【シゴトを知ろう】印刷技術者 ~番外編~
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印刷技術者であると同時に工場長としてチームを管理する立場でもある曽田勝利さんへのインタビュー番外編。印刷する際に気を遣っていることや印刷の際に発生する「やれ紙」についてなど、業界の裏話について伺いました。
この記事をまとめると
- 顔が違う!? キャラクターのイメージを損なわないよう、汚れやごみなどには細心の注意が必要
- 企画・立案から製作まで。チームで取り組んだ印象深い仕事とは?
- 雑誌を触ると手に着く粉。気になっていたあの粉の正体は?
ポスター、チラシ、パンフレット……、印刷物にはつい目がいってしまう
――「これって職業病だな」と感じることはありますか?
やはり、どんな印刷物にでも目がいってしまいます。電車に乗っていても、駅に貼ってあるポスターが気になってしまうんです。
一目でどんな印刷方法なのかが分かるので、「インクジェット(*1)を使ってるな」とか「これはオフセット(*2)だな」というように、まず印刷手法を確認します。そのうえで「きれいに刷れてるなぁ……」と思ったりするのは、すごくマニアックな職業病だと思いますね。
映画のパンフレットを手掛けることもあるので、映画館に出かけたときはパンフレットが気になります。冊子の見開きの絵がズレていないかとか、中綴じ(*3)のホチキスの綴じ方が気になってしまったり。
また、弊社が携わったパンフレットが並んでいると、「うちで印刷したんだよな」と言いたくなりますね(笑)。
*1 インクジェット印刷:多品種小ロット向けの印刷方法。家庭向けプリンターなどで一般的に用いられている、インクを直接紙に吹き付ける印刷方法のこと。
*2 オフセット印刷:大ロット向けの印刷方法で、商業用の印刷物に多く用いられる。印刷データを青・赤・黄・黒の4色の版に分解し、それぞれを印刷ユニットと呼ばれる胴に貼り付け、インキローラーと湿(しめ)し水を含んだローラーを介して、水と油の分離性質を利用して印刷する。
*3 中綴じ:製本方法の一つ。ページを開いた状態の紙を重ね、中央部分を針金やホチキスなどで留める。
――印刷される際に気を遣っていることはありますか?
映画のパンフレットの印刷には、少し恐い部分があるんです。特にアニメ映画などのパンフレットを印刷させていただく場合、キャラクターの顔の部分に汚れやごみが出ていては困ります。ただの黒い点として見えるならまだいいのですが、鼻水のように見えてしまったりキャラクターのイメージを損なうようなミスが出ないよう、細心の注意を払って作業をしています。
誇らしさと同時に責任の重さを感じる瞬間でもありますね。印刷したものを手に取った方が素晴らしいと感じていただければ、それが私たちの喜びにつながると思っています。
管理する側になって新たに感じる喜びもある
――印象に残っている印刷物を教えてください。
私が以前勤務していた会社では業務用の印刷物を手掛けていて、ある運送会社さんの配送伝票を作ることになったんです。
「自社で開発した透明で特殊なカーボンインキを使って何かできないか」というところから始まって、チームとして企画や立案に関わり、何十万枚という印刷物の製作に携われたことは非常に印象深いですね。
――現在は管理する立場ですが、仕事に対する感じ方で変化したことはありますか?
前職で赤字部門を立て直してほしいと頼まれた時、印刷物全体の品質向上に取り組むことで少しずつ着実に問題を解決していこうと、メンバーと共にさまざまな問題に取り組みました。口を動かすだけではなく、一緒に問題点を解決していくべきだと自負しておりましたし、それは現在の職場でも同じですね。
誰か一人ではなく、自分も含めて組織全体で課題に取り組み、それを乗り越えていくことに喜びを感じられることとその悪戦苦闘の中でこそ人材が育つ喜びが、管理職での仕事のやりがいかなと思います。
一般の方には知られていない「やれ紙」って何?
――一般の人があまり知らない業界の常識ってありますか?
「やれ紙」の存在は、一般の方は知らないと思います。
印刷物の絵柄は、青・赤・黄・黒の4原色を重ね合わせて印刷することで出来上がりますが、そのために版を貼り、それぞれのインキを準備し、紙をセットして印刷をスタートさせます。しかし、1枚目から完璧な仕上がりの印刷物にはならないので、より正しい色味に近づけるためのテストとして印刷する分を「やれ紙」と呼んでいます。
やれ紙を使用する回数や枚数が少ないほど、印刷技術者として優秀といえるのです。
あと、雑誌を手に取ったとき、手に粉がついたことはありませんか? 紙を裁断したときに出た紙の粉だと思われている方がいるかもしれませんが、あれは油性のインクで印刷する場合に使われるパウダーなんです。
印刷後、油性のインクはすぐには乾きませんので、場合によっては印刷物同士がくっついてしまいます。それを防止するために、印刷するときに細かなパウダーを吹き付けることによって、印刷物の間にわずかな隙間を作っているんです。
パンフレットやカタログなど、普段みなさんが何気なく手にしている印刷物には、印刷技術者たちの想いやこだわりが詰まっています。
印刷業界に興味がある人は、身近にある雑誌やポスターをルーペを使って見てみて、どのような方法で印刷されているのかを調べるといいかもしれませんね。
【profile】日商印刷株式会社 川崎工場 工場長 曽田勝利
日商印刷株式会社 http://www.nissho-printing.co.jp/
この記事のテーマ
「マスコミ・芸能・アニメ・声優・漫画」を解説
若い感性やアイデアが常に求められる世界です。番組や作品の企画や脚本づくり、照明や音響などの技術スタッフ、宣伝企画など、職種に応じた専門知識や技術を学び、実習を通して企画力や表現力を磨きます。声優やタレントは在学しながらオーディションを受けるなど、仕事のチャンスを得る努力が必要。学校にはその情報が集められています。
この記事で取り上げた
「印刷技術者」
はこんな仕事です
印刷工場で、さまざまな印刷機の操作を行う。他にも発注内容に合わせて紙の種類や厚さの選定、インク量の調整などを行い、印刷物を仕上げる。印刷オペレーターとも呼ばれることからも、印刷全般の知識を身に付けたプロとして活動。経験を積めば、紙とインクの相性、気温や湿度で変化する印刷物の乾燥具合など細かなノウハウも蓄積される。昨今の印刷機の発達はめざましく、特殊加工も簡単にできるようになってきた。いっそう効果的に見せるための改善や効率よく機械を動かす工夫にも、技術者として取り組んでいきたい。