【シゴトを知ろう】野生動物調査員 編

日本は自然の豊かな国ですが、大きな開発事業を行うときは法律により、その地域に生息する生きものにどのような影響を与えるかを事前に調査しないといけないことになっています。その調査をお手伝いする会社で、子どもの頃から大好きだった“鳥”の調査を担当している松本昇也さんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 開発事業による生きものへの影響や保全の必要性を調べて報告をする仕事
- 調査は生きものの生活リズムに合わせて行われる
- 高校生のうちから生きものの発見力や観察力を養っておくとこの仕事に役立つ
環境保全のために生きものの調査をする仕事
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
生きものを守る仕事をしています。鉄道や道路などの大きな開発事業を行うとき、事業者は、その地域の自然環境の保全について配慮する必要があります。環境影響評価法という法律により、開発事業が環境にどのような影響を及ぼすかについて、事前に調査を行い、影響を予測・評価し、事業が環境の保全に十分配慮して行われるようにする必要があるのですが、私たちの会社では主にその調査の部分をお手伝いしています。
具体的には動植物の調査を請け負っており、私は鳥類の担当をしています。開発候補地に生息する鳥類を把握するために調査を行い、その地域では希少な鳥類、特にタカなどの猛禽類(もうきんるい)の生息・繁殖状況を明らかにして、開発事業による鳥類への影響や保全の必要性を検討し、報告書を作成しています。
そのほかにも、ある地域での数十年前と現在の鳥類相(その地域に住む全ての鳥)を比較して、鳥類相の変化を考察する仕事や、その地域の自然を守っていくための基礎資料となる鳥類調査を行うこともあります。
<鳥類調査の最もハードな日のスケジュール例>
4:00 調査準備、ミーティング後に出発
4:30 日の出より鳥類調査開始(調査中に適宜休憩)
12:30 調査終了
13:00 昼食
14:00 宿に戻り、データ整理
14:30 休憩
17:30 夕食
18:30 調査準備、ミーティング後に出発
19:00 夜間調査開始
21:30 夜間調査終了
22:00 宿に戻りデータ整理、ミーティング
Q2.仕事の楽しさ・やりがいを感じるのはどんなところですか?
開発候補地内やその周辺でオオタカやクマタカなどの希少な猛禽類の生息地を発見することがあります。開発事業がその生息や繁殖に影響をおよぼす可能性がある場合、開発候補地の場所の見直しや生息地の一部を開発候補地から外すなどの対策をクライアントに提案します。その内容が事業に反映されたときはやりがいを感じます。
やはり生きものが好きなので、なるべく多くの生息地を守りたいという気持ちがあります。しかし、人が豊かに暮らすためには開発は避けられず、希少な鳥類の生息地を発見しても開発計画自体がなくなることはほとんどありません。少しでも多くの生きものを守れるかどうかは私たちの調査の結果次第です。とても責任のある重要な仕事だと感じています。
Q3. 逆に仕事で大変さを感じるのはどんなところですか?
仕事の時間を生きものの生活リズムに合わせなければいけないのは大変です。野鳥は特に繁殖期には日の出前後から活発にさえずったり活動したりするので、早起きが苦手な人は大変かもしれません。また、夜行性の鳥類を対象とした調査では夜通し調査することもあり、眠気との戦いです。
調査地は荒れた樹木や道のない山の中、雪山などの人がほとんど立ち入らないような過酷な環境のときもあり、クマやヘビ、ハチ、ダニなどの危険生物や、落石、滑落などの危険と隣り合わせです。大げさに言えばサバイバルです。一方で大都市の公園や住宅地など、人目につく場所での調査もありますが、双眼鏡や望遠鏡、カメラを使用していると一般の方に大変怪しまれるため、不審者に思われないように気も使います。挨拶したりして勤務中であることをアピールするのですが、ときには通報されてしまい、警察に職務質問を受けることもあります……。
子どもの頃からバードウォッチングが趣味だった
Q4. どのようなきっかけでその仕事に就きましたか?
自然に関わる仕事がしたいと思い、環境のことが学べる大学に進学し、研究室のOBから植物の毎木調査のアルバイトを紹介していただいたのがきっかけでした。毎木調査とは木を1本1本計測する仕事です。そこで鳥類調査の仕事もあることを知り、この業界に興味を持ち、就職活動を行いました。
もともと生きものが好きで、小学5年生で野鳥に興味を持ち始めてからは、郊外の水田地帯や大きな公園に出かけては鳥を探していました。中学・高校に進むと部活で忙しくなり時間が取れなくなりましたが、珍しい鳥が出たと聞けば見に行かずにはいられませんでした。趣味のおかげで今の仕事に出会えたと思います。
Q5. 大学ではどんなことを学びましたか?
大学では造園や林業などを学び、緑地や森林と鳥類の関係について研究していました。研究内容には鳥類相の調査も含まれていたため、今の仕事に役立っています。
子どもの頃から図鑑を見て覚えていたので野鳥の識別は得意だったのですが、仕事に就いてからは知識不足を痛感し、鳥類の生態や野鳥の探し方を改めて勉強し、休日もバードウォッチングに出かけました。またベテランの調査員さんからの仕事のアドバイスや調査経験談もとても参考になりました。
Q6. 高校生のときに抱いていた夢や体験したことが、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
子どもの頃からバードウォッチングが趣味で、生物に興味がありました。高校生のときは数学と生物が好きで、環境省や日本野鳥の会など自然や野鳥に関われる仕事に就きたいと思っていました。
生きもの好きの知識や経験が役に立つ
Q7. どういう人が野生動物調査員の仕事に向いていると思いますか?
一つ目は「アウトドア派で自然が好きな人」。二つ目は、調査は山の中を歩くことが多いので「体力に自信がある人」。運動神経もあれば尚良いと思います。三つ目は、データを編集して報告書を書かないといけないので「研究・解析が好きな人」。またお客様と事業をどう進めていくかを話し合う仕事なので、コミュニケーション力や常識を持っていることも大切です。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
生きもの好きの人であれば、自分の知識や経験を大いに役立てることができる仕事です。生きものに興味を持ったら、高校生のうちからどんどん野外に出て行き、生きものの発見力や観察力を養ってください。好きなことを極めれば必ず自分の武器になるはずです。生きものを守ることに興味のある人がいれば、ぜひこの仕事を一緒にしていきましょう。
“最もハードなスケジュール例”の過密さに驚いた人もいるかもしれませんが、あくまで最も忙しい日の例であり、そうしたハードな日があったとしても生きもの好きの人にはたまらないお仕事なんだそうです。このお仕事を初めて知った人も多いと思いますが、自然や動物・植物が好きな人には魅力的な選択肢となるのではないでしょうか。
【profile】株式会社環境指標生物 松本昇也
HP:http://www.bioindicator.co.jp
この記事のテーマ
「動物・植物」を解説
ペットなど動物や観賞用の植物に関わり暮らしに潤いを提供する分野、食の供給や環境保全を担う農業・林業・水産業などの分野があります。動物や植物の生態や生育に関する専門知識を身につけ、飼育や栽培など希望する職種に必要な技術を磨きます。盲導犬や警察犬、競走馬、サーカスの猛獣などの調教・訓練や水族館や動物園で働く選択肢もあります。
この記事で取り上げた
「野生動物調査員」
はこんな仕事です
公共事業などの工事を行う際に、周辺環境、特に動物の生態系への影響を調査するのが野生動物調査員の仕事である。主に特定の位置での変化を調査する定点調査や対象区域を実際に歩き回って調査する林内踏査などを実施。さらに調査によって得た情報を地理情報とリンクさせて、デジタルデータとして管理する地理情報システム(GIS)を用いて分析する。その結果、動物の生態系に大きな影響を与え、自然環境が破壊される恐れがある場合には、事業計画の内容を見直す場合もある。