【シゴトを知ろう】養殖業 ~番外編~

「マルハニチロ株式会社」(以下、マルハニチロ)に勤める荒木誉之さんは、入社3年目と若手でありながら各地で操業している養殖場での現場作業も多く経験しています。番外編では養殖の現場における知られざる常識から、思わぬきっかけにより体験した思い出深いエピソードを伺いました。
この記事をまとめると
- 養殖場では、意外にも繊細な作業が多い
- 生物学や化学に関する知識が役に立つ
- 「データ分析能力」が求められるシーンが多い
魚の体調の変化に気がつける、観察力も必要
――荒木さんは通常は本社勤務ですが、養殖場に出張されることもあるんですよね。現場に出て驚いたことはありますか?
まず最初に、養殖場は朝がとても早いことに驚きました。朝の3時に起床し、4時くらいから仕事を始めることもあります。またこの業界に入るまでは「養殖業」に対して“ワイルド”なイメージを抱いていたのですが、実際はとても細やかな注意力が必要な作業が多いです。魚は丁寧に扱うことを求められますし、魚の体調が少しでも悪くなったらすぐに気がつけるようにしなくてはいけません。
――魚も体調が悪くなることがあることがあるんですね!
魚も人間と一緒で、体調を崩したり病気になったりすることがあるんです。病気を未然に防ぐためにはワクチン注射が有効なので、買い付けてきた稚魚一匹一匹にワクチンを注射することも。稚魚の数が多くて、一日中ワクチンを注射し続ける日もあります(笑)。
――生きている魚にワクチンを打つのは大変そうですね。コツなどはあるのでしょうか?
慣れてくると、だんだんとワクチンを打つスピードが速くなってきますよ。また魚の筋肉部分ではなく腹の溝付近にワクチンを打つとより生存率が高くなるというデータがあるので、そのあたりに打つようにしています。
「データ分析能力」を養うことが大切
――現場作業をする中で体験した、思い出深いエピソードがあれば教えてください。
去年ある養殖場を大型の台風が直撃し、魚が大量に死ぬなど悲惨な状況に陥ってしまったことがあります。復旧作業を手伝うため僕も現場を訪れたのですが、資材が散乱する光景を初めて目にした時は一瞬立ちすくんでしまいました。そんな状況を目の前にしても現地のスタッフはすぐさま作業に取りかかっていました。また各養殖場からも手伝いのためスタッフが来ており、皆で一致団結して復旧作業にあたりました。着実に現場が復旧されていく様子を目の当たりにし、養殖業に携わる人たちの結束力や絆の強さを感じましたね。ネガティブな状況から生まれたエピソードではありますが、とても心に残っています。
――将来、養殖業に携わりたいと考えている人は、今からどんな勉強をしておくといいと思いますか?
養殖業においては魚の健康状態を判断することや成長状況をチェックすることが求められるので、生き物に関する知識「生物学」をしっかりと学んでおくといいと思います。またどのような環境下だと魚がよく育つか、あるいは病気になりやすいかといったデータを知識として自分の中に蓄積していかなくてはなりません。つまりさまざまな状況を経験しつつもその状況を分析し、データ化する能力が求められます。
この「データ分析能力」は日頃から注意深く物事を見ることで養われると思います。例えば日頃接している友達がどんなことに興味があるのか、何をしてあげたら喜ぶのかなど気に留めておくのがおすすめです。また普段から「なぜ?」と考える癖をつけるといいでしょう。スーパーで珍しい缶詰を見つけたら「どうやって作られているんだろう?」「どんな素材が使われているんだろう?」と考えるなど。少しでも興味を持ったことを「なぜ?」と深堀りし、その答えを見つけていく過程で「データ分析能力」は身につくと思います。
養殖場の魚たちは、多くの人たちの手により大切に育てられています。そのように考えるとこれまで何気なく食べていたお魚も、ありがたく大切にいただきたくなりますね。また「養殖業」は魚という“生き物”を扱うお仕事。観察能力や分析能力に加え、繊細さが求められるシーンも多々あることがわかりました。
【Profile】
マルハニチロ株式会社 増養殖事業部 養殖課 荒木 誉之
この記事のテーマ
「動物・植物」を解説
ペットなど動物や観賞用の植物に関わり暮らしに潤いを提供する分野、食の供給や環境保全を担う農業・林業・水産業などの分野があります。動物や植物の生態や生育に関する専門知識を身につけ、飼育や栽培など希望する職種に必要な技術を磨きます。盲導犬や警察犬、競走馬、サーカスの猛獣などの調教・訓練や水族館や動物園で働く選択肢もあります。
この記事で取り上げた
「養殖業」
はこんな仕事です
主に食用の魚・ノリ・貝などを人工的に育てて販売する仕事。魚の場合は、海や川に生け簀(いけす)と呼ばれる区画を設けて、ブリ、ハマチ、カンパチなどの稚魚を放し、専用に開発された餌を与えて育てる。ノリの場合はカキなどの貝殻を利用し、種を付けて栽培する。いずれの場合も、水質や水温の管理がとても重要で、病気の個体を発見して改善を図るなど品質管理には細心の注意を払っている。育てた魚、ノリは各地域の漁業協同組合や浜仲買商と呼ばれる業者を通じて卸売市場へと出荷される。