【シゴトを知ろう】映画字幕翻訳 編

臨場感を味わいたい、俳優の声を聞きたい、英語の勉強をしたいなど、映画を字幕で鑑賞する理由は、人によってさまざま。近年、PCやスマートフォンで気軽に映像を楽しめるようになったため、字幕翻訳の仕事にも変化が起きているようです。
今回お話を伺った翻訳者の中林ももさんは、映画だけではなくゲームやスマートフォンアプリなどの字幕翻訳も手掛けています。翻訳の中でも特殊な技術が求められる字幕翻訳の仕事についてご紹介します。
この記事をまとめると
- 文化、キャラクターなども考慮して翻訳。文字量を調整しなければならない難しさも
- 体調を崩したことをきっかけに翻訳の道へ。得意なことを生かせる仕事を選んだ
- 字幕翻訳は狭き門。夢をかなえる一番の近道とは?
字幕翻訳で、より多くの人に作品を届けたい!
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください
私の場合、翻訳会社を介して仕事の依頼があります。字幕というと映画の字幕がまず思い浮かぶと思いますが、実はゲームやアニメのほか、Web動画やスマートフォンアプリなどの翻訳も広い意味で字幕翻訳に入ります。
翻訳には日英と英日がありますが、仕事として多いのは英日翻訳ですね。ただ、英日翻訳と比べて日英翻訳をできる人の数が少ないこともあり、海外向けに展開しようとしている映像作品の翻訳の仕事もそれなりにあります。
字幕翻訳というのは、翻訳の中でも特殊な技術が求められます。
というのも、動画の中で字幕が表示される時間は限られているため、数秒で読める分量に訳語を調整しなければならないからです。書籍や書類といった通常の翻訳であれば気にしなくてもいいことを考える必要があります。
また、一人称の "I" を日本語にするとき、「私」とするか「俺」とするか、それとも「僕」「ワシ」「自分」とするのかということも決めなければなりません。こうした設定を決める制作面から関わることもあるのが字幕翻訳の仕事です。
私はフリーランスで仕事をしているので、勤務時間が決まっているわけではありません。翻訳のための調べ物をする時間や翻訳する作品を視聴する時間などもありますが、適度にリフレッシュの時間を取ることがいい仕事をするために必要です。いい仕事をするために、夜遅くには仕事をしないようにしています。
<一日のスケジュール>
08:00 起床
午前 2時間程度仕事、その後は家事などでリフレッシュ
12:00 昼食
午後 2時間程度調べ物
夕方 4時間程度仕事、その後はリフレッシュしたり作品を視聴
01:00 就寝
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
字幕翻訳は、翻訳前の言語が分からない人でも作品を楽しめるようにする"みんなで共有する仕事"だと思っています。自分が観て「いい作品だな」と思ったものを世の中の人と共有できることが何より楽しく、やりがいを感じています。
私は映画もゲームも好きですが、翻訳をするためにそうした作品を観たり遊んだりすることも欠かせません。仕事の中で好きなものに触れられるのも楽しみの一つですね。
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
つらいというほどではありませんが、作品のために調べものをするのは内容や量次第では大変です。発せられる言葉には背景があります。例えば職場の話であれば、スペインのシエスタ(お昼寝)文化や欧米の「残業は仕事ができない人がするもの」という認識を知らなければ、うまく翻訳できないケースがあります。そういう地域文化などは、少し調べたくらいでは分からないこともあるんです。
あとは、ジョークの翻訳は毎回頭をひねりますね。言葉遊びのジョークなどは、そのまま翻訳すると意味が分からなくなってしまうので、それをいかに自然に読ませるかが腕の見せ所です。
留学経験はあったけれど、翻訳の仕事に就くつもりはなかった
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
大学卒業後は、Web系の会社やゲーム会社などに勤めていました。仕事は楽しかったのですが体調を崩してしまい、働くことができなくなってしまいました。療養を経て仕事のことを考えた時、それまでのように会社勤めをするのは難しいと思い、家でできる仕事をしようと思ったんです。私は英語が得意だったので、それならば翻訳を仕事にしようと考え今の仕事を始めました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
高校卒業後は日本の短大に進学しましたが、卒業を待たずにカナダの大学に留学しました。留学する段階で受けたSAT(*)のライティング試験では、英語圏の人も含め上位10%以内に入る成績だったので、英語には不自由しませんでしたね。
大学では経済学を専攻したほか、考古学やギリシャ神話といった少し変わった授業も受けていました。英語以外にも勉強した経験がいろいろな知識を持つことにつながり、今の仕事にも生きています。
*SAT:Scholastic Assessment Testの略。アメリカの大学への進学希望者を対象とした共通試験。日本の大学入学共通テストに相当し、留学希望者だけではなく、英語を母国語とするアメリカ人なども受験する。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
高校生のとき、将来翻訳の仕事をしたいと思っていたわけではありませんでした。会社で働くことが難しくなったから、得意なことを仕事にしただけなので。ただ、何かに興味を持つことが大事だと思います。やはり、興味を持ったことに関連した仕事をするのが一番楽しいことですから。
私は元々英語が好きで、親から「英語を身に付けたいなら、洋書の背表紙を並べてメートル単位になるくらい読みなさい」と言われていたので、それを実行しました。最終的に3mくらいになり、その経験が今役に立っていると実感しています。
夢を抱きつつ、今できることを着実に積み重ねよう!
Q7. どういう人が映画字幕翻訳に向いていると思いますか?
勉強することが苦じゃない人ですね。あとは、言葉に対する感覚が鋭敏な人、映像作品が好きな人です。
翻訳は、描かれたものに対する追究心がなければできない仕事ですから、これでいいと思って訳したものであっても、「本当にこれでいいのかな?」という気持ちを常に持つことが大事です。自分に対して批判的な視点を持ち続ければ、より成長できると思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
やりたいことは、時がたてば変わってくることもあります。「これをやりたい」 と思ってそれに絞りきってしまうと、後に選択肢がなくなって挫折することにもなりかねません。
映画字幕翻訳を仕事にできる人は限られています。ハリウッド映画の字幕翻訳者が数人しかいないのを見ても明らかです。だから、最初から「これをやる」ではなく、「いつかやりたい」という夢を持ち続けながらその時できる仕事をしていくのが、夢を実現するための一番の近道になるのかなと思っています。
映画字幕翻訳者の名前が表に出ることはまれですが、字幕がなければ観たい海外コンテンツを楽しむこともままなりません。まさに縁の下の力持ちといえる存在ですね。"楽しみをみんなと共有する仕事"という言葉が印象的なインタビューでした。
ただ単に言語を訳しただけでは、観る人に映像作品の魅力を余すことなく伝えることはできません。その映像が作られた国の文化や国民性についても深く理解することが求められます。映画字幕翻訳は、映画や英語が好きな人だけではなく、海外の文化について学びたい、日本の文化を海外に伝えたいと考えている人にも向いているお仕事かもしれませんね。
【profile】翻訳者 中林もも
この記事のテーマ
「語学・国際」を解説
外国語を自在に使い、海外との良好なコミュニケーションを図ります。今後、社会のグローバル化が進む中で通訳や翻訳の仕事は、ビジネスや文化交流などあらゆる場面で求められてきます。この分野の仕事をめざすには、国際情勢などの知識や情報を収集する好奇心、語学力向上の努力が常に必要です。
この記事で取り上げた
「映画字幕翻訳」
はこんな仕事です
洋画の外国語のせりふを翻訳する職業。せりふの内容を正確に伝えるとともに、映画のテーマに沿って登場人物のキャラクターに合わせた翻訳内容にすることが重要。国内外で流行している俗語、くだけた言い回し、ジョークも訳さなければならない。数秒単位で転換する場面、限られた文字数、その中で端的に伝わる生きた表現力が求められる。画面表示される日本語字幕だけでなく吹き替え版のシナリオを作る仕事も。洋画専門の有名翻訳者もいるが、映像翻訳家として海外ドラマやアニメ、ドキュメンタリーなどを手掛ける人も多い。
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