【シゴトを知ろう】国税専門官 ~番外編~
ドラマや映画で活躍するクールな国税専門官の姿を見て、憧れを抱いたことのある人もいるのではないでしょうか。感情を押し殺して任務を遂行しなければいけない難しさもあるお仕事ですが、そのモチベーションは何なのでしょうか。東京国税局の徴収部で働く石原慎太郎さんに伺いました。
この記事をまとめると
- 納税の義務を啓蒙するために大規模な差押えプロジェクトを行うことも
- 努力して納税している人のためにも徴収は大切な仕事
- 国税専門官のキャリアの頂点の一つは税務署長
隠語のはずが今ではメジャーに……
――国税局には業界用語がたくさんありそうですね。例えばどんなものがありますか?
たくさんありますが、国税局の仕事はドラマや映画の題材となりやすいため、みなさんご存知の隠語も多く、既に隠語ではなくなっているかもしれません……。
国税局の査察部を「マルサ」と呼ぶのはみなさんもご存知ですよね。これは伊丹十三監督の映画で有名になってしまいました(笑)。あとはダンボールを抱えて会社に査察に入っていくシーンをテレビのニュースで見たことのある人も多いと思いますが、あれを「ガサ」と言います。最近は一般の人にも使われていますね。また、移転前の東京国税局のオフィスでは6階に査察部が入っていたので、査察部を「6階(ロッカイ)」と呼ぶこともあります。大口の徴収や調査を担当する特別国税徴収官や特別国税調査官を略して「トッカン」と言ったりもします。
私が所属する徴収部では、差押えをすることを「S(エス)する」と言い、上司に報告する際などによく使います。また財産を一斉に差し押さえるような大規模プロジェクトでは、いくつもの会社名や個人名が出てきて混乱しやすく、迂闊に口に出してもいけないので、1番・2番・3番……と数字で表したりします。
――印象に残っているお仕事はありますか?
先ほども触れた大規模な差押えプロジェクトに参加したことですね。税金を滞納している方の中には、残念ながら納付に対してあまり積極的でない方や誠意のない方もいます。そこで、そうした方々を対象に、同時に複数の現場に一斉に乗り込んで財産を差し押さえることがあるんです。
私は昨年初めてそのプロジェクトの一員として働かせてもらいました。以前査察部にいたときもいわゆる“ガサ入れ”という一斉に会社に乗り込む経験はしたことがありましたが、徴収部では初めての体験で、何十人というチームで財産の差押えに取り組んだ経験はとても印象に残りました。
――テレビのニュースで見る“ガサ入れ”の場面では国税局のみなさんがスーツ姿で整列して歩いている様子が印象的ですが、あれはそういう決まりなのでしょうか?
確かに整列しているイメージはありますが……意識しているわけではありません。単純に建物の入り口は狭く、上の役職の者から順に入っていくので何となく列になるのでしょうね (笑)。服装はスーツは必須ですがノーネクタイのこともありますし、夏場はクールビズが励行されているので上着を着ないこともありますよ。
――大規模な差押えプロジェクトにはどのような気持ちで取り組まれるのでしょうか
やはり正義感です。ほとんどの納税者の方は納税しようと努力されています。しかし、中には何度説得しても納めていただけない方や、支払い能力があるのに納めていただけない方もいて、それにより他の納税者の方との公平がとれないということはあってはいけないという思いがあります。
――具体的にはどんな物を差し押さえるのですか?
不動産、債権のほか、現金、絵画、宝石、日本刀、高級車などの動産もあります。会社の金庫だけでなく銀行に貸金庫を借りているケースもあるのでそちらも調べます。
気持ちの切り替えが大事
――滞納している方に納付をお願いする際に厳しい言葉を向けられることもあるそうですが、心へのダメージはありませんか?
これは私の性格なのかもしれませんが、あまりダメージを受けることはありません。もちろん言われた瞬間に気分が落ち込むことはありますが、建物を出る頃には気持ちが切り替わっています。言い負けてしまって成果をあげられなかったときは、自分のミスなので落ち込みますけどね。
――相手を説き伏せるには人間力のようなものも必要なのでしょうか?
人それぞれにスタイルがあって、論理的な説明をして相手を納得させることが得意な人もいますし、同じようなことを言っていてもなぜか説得力があり、いい成果をあげる人もいます。貫禄でしょうか(笑)。年齢を積み重ねることも武器になるのでしょうね。私の場合は「こう言われたらこう返す」というパターンをいくつか用意して臨んでいます。
――国税専門官にはどんなキャリアパスがありますか?
研修を受けた後1年目は税務署に配属され、基本的な業務を経験します。4年目になるとさらなるステップアップのための研修を半年間受けます。その後、国税局の任務に就く人もいれば、税務署に残る人もいます。私は今は現場の一線で働いていますが、昇進を目指すなら統括官、課長、最終的には税務署長に……という道筋があります。
――局員さん同士の交流はありますか?
採用後の研修があるため同期とはそのときに仲良くなりました。また、業務は1〜2年ほど同じメンバーで行うことが多いため、異動で離れた後も親しくさせてもらっている先輩もいます。
サークル活動も盛んで、野球・サッカー・バレー・バスケ・スキー・空手などあらゆるサークルがあります。徴収部内のサークルもあれば国税局全体のサークルもあります。国税局内で開かれる“駅伝”もあって、毎年2,000人くらいの関係者が参加しているんですよ。
クールな国税専門官の方々を支えるのは熱い正義感でした。また、国税局内でサークル活動が盛んというのも意外なお話でしたね。正義感を生かした仕事をしたい人や、そうした熱い人たちに囲まれて仕事をしたい人にはぴったりの職種かもしれません。
【profile】東京国税局 徴収部 石原慎太郎
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/
国税専門官の採用情報:https://www.nta.go.jp/soshiki/saiyo/saiyo02/02.htm
この記事のテーマ
「公務員・政治・法律」を解説
公務員は、国や地方自治体の行政に携わり、よりよい地域、町づくりを支える仕事です。政治に関しては政党の活動を支える政党職員、法律では弁護士や検察官などの仕事もあります。これらの仕事に就くには、公務員採用試験、司法試験など関連する資格を取得し、官公庁や行政機関の採用試験を通過することが必要です。
この記事で取り上げた
「国税専門官」
はこんな仕事です
税金が正しく納められているかどうかを調査する仕事で、大きく分けて3つの職種がある。個人宅や企業へ出向き、正しい税金額が申告されているかを調べる国税調査。次に滞納分の請求や、払えない場合に財産の差し押さえをする国税徴収。また、脱税の証拠を洗い出して刑事告発する国税査察がある。大学卒業後、「税務職員採用試験」か「国税専門官採用試験」を経て税務署や国税局に勤務。税金に関わる法律を詳しく知り、時には懐疑の視点を持って社会を見渡し、徹底的に問題を追及する粘り強さも必要。キャリアを積むと海外赴任の道もある。
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