【シゴトを知ろう】逐次通訳者 編

グローバル化が進み、企業によっては英語が公用語化するなど、日本語以外の言語でコミュニケーションを取る機会が増えてきています。しかし、誰もが語学に堪能なわけではありませんし、重要な打ち合わせでは、細かな内容について正確な言葉でやり取りをする必要があります。
そこで必要とされるのが通訳者。今回は、会社に所属して通訳の仕事をされている平田志緒さんに、逐次通訳の仕事内容や初めて就いた通訳の仕事で味わった挫折経験などについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 会社所属の通訳者であるがゆえに、関わる分野はさまざま。翻訳業務も行う
- 憧れだった通訳の仕事に就いたけれど……。挫折を味わい本気で通訳の勉強に取り組んだ
- 英語が話せればいいわけじゃない!? 英文法などの基礎力、日本語能力も磨こう
いろいろな分野に関われる! 大変だけどそれがおもしろい
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
通訳といってもいろいろな言語の通訳がありますが、私は英日通訳をしています。私は外資系の会社で社員として働いているのですが、他の通訳者の方はフリーランスで活動している人も多いです。主な仕事は、日本に駐在している外国人や海外にいる仕事のパートナー(提携者・協力者)が来日したときの通訳、電話やビデオ会議での通訳です。
逐次通訳は、話し手が話した内容をメモして、適当なタイミングでまとめて翻訳した言葉を伝える仕事です。私が勤務する会社ではエンターテインメント事業を扱っているので、いろいろな商品について、あるいは店舗のセキュリティ、マーケティング、デザインについてなど、さまざまな分野で通訳をしています。
また、通訳の仕事だけをしているわけではなく、一日の半分くらいはスピーチ原稿やプレゼンテーション資料の翻訳などをしています。
今は一番下の子が生まれたばかりなので育児休暇中です。出産前は、通常は8時半出社、17時退社のところを、子どもが小さいため、勤務時間を1時間半短縮していました。
朝は7時頃に起きて朝食を作り、一番上の子を小学校に送り出してから下の子ども2人を保育園に連れていき、出勤していました。海外とビデオ会議があるときなどは、時差があるのでもっと早く出社することも。仕事を終えたら子どもを迎えに行き、夕食作りとその他の家事をしたら子どもと一緒に寝てしまっていましたね(笑)。下の子がもう少し手がかからなくなったらまた仕事に復帰するつもりです。
<一日のスケジュール>
09:00 出社
午前 ビデオ会議での通訳
12:00 チームメンバーとランチミーティング
午後 資料の翻訳、打ち合わせでの通訳
16:00 帰宅
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
通訳はいろいろな分野で必要とされる仕事なので、さまざまな仕事をしている人と関われることです。私が勤務している会社は扱っている分野が広いこともあり、元FBIの人やデザイン業界の第一人者、特殊な技術を持った職人さんといった人の通訳をするので、多くの知識が身に付きます。普段は接点がないような人と関わることができておもしろいですよ。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
楽しさの裏返しですが、全く知識のない分野の通訳をしなければならないこともよくあります。プロ同士が正しく意思疎通するためには、通訳の自分が足を引っ張ってはいけないというプレッシャーが大きいです。特に大事な会議のときや重要な方の通訳を任されたときは大変です。
また以前、育児休暇後に仕事に復帰したときは、ブランクがあったので感覚を取り戻すのにとても時間がかかりました。常に通訳の技術を磨かなくてはいけないことも大変ですね。
本採用されず……。試用期間で痛感した通訳の仕事の厳しさ
Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
元々通訳の仕事をしたいと思っていたのですが、経験が重視される世界なので、大学卒業後はマーケティング会社に勤めて、外資系企業へ渡す英語のプレゼンテーション資料を作ったりしていました。その後、たまたま地元で「秘書兼通訳」の求人を見つけ、応募したところ採用してもらえたのですが、試用期間が終わるとクビになってしまいました。
ですが、実際に通訳を仕事にする大変さを知ったことで、逆に「絶対通訳者になってやる」と決心し、通訳者の養成コースを受講するなどより深く本気で英語の勉強に取り組んだ結果、今の会社に通訳者として入社することができました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
6歳から11歳までアメリカに住んでいて、中学校から日本の学校に通いました。英語だけはずば抜けてできたので(笑)、大学では教養学部の語学科を専攻して英語を中心に学びました。私が通っていた大学には通訳コースという講座があったので、そういった特別なコースも受講していましたね。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
そうですね。通訳の仕事に憧れがあり、英語力を生かせる仕事として一番に考えていたので、夢がかないました。
通訳の仕事をしたいと話した時、父親から「通訳者は英語だけじゃなくて、日本語もしっかりできないとだめだよ」と言われ、両方の語学力を磨くことが大事なんだと気づかされたので、日本語への理解も深めていたこともよかったと思っています。
語学力とコミュニケーション力がモノをいう!
Q7. どういう人が逐次通訳者に向いていると思いますか?
一言でいえば、人が好きな人ですね。通訳というのは人とコミュニケーションを取ることが仕事で、その点が翻訳者との大きな違いです。語学力はもちろん大事ですが、人当たりや愛想のよさといった部分を含めたコミュニケーション能力が通訳者には必要とされます。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
ある程度の経験が求められる仕事のため、通訳者になろうと思ってもいきなりなれるものではないのが実状ですが、夢をかなえるためには地道に英語を勉強することが一番大切です。高校で習っている文法などをきちんと身に付けることが、夢への第一歩となります。
一見華やかな仕事に見えますが、その裏には地道な努力があります。外国へ行って生きた英語にふれることもいい経験になりますが、それに加えて基礎的な力を身に付けていることが通訳者には求められます。英語が得意だったとしてもそれにあぐらをかかずに、映画やニュースなど生きた英語に日々ふれるようにして、英語の勉強を頑張ってみてください。
憧れだった通訳の仕事に就けた最初の職場では挫折を味わったものの、それをバネに努力を重ね、今は通訳者として会社の事業運営をサポートしている平田さん。「通訳はコミュニケーションの仕事」とおっしゃるだけあって、とても素敵な笑顔で仕事についてお話してくださいました。
英語が好きで将来は通訳者になりたいと思っている人は、英語の基礎をしっかり勉強すると同時に、積極的に人とコミュニケーションを取ることを心掛けてはいかがでしょうか。
【profile】逐次通訳者 平田志緒
この記事のテーマ
「語学・国際」を解説
外国語を自在に使い、海外との良好なコミュニケーションを図ります。今後、社会のグローバル化が進む中で通訳や翻訳の仕事は、ビジネスや文化交流などあらゆる場面で求められてきます。この分野の仕事をめざすには、国際情勢などの知識や情報を収集する好奇心、語学力向上の努力が常に必要です。
この記事で取り上げた
「逐次通訳者」
はこんな仕事です
逐次(ちくじ)通訳は、発言者の話が一段落したタイミングで通訳する。発言者が話している間はメモを取り、数十秒から数分単位で話題を区切って、正確に翻訳内容を伝える。発言者本人にその場で細かな意図を確認することはできるが、ネイティブの発音、早口な言葉を聞き逃してはいけないので、高いヒアリング能力、スピーディーな翻訳能力が必須だ。事前に通訳する話題の下調べを行うことが現場で役立つ。海外と取引のある企業での需要は高く、採用試験には「TOEIC」や「英検」「ビジネス通訳検定」などが高く評価される。
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