感などが相まって満足感を高めます。また、栄養バランスが良くなければ、いい食事とはいえません。それらの要素全てを把握するには、多岐にわたる知識が必要です。
一日のスケジュールは日によって変わります。講師を務める学校で授業を行う日があれば、テレビドラマや映画の撮影現場で料理の制作を担当したり、料理のセミナーをしたりする日もあります。多忙な日々ですが、少しでも時間が空けば、新しいお店やメニュー、食材のリサーチをするようにしています。
<ある一日のスケジュール>
08:30 授業の準備、清掃など
09:00 スタッフと本日の授業などについてミーティング
10:00 授業(調理のデモンストレーション)
12:00 昼食
13:00 授業(生徒の実習、調理指導)
15:00 片付け、清掃、翌日の準備
16:00 レシピ作成
17:00 仕入れ、買い出しなど
19:00 帰宅
20:00 夕食(調査・研究を兼ねる)
21:00 メニュー開発・研究
23:00 就寝
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
私が作ったお料理を食べた方においしいとおっしゃっていただくことが一番の喜びです。ありがたいことに、皆さんそうおっしゃってくださいますし、「先生のお料理には魔法がかかっている」とおっしゃってくださる方もいます。特に財界人や芸能人のような舌の肥えた方からの絶賛の声は自信になりますね。
人は本当においしいものを食べた瞬間、笑顔ではなくて驚きと感動の表情になります。お料理をひと口召し上がった方の表情に感動が表れるのを見て、満面の笑みで「おいしい」とおっしゃっていただくのを聞く、これがうれしいから努力できるのです。
また、自分が監修する本を出版するなど、実績が形になったときにはやりがいを感じますね。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
料理を作るには、食材の買い出しや仕込みをして、そして実際に作り込まなくてはなりません。思った以上に時間がかかり、「間に合わない!」なんていう状況になったら大変です。ドラマや映画の撮影などどんな仕事でも料理の提供が遅れるのは絶対にNGですから、なんとかして間に合わせますが、かなり焦りますね。
また、料理を大量に作ることは体力勝負なんです。それだけでなく、どれだけ探してもレシピに必要な食材が手に入らないときは困ります。魚介類は季節だけではなく、不漁のときや禁漁期間がありますし、野菜類は天候不順や収穫時期の終了などが理由で入手できなくなることもあります。昨日までは普通に売っていたものが、今日は全く見つからないなんてことはよくあるんですよ。そのようなときは頭を切り替えて、仕事相手にご満足いただけるよう工夫して、さらにいいものを作ります。
料理プラスいけばな、自分の強みを生かす!
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
両親が飲食店や調理師専門学校を経営していたため、幼い頃から常に一流の料理人が周りにいて、その方たちから料理を教わるような環境で育ちました。幼稚園のころには自分でお弁当を作り、小学生の時は多忙な両親に代わって家族のためにお料理をしていましたね。
短大卒業後は両親が経営する調理師専門学校に就職し、日中は学校で職員として働き、夜は両親の経営する飲食店を手伝っていました。子どものころからいけばななどたくさんの習い事をしていて、社会人になってからは、フランスにある製菓学校でお菓子作りやテーブルデコレーションを学んだこともあります。
テレビに携わっている知人から、「テレビドラマの仕事をしてみないか」と声をかけてもらったことからメディアのお仕事に関わるようになったのですが、料理だけでなくさまざまな習い事の経験が役に立ち、仕事の依頼が増えていきました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
栄養の基礎から調理技術までしっかりと身に付けるため、短大に進学して栄養士の資格を取得しました。体系的な栄養学と調理技術を勉強することで、料理の基礎を自分のものにできたので本当に良かったと思います。
料理は化学ですから、基礎が最も大切です。料理は簡単だと思っている人が多いように感じますが、理論に裏打ちされたひと手間ひと手間の積み重ねによって出来上がりに雲泥の差が生まれるのです。
料理研究家を目指すのなら、まずはしっかり基礎を学んでください。調理技術の基礎を身に付けたいなら調理師専門学校へ、レシピに関する勉強に重点を置きたいなら栄養士を育成する学校へ進学することをおすすめします。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
自分にとってお料理を作ることは当たり前でしたから、将来の選択肢の中に料理関係のお仕事を入れることは避けていたんです。創作することが好きで、どちらかというと器用な方でしたから、何かをデザインする仕事をしたいと漠然と考えていました。
ですが時期がきて進路について親に相談したところ、「料理の道に進むべきだ」と言われて真剣に考え直してみました。そこで初めて、自分にできることや強みは子ども時代から慣れ親しんできたお料理であることに気付かされたんです。
そのように進路を選択して現在に至るのですが、私はお料理の盛り付けをするときにもデザイン性を意識しています。そういう意味では、料理研究家の仕事は、自分の強みであるお料理に高校時代の夢が合わさったものだと思います。
料理の基礎があるからセンスが生きる
Q7. どういう人が料理研究家に向いていると思いますか?
やるべきことをやるためにコツコツと努力し続けられる人、整理整頓ができる人、思いやりのある人、一番大事なのは、お掃除がちゃんとできる人ですね。
プロとして料理に関わるのであれば、基礎を身に付けることが重要です。技術だけではなく、栄養価や調味料、食材全般の特性などについての幅広い知識が必要になります。食材の切り方や調理手順など全てに理由があり、そのような知識を持っていないとおいしいものを作ることはできません。プロとアマチュアの大きな差はそこにあります。
プロ野球のイチロー選手が地道な練習を続けてきたように、料理研究家になりたいと思うのであれば、基礎を身に付けるために努力を積み重ねてください。センスが問われるのはその先の話です。
また、調理はスピードが命。整理整頓ができていないと調理タイミングがスムーズにいかなくて、おいしい料理を作ることができません。
人を思いやる気持ちは、自分が作ったお料理を食べた人に喜んでいただきたいという気持ちにつながりますし、料理を作ることは人の命を預かることですから、お掃除はとても大切です。おいしいレストランは必ずといっていいほど清掃が行き届いています。
料理研究家に限らずどんな職業でも、仕事ができる人はこれら全てをクリアしていると思いますよ。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
目の前の相手の気持ちを少しでも考える癖をつけてください。笑顔は自分のためではなく、目の前の相手のためにあります。あなたが笑顔になれば相手の気持ちはポッと温かくなります。礼儀もあなたのためではなく、相手に不快な思いをさせないためにあるのです。
次に、自分の長所と短所を知ってください。これらを知るのはとても勇気がいることですが、それらは全てあなた自身の素晴らしい特徴です。長所はさらに生かすことで強みにできますし、短所は改善したりコントロールすることで長所以上に生かすことができます。
最後に、経験はお金では買えない財産です。どんどん経験を積んでください。特に若い時に積んだ経験にはとても価値があります。そして、素直な気持ちを持ち続け、心を開いて相手の話に耳を傾ければ、必ず得られることがあります。人からかわいがられ、情報がたくさん入ってきます。これらのことが、あなたの将来をさらにいい方向に導いてくれますよ。
住川さんはテレビの世界でも活躍していて一見華やかに見えますが、その裏にはお料理の基礎をしっかりと学び、さらに知識や経験を積む努力があったのですね。人として大切にするべきことがいい仕事につながるというお話も印象的でした。
将来、料理を仕事にしたいと考えている人はもちろん、料理に苦手意識を持っている人は、下ごしらえ、加熱や味付けのタイミングといった調理の手順やその意味について見直してみてはいかがでしょうか。「料理は化学」ですから、コツが分かれば料理の腕がぐんと上達するかもしれませんね。
【profile】ラブニール 代表 住川啓子
ラブニール 食のトータルコーディネート http://www.lavenir.tv/
この記事のテーマ
「食・栄養・調理・製菓」を解説
料理や菓子などの調理技術を生かしてサービスを提供したり、栄養に関する知識を生かして豊かな食生活を提供したりする仕事です。栄養に関する知識はもちろん、メニュー開発や盛りつけ、店のコーディネートに関するアイデアやセンス、食材や飲料に関する幅広い知識も求められます。
この記事で取り上げた
「料理研究家」
はこんな仕事です
料理の作り方を研究し、世の中に伝えていく仕事。基本的にはフリーランスとして活動する場合が多い。雑誌・テレビなどのメディアや独自に運営する料理教室で、オリジナルのレシピや効率的な料理法を紹介することが主な活躍の場。著名な存在になれば、食の商品プロデュースやレストランのメニュー開発なども視野に入ってくる。また、最近はインターネット上での情報発信から口コミで評判が広がり、注目を集めるケースもある。企業などに勤務する一般的な職業ではないため、いかに自分自身の特徴を出していけるかが成功の鍵となる。
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