【シゴトを知ろう】レーシングチームのメカニック ~番外編~
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日本におけるモーターレースで屈指の人気を誇る『SUPER GT』シリーズ。その華やかな世界で、メカニックとして活躍しているのがMOLAレーシングチームの河原和也さんです。2011年のチャンピオン・イヤーを振り返りながら、メカニックの仕事に求められる資質について伺いました。
この記事をまとめると
- モータスポーツ業界にはバンド経験者が多い!? 納得の理由とは?
- 2011年『SUPER GT』シリーズチャンピオンの経験が大きな財産に
- レーシングチームがつくっているのは"モノ"と"ヒト"
レーシングカーの爆音がメカニックのハートに火をつける!
――小学生の頃、プラモデル作りが大好きだったそうですが、それ以外に没頭したことはありますか?
学生の頃はバンド活動に明け暮れましたね。ギンギンのメタルロックが大好きで、例えば"メタリカ"とかコピーしてましたよ。疾走感や見た目の派手さが、レーシングカーと似ている感じがするんですよね。ジャカジャカと奏でるサウンドとエキゾーストノート(心地よく感じるエンジンの排気音)の爆音!
この業界の人たちには、結構バンド経験者がいますよ。テクニックとして繊細なタッチほどうまく曲調が仕上がるところとか、ものづくりという点では共通しているんじゃないでしょうか。
――バンド仲間とのグルーヴ感が今の仕事と共通しているのでしょうか?
それはありますね。「俺がこのラインを弾くからお前はここをたたけ」という感じ、この感覚はサーキット場でのセッティングにかなり共通しています。
タイミングが合えば、レーシングカーは最高に気持ちいいエンジン音を奏でるし、逆にメカニックチームの連携が悪いといい爆音が聞こえない、この感覚ってバンドを経験していると非常に分かりやすいですね。
気合の入ったエンジン音がメカニックのハートに火をつける、といったところでしょうか(笑)。
メカニックは失敗できない仕事。勝利の喜びよりも安心感が勝る
――『SUPER GT』シリーズでチャンピオンになった時のお話しを聞かせてください。
忘れもしない2011年の思い出ですが、『SUPER GT』シリーズGT500に初参戦したその年にチャンピオンになるという快挙を成し遂げたんですよ。
各メディアもこぞってとり上げてくれて、チームの興奮は最高潮! 初参戦で初めてチャンピオンになったので、チームのみんなが「奇跡だ! 奇跡だ!!」って叫んでましたね。
――最高の年だったんですね。その時の歓喜エピソードを教えてください。
それが意外と記憶に無いんですよ。その年は自動車メーカーからのレーシングカー製作に関する約束事が多く、自由に作ることが許されない環境だったんです。その上、度重なるサーキット場でのテストがあり、歓喜している暇もない状況でした。
モータースポーツの最高クラス『SUPER GT』シリーズでチャンピオンになる期待が高まれば高まるほど、自動車メーカーの介入も過度になるのは仕方ないですけど。
サーキットを走行しチェッカーフラッグ(※)を受けるレーシングカーを見て、「ホッ」と安心することの連続でしたよ。歓喜よりも次のレースへの自信につながる安心感とでもいうのでしょうか。失敗できないレーシングメカニックならではの感じ方かもしれませんね。チャンピオンカーを手掛けたという経験は、私にとって大きな財産になっています。
※チェッカーフラッグ:白と黒の市松模様の旗。自動車レースにおいて、レースの終了を表すために振られる。
――この仕事ならではの楽しいエピソードはありますか?
国内外のサーキット場がもう一つの職場なので、そこでご当地ならではのおいしい食べ物を食べられることですかね。
また、一般的な会社員よりも出張が多く、工房でのレーシングカー作りだけじゃなくて移動する楽しみもあります。この気晴らしが、ものづくりへのいい集中力を生むんです!
時には愛のムチも! 先輩たちが育っててくれて今がある
――尊敬している人はいますか?
います!います!! 会社の先輩方です。
僕はこの世界に入って先輩の背中を見つめてきました。確かに、厳しい叱咤激励をチーフから受けて気がめいる時もありました。でも、この仕事ってチームプレイなんですよね。一人でも気を抜くとチーム力はマイナスになります。チーフメカニックは車全体を見つつ、メカニック一人ひとりをチェックしているんですね。
初めはチーフのテクニックだけに感嘆していましたが、最近、やっと分かってきたような気がするんですよ。レーシングカーという"モノ"を作っているけど、"ヒト"もつくっているんだなと。今思えば、シリーズチャンピオンなった年に先輩からいろいろと教わったなと思いますね。
――最後に将来の夢を教えてください。
今はタイヤを含めた足回りを担当しているんですが、将来的にはレーシングチームのチーフメカニックとして、年間チャンピオンを取れる最強の車を作りたいですね。もちろんその時には、私が育ててもらったように後輩を一人前のメカニックに育てます!
その第一歩となる目標が、夏場のピット(※)地獄を克復することです。
サーキット場でのピット作業時は、耐火スーツとヘルメット着用が規則で義務付けられているんですが、猛暑の日は汗が滴り運動部の合宿をほうふつとさせる世界。まさに地獄です。
ですが、これぐらいで参っているようではチーフになれませんから、この地獄を楽しめるようにチーフメカニックを目指して頑張ります。
※ピット:サーキット場におけるレーシングチームの格納庫。この作業場でメカニックが車の最後の調整を行う。
車を作るだけではなく、サーキット場でのチームプレイも必要とされるレーシングチームのメカニックという仕事。河原さんは、楽器の代わりに工具を使ってエキゾーストノートを奏でているのだと感じました。
今、モータースポーツ業界では若手が不足しているようです。車に興味がある人だけではなく、バンドを経験したことがある人や部活動でチーム競技に関わったことがある人は、意外と肌に合う業界かもしれません。興味のある人はサーキット場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
【profile】株式会社モーラ 技術部 河原和也
この記事のテーマ
「自動車・航空・船舶・鉄道・宇宙」を解説
陸・海・空の交通や物流に関わるスキルを学びます。自動車、飛行機、船舶、鉄道車両などの整備・保守や設計・開発、製造ラインや安全の管理、乗客サービスなど、身につけるべき知識や技術は職業によってさまざまで、特定の資格が求められる職業も多数あります。宇宙については、気象観測や通信を支える衛星に関わる仕事の技術などを学びます。
この記事で取り上げた
「レーシングチームのメカニック」
はこんな仕事です
レースに出場するマシンを整備・調整し、ベストコンディションにする仕事。マシンの状態をドライバーに伝えてアドバイスしたり、ピットへ戻ってきたマシンのタイヤ交換や給油を行ったりする。ドライバーが優秀でもマシンが不調では勝つことができないため、0.1秒を競うカーレースにおいて非常に重要な役割を持つ。また、入賞実績を持つことが技術の高さの証明となる。自動車の構造を理解し、整備に関する技術が不可欠。レーシングカーは、特殊なパーツを使用しているため、それらの専門知識も必要だ。
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