【シゴトを知ろう】舞台美術 編

演劇や音楽などのステージで、大道具から小道具までの美術部門全体を担う役割を持っているのが「舞台美術」の仕事です。美しさや大掛かりな仕掛けで我々を楽しませてくれるこの舞台美術はどのようにできていくのでしょうか。
今回は、フリーランスの舞台美術として働く青木拓也さんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 制作や稽古など、その日によってスケジュールは違う
- 芸術にかかわる仕事には、人間を深められるという、とても魅力的な側面がある
- 若いうちに海外に行って、本場の演劇やダンスをたくさん観てくるのがおすすめ
プランニングの最中、すてきな空間を想像しながら絵を作っている時間が一番楽しい
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
私は主に、劇場やスタジオなどで行われる舞台作品のための空間をデザインしています。作家や演出家と打ち合わせを重ねて、美術プランを立て、アイデアを絵や立体にしてプレゼン(企画の提案)をします。そのプランが通ったら、模型や設計図などを作って、大道具を製作する工場などに発注します。
作品の稽古が進む中で、美術の調整や変更を行いながら、最終的に劇場で美術の仕上がりをチェックします。公演初日を迎えると、一つの現場が手を離れます。人によりますが、私の場合は年間30〜40本くらいの作品を手がけていますね。また、小さな空間での公演や予算が少ないときには、自分で作業をして大道具を作ることもあります。私は五反田にある「六尺堂」というアトリエ(工房)を共有して使っていて、作業をするときはそこを利用しています。
<ある一日のスケジュール(打ち合わせ・稽古の日の場合)>
10:00 プロダクション事務所にて打ち合わせ
13:00 喫茶店にて別件の打ち合わせ
15:00 大道具会社にて道具調べ(完成した道具の仕上がりをチェックする仕事)
18:00 稽古場にて通し稽古など
22:00 帰宅、デスクワークなど
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
企画を考えている最中、すてきな空間を想像しながら絵を作っている時間が一番楽しいです。劇的な空間をこんなに数多く考えて、実現できる仕事は他にないと思います。
また、たくさんの作家や演出家と出会うので、彼らの突飛な発想や深い思考に触れられるということも、この仕事ならではの醍醐味です。やりがいを感じるのは、やはり作品が人の目に触れるときです。自分が関わった舞台を観にきたお客さまが客席で喜んでいるところに立ち会うと、とても幸せな気持ちになります。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
美術プランの締め切りが近いと、デスクでの仕事が深夜に及ぶことも多いので、睡眠時間が削られるのは大変です。あとはアイデアを常に探していなければならないので、頭が休まる時間があまりないことも、大変といえば大変なのかもしれません。常に締め切りに追われていることは、とても苦しいことです。
劇団四季の『オペラ座の怪人』を観た体験が仕事を志す原点になった
Q4. どのようなきっかけ・経緯で舞台美術の仕事に就きましたか?
小学4年生のころに、劇団四季の『オペラ座の怪人』を観た記憶が鮮明に残っています。ろうそくが一面を埋め尽くす舞台転換や、劇場の額縁を彩るセットの大きさに圧倒されました。今となっては、この観劇体験が、今の仕事を志す原点になったのだと思います。
その後、高校生になって舞台美術家という仕事があることを知り、演劇が学べる大学に進学しました。仕事として初めて舞台作品に関わったのは、大学在学中の18歳のころです。大学の先輩に紹介してもらった現場でした。それ以来、ずっとフリーランサー(特定の企業や団体、組織に専従しない、個人事業主・自由業の業態こと)として舞台美術の仕事を続けて、今に至ります。
Q5. 大学では何を学びましたか?
大学では、舞台装置に関して学ぶ学部に4年間通いました。座学では、基礎的な絵を描く技術や、日本演劇・西洋演劇の歴史やそれにまつわる文化なども勉強しました。実習では、巨匠達の図面の模写や、古典戯曲を題材にした舞台美術の企画、模型製作などから、他コースと合同で演劇を作って発表するような授業もありました。
大学の授業をすごく真面目に受けていた方ではありませんでしたが、作品を作る実習は好きでした。演出をベテランの先生が受け持つこともあり、若いうちに年代が違う人と物を作る経験ができたことは、自分の視野を広げてくれたと思います。また、在学中に学外で仕事を受けていたりもしたので、現場で実践していて問題にぶつかると、大学で会う先輩や教授に相談する、というような学び方もしていました。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
私は高校生のときから、舞台美術家になろうと決めていました。そのため、当時の夢は現在の仕事に直結しています。
読解力・理解力が大事な仕事なので言葉が好きな人、おはなしを読むのが好きな人は向いている
Q7. どういう人が舞台美術の仕事に向いていると思いますか?
台本を読んで発想したり、作家や演出家の話を聞いてアイデアを出したり……という仕事なので、読解力・理解力は大事だと思います。言葉が好きな人、お話しを読むのが好きな人とかは向いてるんじゃないでしょうか。あとはやっぱり、絵を描くのが好きな人。自分の考えを人に伝えることが得意な人も向いていると思います。行く場所や帰宅時間が日によってばらばらで、抱えている現場の数も時期によって増減するので、安定した暮らしを求める人には、あまり向いてないと思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
芸術にかかわる仕事には、人間を深められる、とても魅力的な側面があります。仕事をお金稼ぎのためだけではなく、人生をかけて取り組む事業としたい方は、芸術文化の世界に飛び込むととてもおもしろいと思います。
中でも舞台美術に興味がある方がいたら、ぜひ若いうちに海外に行って、本場といわれる場所の演劇やダンスをたくさん観ることをおすすめします。私も若いころにそう勧めてくれた方がいて、お金を貯めて観劇旅行を何度もしました。審美眼やセンスというような類のものは鍛えることが出来ます。歴史や技術を学ぶのと同じくらい、その鍛錬は将来の糧になってくれると思います。
フリーランスの舞台美術なんて、不安定な職業で食べて行けるのだろうか?という不安を持たれる人もいるかもしれませんが、大丈夫です。貪欲に、逃げずに、10年くらい努力を続ければ、きっと結果がついてくると思います!
現在は、舞台美術家、舞台監督、大道具が集まる工房「舞台美術研究工房 六尺堂」を拠点に仕事に携わっている青木さん。小さなころに体験した感動を自分の仕事としているなんて、とてもすてきなことですよね。舞台美術に興味のあるみなさんは、まずは身近なところで体験できる舞台を観に行ってみるといいかもしれませんよ。
【profile】舞台美術 青木拓也
【取材協力】舞台美術研究工房 六尺堂
http://www.rokushakudo.org
この記事のテーマ
「音楽・イベント」を解説
エンターテイメントを作り出すため、職種に応じた専門知識や技術を学び、作品制作や企画立案のスキル、表現力を磨きます。音楽制作では、作詞・作曲・編曲などの楽曲づくりのほか、レコーディングやライブでの音響機器の操作を学びます。舞台制作では、演劇やダンスなどの演出のほか、舞台装置の使い方を学びます。楽器の製作・修理もこの分野です。
この記事で取り上げた
「舞台美術」
はこんな仕事です
舞台における大道具から小道具までの美術部門全体を担うのが舞台美術の役割だ。小道具や背景幕などの細かい美術制作も担当し、舞台におけるあらゆる美術構成に携わる。特に照明との関わりが強く、照明を通した場合に客席からどう見えるかイメージすることが重要。ミュージカル、演劇など、芸術分野では情感を大事にするため、印象的な美しい舞台が要求される。他にもミュージシャンのライブなど大がかりな仕掛けがあるステージも舞台美術の腕の見せどころだ。
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