【シゴトを知ろう】和菓子職人 ~番外編~
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神奈川県川崎市にある「新岩城菓子舗」4代目店主の徳植健太(とくうえ けんた)さんへのインタビュー番外編。揚げ物ではない「天ぷら」のこと、失敗しない修業先選びのコツなど、仕事の裏側について伺いました。
この記事をまとめると
- 有名店のどら焼きのおいしさにびっくり! いろんなお菓子を食べて日々勉強
- 洋菓子の技術を使うベテラン和菓子職人も。和菓子と洋菓子に垣根なし
- お店によって作り方はさまざま。修業は自分が作りたいお菓子があるお店で
和菓子店なのに「天ぷら」? 修業先で戸惑う
――業界特有の専門用語などはありますか?
この業界に入ってから驚いた用語は「天ぷら」です。上生菓子(※)などは、寒天を溶かして砂糖を入れたものを上からかけて、ツヤを出して仕上げます。これを業界用語で「天ぷら」と言います。修業先で先輩から初めて「天ぷらするから準備しろ」と言われた時は、何をするのか分からず困ってしまいました(笑)。
ベテラン職人も使っている用語なので、かなり前から使われている言葉だと思います。実際に和菓子は、寒天でツヤ出しをしているお菓子が多いです。
※上生菓子:生菓子の一種。代表的な「練り切り」は白あんなどを練って着色し、四季折々の細工を施したもの。茶席などに用いられる。
――一般の方に言うと驚かれる業界の常識はありますか?
普段から、いろんなお菓子を食べて勉強しています。外出先や旅行先にはたいてい和菓子店があるので、気になったお菓子は買って食べます。自分では考えつかなかったようなお菓子に出会うこともあるので、とても参考になりますよ。
アイデアがおもしろいとか新しいというだけではなく、定番商品でも、お菓子は食べてみなければそのおいしさが分かりません。とある有名店のどら焼きを食べた時には、「世の中にこんなにおいしいどら焼きがあるんだ!」とびっくりしました。当店でもどら焼きは毎朝焼いていますが、全然違いました。
和菓子の世界にとどまらない。柔軟な発想でよりおいしいお菓子を作る
――業界内にはどんな方が多いですか?
あまりおしゃべりな人はいないですね。自分のお店を持っている人が多く、一国一城のあるじなので、こだわりを持った頑固な人もいます。
一方、時代の流れで、ベテラン職人でも和菓子も洋菓子も両方できる人もいます。そういう人は頭が柔軟なアイデアマンで、私たち若い世代の職人に、洋菓子の技術をどのように和菓子に取り入れればいいかを教えてくれることもあります。
――業界で働くにあたって、制限されることはありますか?
食品を扱う仕事なので、手を清潔に保つことが大切です。爪はいつも短く切って、結婚指輪や腕時計もしません。女性なら、化粧は派手過ぎなければOKですが、ネイルは難しいかもしれませんね。
伝統を守りつつ、時代やお客さまに合わせて進化する仕事
――事前のイメージとのギャップはどんな部分にありましたか?
4年間の修業後、家族で経営する店で働き始めたのですが、自分が何もできないことにあぜんとしました。
どら焼きやまんじゅうなどは、どの店でも同じように見えるかもしれませんが、それぞれのお店で作り方が全く違います。当店のあんこも、修業に行った店のものと全く同じではないんですよ。
また、職人だからといって、お菓子だけを作っていればいいわけではありません。当店は家族経営なので、経理や経営のことも学ぶ必要がありますし、お菓子にはパッケージのデザインも必須です。トータルで考えなければ、商品は売れません。
そのお店にどのようなお客さまが来るのかも、どんなお菓子を作るべきかということに関係してきます。当店では、地元で作られている果物を大福で包むなど、地域の特性を生かしたお菓子を作るように心掛けています。
技術は更新されていくものなので、そこに和菓子、洋菓子の垣根はありません。伝統を守っているだけでは限界がありますから、その時代やお客さま、お店の方針によって、職人も変わっていかなければならないと思います。
――業界内ではどんなキャリアパスがありますか?
家業が和菓子店なので私は直接修業に行きましたが、製菓学校で学んだ後お店で修業するという方法が一般的ではないかと思います。
製菓学校で学んでも、修業するお店によって作り方が違いますし、同じお店でも教える人によって作り方が違うこともあります。ですから、修業先選びは「このお店のこのお菓子が好き」というように、自分が作ってみたいお菓子があるお店を選ぶといいでしょう。
また、もしそのお店に製菓学校の先輩がいれば、そこがどういうお店なのかを聞いてみるといいと思います。
修業後は和菓子店に勤務する職人もいますが、自分の店を持ちたくなる人が多いですね。私も家業を継いでこの店を経営していますが、自分の店なら何でも自由にできるので楽しいです。
業界内だけではなく、食材となる果物を作っている農家の方や包装材のデザインをしてくれるデザイナーの方とも一緒に仕事をしています。いろんな人と出会えるのも、この仕事をしているから。楽しいし、ありがたいですね。
和菓子職人は、伝統的なお菓子を作る仕事というイメージがありますが、伝統を守りつつ、時代やお客さまやお店の方針によって進化していく仕事なんですね。また、食材を作る農家の方や包装材のデザイナーなど、異業種の方たちとも一緒に仕事をすることも分かりました。
同じような和菓子に見えても、その作り方はお店によって異なるとのこと。和菓子作りに興味がある人は、いろんなお店の和菓子を食べ比べて、自分の好きな味や食感を見つけることから始めてみるといいかもしれませんね。
【profile】新岩城菓子舗 4代目店主 徳植健太(とくうえ けんた)
新岩城菓子舗 http://shiniwaki.com/
この記事のテーマ
「食・栄養・調理・製菓」を解説
料理や菓子などの調理技術を生かしてサービスを提供したり、栄養に関する知識を生かして豊かな食生活を提供したりする仕事です。栄養に関する知識はもちろん、メニュー開発や盛りつけ、店のコーディネートに関するアイデアやセンス、食材や飲料に関する幅広い知識も求められます。
この記事で取り上げた
「和菓子職人」
はこんな仕事です
蒸し・焼き・練り・炊きといった独特な技術を駆使し、上生菓子や干菓子など、美しい色や形の日本伝統の和菓子をつくる職人。茶道とともに発展してきた和菓子は、日本の風土を表現することに重きを置いており、四季折々の季節感や草花を題材とした菓子づくりに大きな特徴がある。現在、特にメーカーなどでは製造の機械化が進んでいるものの、やはり基本は手づくりであり、一人前の職人になるまでには長い修業が必要となる。
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