【シゴトを知ろう】フリースクールで働く人 ~番外編~
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「【シゴトを知ろう】フリースクールで働く人 編」では、宮城県仙台市で活動しているユースサポート賛玲(さんれい)代表の坂井純也さんに、お仕事の内容やフリースクールの仕事を始めるようになったきっかけなどについてお話を伺いました。
番外編では、フリースクールと一般の学校との違いや教育の場として認知され始めてきているフリースクールの現状についてご紹介します。
この記事をまとめると
- 事情をくみ取り、子どもが心を開いてくれるまで待つ。一般の学校とは異なる心構えが求められる
- 新たな学びの形を提供。公教育において認知され始めたフリースクール
- それぞれの歩幅で前進することに意味がある。人生を楽しむ方法を一緒に模索する
急な予定変更は子どもからのサイン
――フリースクールで働く上で、学校や塾とは大きく異なる点はどこにあるのでしょうか?
来ると約束した子どもでも、当日キャンセルになることは珍しくありません。それでもめげずに頑張れるのは、それぞれの子どもや家庭に深い事情があると分かっているからです。
フリースクールを利用する子どもたちは人一倍感受性が強い傾向があるため、日常で起きるいろいろなことに壁を感じたり、深く悩んでしまいます。不登校や家に引きこもりがちな子どもには、傷つくことを恐れて殻にこもっているイメージがあるかもしれませんが、実はそれ以上に、他人を傷つけることを恐れています。だから、強引に心の中に踏み込んでいくのではなく、コミュニケーションが取れるまで私たちが受け入れ姿勢を取り続ける必要があります。
また、フリースクールで過ごす時間が延長されることもよくあります。これにもさまざまな理由があって、フリースクールの居心地がいいというポジティブな理由だけではなく、家庭に戻りたくないというネガティブな理由の時もあるんです。午前10時から翌日の午前4時まで子どもと一緒に過ごしたこともあります。その時は、ゲームやテスト勉強をしながら夜通し起きていました。
一般の学校と同じ感覚で考えると驚かれると思いますが、フリースクールの理念は、悩みを抱えた子どもたちを最大限尊重することなんです。
――業界内にはどんな方が多いですか? その中で坂井さんはどんなタイプなんでしょうか?
意外かもしれませんが、フリースクールで働く人にはいわゆる「オタク」な人が多いです。少なくとも私が活動している宮城県内には、ハマるととことん追求する職人気質の人が多いですね。子どもを知ることについても妥協はしません。
でもみなさん、周囲の人に対してはオープンです。生徒について、共通体験あるいは共通言語を持って相談し合えるのもフリースクール職員の強みだと思います。
私もオタクタイプなので、子どもたちが夢中になっていることにすぐに触発されてしまいます。ゲームやアニメ、バイク、釣りなど、趣味が増えました(笑)。
各機関が連携して子どもをサポート
――お休みの日はどのように過ごされていますか?
フリースクールでは子どもの要望に合わせてスケジュール設定するため、休みが不規則です。丸一日休むのではなく、一日の中で予定がない時間帯に休むことが多いですね。大抵寝て過ごしていますが、読みかけの本を読破したりしています。時間が取れたら私が好きな坂本龍馬ゆかりの地である高知県の桂浜に行きたいと思っています。
――業界内での連携はどのように行われていますか?
業界内での連携は、それぞれの得意分野を生かす形で行われています。例えば、大学受験勉強ならAさん、知的障害に関する相談はBさん、成人になった人の高校進学についてはCさん、釣りならDさん、スキーならEさんに依頼するといった感じです。そのため、同業者同士でプライベートでも関わりがあることは珍しくありません。
また、就労支援機関、放課後等デイサービス(*)、小中学校(定期考査・別室登校・進路相談の際に子どもに関する情報を提供)や通信制高校(スクーリングの付き添い)などともつながりがあります。
*放課後等デイサービス:小学生から高校生までの障がいのある子どもや発達に特性のある子どもが、放課後や学校が休みの日に利用できる福祉サービス。個別療育や小集団活動を通して、自立した生活を送るために必要な能力を身に付ける訓練をしたり、家庭や学校以外での居場所や友だちをつくることができる。
――フリースクールに関わることで、意外と知られていない情報があれば教えてください。
小学校や中学校に登校していなくても、フリースクールに通うことによって出席扱いにできます。フリースクールで行うテストを学校の定期テストの代わりにすることも可能です。これらは通っている学校の校長先生の判断次第ですが、私がフリースクールを立ち上げた頃と比べるとフリースクールを認める小・中学校は飛躍的に増えています。
高校は義務教育ではないのでまだそのような制度はありませんが、レポート作成や試験勉強対策のため、通信制高校や定時制高校の生徒たちが併用して通う例はよくあります。
また、フリースクールには養護施設のような年齢制限がありません。学校という枠組みには入らないので、学校は卒業したけれどもう一度学びたい方や就職したけれど人間関係がうまくいかないと感じている方のための居場所としても機能しています。
年齢を重ねても悩みは尽きないものなので、当フリースクールには小学生から37歳の方までが通われています。年齢にこだわらないことで、世代間交流の場にもなっていますね。
通ってくる人の数だけ喜びがある
――お仕事をされていて、どんなときに達成感を感じますか?
当フリースクールに通ってくる人たちの行動や発言に好ましい変化が見られたときに、達成感を感じます。例えば、落ち込みやすい性格だった子どもが少しの問題であれば受け流せるようになったり、いつも「あいつ大きらい、苦手」と一方的に文句を言っていた子どもが相手のことを考えられるようになったり……。他にも、朝起きれなくて休みがちだった子どもの生活習慣が改善したりするなど、通ってくる人の数だけ喜びがあります。
焦らず諦めず、前に進むプロセスが大きな意味を持っています。これからも一人ひとりの穏やかな生活を願い、人生を楽しむ方法を一緒に探していきたいと思います。
何らかの理由で学校に通えない子どもたちが多く利用するフリースクール。そこで働くには、世の中の問題に真正面から取り組まねばならないと考えてしまうかもしれません。でも、坂井さんのお話を聞いていると、一般の学校もフリースクールも、子どもたちと大切な時間を過ごす場であることに変わりはないのだと感じました。
自分の心の問題と向き合いながら、少しずつ前に進んでいく子どもたちのこれからの人生を豊かにするお手伝いをするのがフリースクールでの一番重要なお仕事。周囲の人になじめない違和感を理解できる人や人の気持ちに寄り添える人は、フリースクールで働くことにやりがいを見出せるのではないでしょうか。
【profile】一般社団法人 ユースサポート賛玲(さんれい) 代表 坂井純也
この記事のテーマ
「教育」を解説
教育機関や子ども向けの施設で、教育指導に関わる仕事を目指します。小・中学校や高等学校の教員を目指す場合、大学や短期大学の教職課程で学ぶ必要がありますが、専門学校の中にも、提携する大学や短期大学の通信教育を受けて、教員免許状を取得できる学校もあります。語学教師や臨床心理士など希望する職種により、必要な資格や免許が異なります。
この記事で取り上げた
「フリースクールで働く人」
はこんな仕事です
フリースクールとは、国によって概念は異なるが、日本では不登校や登校拒否の児童や生徒を対象に、学習や交流活動をサポートする施設を指す。2001年にNPO法人フリースクール全国ネットワークが結成され、全国各地のスクールが加盟。これらの学校で教員として働くためには、学習指導能力に加えて、軽度の発達障害児なども含めたあらゆる個性を持った子どもや、その親とコミュニケーションする力が求められる。教育の多様化に応えるという社会貢献ができる職場ではあるが、そこで働く人はボランティアが多いのが現状だ。