【シゴトを知ろう】美術造形家 編
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「美術造形」というと、彫刻やガラス工芸作品などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もちろん、そのようなオブジェも美術造形物の一つですが、現在では最先端の技術や思考により、その定義に幅ができ、インスタレーション(展示空間を含めて作品とみなす手法)などで使われる映像を含むものや、機械仕掛けで動くものなど、多岐にわたる美術造形物が存在します。
今回は、東京にあるアートカンパニー「TASKO」で最先端の美術造形を行っている加藤小雪さんに、美術造形家のお仕事や魅力について伺いました!
この記事をまとめると
- 美術造形家は、自分のイメージを人に伝える能力が必要
- 美術造形家は、絵を「言語」として持っていると強い!
- 美術造形家を目指すならば、いろんなものを高校生のときから見ておくべし!
個人の力を集めたチームで制作すると、表現力は無限大に!
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
私が所属する「TASKO」は、舞台制作・機械製作・美術制作・デザイン・マネジメントを専門とするメンバーが集まった総合アートカンパニーです。それぞれを専門とするメンバーが、案件ごとにいろんな組み合わせでチームをつくったり、単独で担当したりして、映像・ショーウィンドウ・ビジュアル・スタイリングなどさまざまなメディアや形態での作品を制作しています。私は、その中の美術制作部に所属し、設計制作部と共同で美術造形物をつくったり、単独で映像美術を担当したりしています。
チームでつくった仕事には、無印良品の商品で東京の街をつくった『MUJI 10,000 shapes of TOKYO Exhibition』というものがあります。このプロジェクトは、施工まで含めると3ヶ月ほど時間をかけて取り組みました。これは「&TOKYO」という東京都の企画のもので、そこに企画を出した広告代理店からTASKOに依頼がきて、一緒に制作をしたものです。私は細かい制作物を担当し、このインスタレーション作品はニューヨークと台北で展示されました。
また、Panasonicの太陽光発電を推奨するための新プロジェクトで、『太陽光屋台SUN十郎』という太陽光で動く屋台というものを制作し、設計制作部が仕掛けを、私たち美術制作部は屋台の飾りや汚しなどを担当しました。
単独の仕事では主に映像美術を担当しています。映像美術とは、CMや映画などの映像で役者以外の映っている世界をつくる仕事です。最近では、2.5次元パラレルシンガーソングライター「さユり」のニューシングル「フラレガイガール」MVの美術を担当しました。私はもともと映像美術の仕事をしていたんですが、TASKOに美術制作部が新設されるタイミングでそちらに所属することになりました。
<ある一日のスケジュール>
10:00 出社
11:00 クライアントや監督と打ち合わせ
12:00 昼食
13:00 制作物の素材や、映像撮影の際に借りるものの選定
16:00 帰社
16:15 デザイン画やものづくりなどの制作
20:00 退社
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
クリエイティブディレクターや監督の持っているイメージに対してアイデアを出し、イメージをふくらませて、最初のイメージを超えるものが提供できたときや、それが形になって見ている人に届いたときがうれしく、やりがいを感じます。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
制作期間は短いものから長いものまであるのですが、撮影のときなどは寝られない日が続くこともあり、それは体力的に大変です。ただ、好きな仕事ですので苦ではありません。仕事にミスが出ないよう、ON・OFFを切り替えるようにして、ずっと頑張らないということを心がけ、長時間の仕事は乗り切るようにしています。また、自分の体力に適した仕事を選ぶようにもしています。
「文化祭の準備」の延長線上にある仕事
Q4. どのようなきっかけ・経緯で美術造形家の仕事に就きましたか?
文化祭のときに、クラスTシャツをつくったり看板を描いたりするタイプだったんですが、つくったものをみんなにほめられると、とてもうれしかったんです。その経験から、そういうものをつくることが私は得意だという思いがあり、ものづくりがベースにある「文化祭の準備」を延長したような仕事がしたいと思ったのがきっかけです。
大学卒業後すぐに就職せず、アルバイトで映画制作に関わりました。そこでは主に美術を担当していたのですが、衣装を担当する場合もあったり、ブログを書くなどの仕事もしていました。それを2〜3年続けるうちに、本格的に映像美術のことを学んでみたいと思い始めました。その後、DTPオペレーターの仕事をしていたのですが、仕事後の時間を使って、短編映画に美術担当として参加していました。
そのように、働きながら個人活動をしている期間が1年ぐらいあったのですが、その映画がカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門にノミネートされ、それをきっかけに映像美術をもっと勉強したいと思い、映像美術をしている人のもとでアシスタントとして働き始めました。約半年後、フリーランスとして映像美術の仕事をし始めたのですが、TASKOの仕事を手伝うようになり、美術制作部として所属することになりました。
今は、お金をかけた文化祭を毎日やっているような感覚で、好きなことを仕事にできていると思います。
Q5. 大学では何を学びましたか?
大学は美術大学の情報デザイン学科に進みました。ゼミは、インスタレーションなどの現代美術を専門にしているところを選択しました。私はそこで、ファスナーを使った壁掛けタブローを作品としてつくりました。ファスナーを一度に何10本と引いたり、大きなファスナーや長いファスナーを引いたりすると表情が変わっていくインスタレーション作品です。
この学科が他の学科と異なるところは、自分がつくりたいと思ったものをプレゼンする能力を養えるところだと思います。ディレクターや監督に、自分がつくるものを説明し、納得してもらわなければいけない仕事なので、その力は今大変役に立っています。あと、大学では教員の免許も取得しました。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
高校生のころは、「文化祭の準備」のような仕事がしたいと思っていました。文化祭で、クラスごとにつくる垂れ幕をデザインしたのですが、放課後、予備校に行かねばならず、下書きだけ描いて色指定をし、あとは他の人に任せていました。今思えば、そのころから美術ディレクターのような仕事をしていたと思います。
イメージ力で、つくったものの先を見すえる!
Q7. どういう人がその仕事に向いていると思いますか?
自分がつくったものの先を想像できる人が向いていると思います。喜ぶ人の顔をイメージして制作するのもそうですし、ディレクターや監督のイメージをふくらますという面でも、想像力が必要とされる仕事だと思います。あと、基本的に絵は描けた方がいいと思います。絵を言語としてもっておくと自分のイメージを相手に伝えるときに強い武器になります。韓国の人と仕事をしたことがあったのですが、言葉は伝わらなくても、絵でコミュニケーションをとることができました。絵は万国共通に伝わるものですし、この仕事はグローバルに展開することもこの先多くなっていくと思うので、絵でイメージを伝えられるといいと思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
ぜひ今のうちから、いろいろなものを見てください。絵画、音楽、舞台など自分が関わっていきたい業界はもちろんですが、興味のないものも柔軟に取り入れてみてください。高校生のころは、まだ固定概念がなく、頭が柔らかいと思うので、スポンジのようにいろんなことを吸収しておくと、その先にとても役立つと思いますよ。
加藤さんのお話から、一緒に制作する相手とのやりとりを大事にし、その中でイメージをふくらまし、よりよい作品をつくりたいという熱い想いが伝わってきました。
美術造形家に興味を持った人は、アンテナを張って、街にあるいろんな作品を見てみてください。加藤さんが制作に関わった作品に出会えるかもしれませんよ!
【profile】株式会社TASKO 美術制作部 加藤小雪
http://tasko.jp/
この記事のテーマ
「デザイン・芸術・写真」を解説
デザインは、本や雑誌、広告など印刷物のデザイン、雑貨、玩具、パッケージなどの商品デザイン、伝統工芸や日用品などの装飾デザインといった分野があり、学校では専門知識や道具、機器を使いこなす技術を学びます。アートや写真を仕事にする場合、学校で基礎的な知識や技術を身につけ、学外での実践を通して経験やセンスを磨きます。
この記事で取り上げた
「美術造形家」
はこんな仕事です
元々は模型製作者を指していたが、現在では絵画や彫刻、ガラスなど全ての美術作品を作る人の総称だ。表現ジャンルは多岐にわたり、それぞれ専門知識と技量が必要。多くは美術大学や専門学校で基本を学び、その後に身に付けた技術を生かせる職業に就くことになる。一般的にデザイナー、アーティストなどと呼ばれる職種に携わるが、商品企画など総合職系の門戸も開かれている。どのジャンルに進むにしても芸術に対する感性と創造力は不可欠だ。特に独創性や先進性が高く評価される仕事である。