【シゴトを知ろう】幼児リトミック指導員 編
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スイスの作曲家によって提唱された、音楽を使った教育法「リトミック」。音楽と触れ合うことでバランスの取れた心と体を育み、想像力や表現力などを養うことを目的としています。
実際にリトミックの指導をされている方はどのようなお仕事をされているのか、フリーランスで「幼児リトミック指導員」として働く笹岡富士子さんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 経験が大切。現実は参考書通りにはいかないことばかり
- より広い視野を身に付けるべく、音楽大学ではなく芸術学部の音楽学科へ
- 自分と誰かを比較するのではなく、個性を大事にしよう
音楽を媒介として生まれるコミュニケーションが魅力
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
幼児向けのリトミック講座の講師をしています。子どもたちが興味を持つ手遊びや童謡などを中心に、カチッとしたスタイルの授業というよりは、ピアノの即興演奏をベースに子どもたちの想像力や感性に任せて講座を進めています。
言葉をまだ発さない時期のお子さんの場合には、音楽に合わせて体を動かしてもらったり、言葉の発音なども題材にしたりしています。
埼玉県さいたま市内の保育園で隔週(月に2、3回)でリトミック講師をさせていただいているほか、東京でも幼児向けのリトミック講座を開いています。
<ある一日のスケジュール>
10:00 リハーサル・セッティング
10:30 リトミックレッスン(0~1歳クラス)
11:15 休憩
11:30 リトミックレッスン(2歳クラス)
12:15 昼休憩
13:30 リトミックレッスン(3歳クラス)
14:15 レッスン終了
14:30 後片付け
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
いわゆるコンサートや演奏会とは違って、直接的な人との関わりがあることがリトミックの大きな魅力だと思います。
お子さんの場合は、まだ言語表現ができなかったり言葉での表現が乏しい段階でも、音を媒介としてコミュニケーションを取ることができることは楽しいですし、その場その場で音楽を通して生まれる感情や会話というものにも魅力を感じます。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
本当に経験というものが大切だなと感じます。リトミックの参考書や他の先生のお話を聞いていても、それがそのまま当てはまることが少ないのが現状です。
即興的に対応していく必要があるので、そういった大変さもありますし、子どもたちが「この楽器を使いたい!」ということでケンカになってしまったら、それに対するケアも生まれます。
私が行っているリトミックのスタイルは自由度が高いだけに、場が崩れやすい怖さもありますし、正解がないからこそ難しいなと思うことも多いです。
アートセラピーとの出会いが、リトミックにつながった
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
自己表現をうまくすることができなくて集団に溶け込めないと感じる人は、結構多くいらっしゃると思います。そういう人にすごく共感を覚えたことがあったんです。
ただ、そういう人でも、ちょっとしたきっかけが与えられて自己表現をする機会があると、一気にその人の魅力が引き出されて、周囲の人に溶け込むことができるということもあるんですよね。
リトミックには「自己表現の方法を身に付けること」や、「感性を育てる」という効果も期待できます。できるだけ早い段階から、より多くの人がそういった教育を受けることが重要だと思ったので、幼児リトミック指導員という仕事に就きました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
「より広い視野を身に付けたい」と感じたので、音楽大学ではなく、芸術学部の音楽学科でピアノを専攻しました。
音楽を専門としている人だけではなく、美術もあれば写真や映画などを学んでいる人がいる場所に身を置くことで、それまでには無かったさまざまな刺激を受けることができたと思います。
大学時代に「アートセラピー(芸術療法)」に出会って、絵画や音楽などで人を癒すというのは、自分が高校生の時に考えていたことにも通じるなと感じました。
大学卒業後は、アートセラピーを専門にしている先生がいらっしゃる大学院に進んで、臨床心理学も学びました。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
はっきりとした夢は固まっていませんでした。高校生の時から、周囲の人と自分を比べて「私は演奏家になれないのでは」と葛藤していて、知らず知らずのうちに音楽で生きていく夢を諦めようとした時もありました。「学校の音楽の先生なのか、それともプレーヤーなのか」と考えていたように思いますね。
しかし、「心のよりどころとしての音楽」というものはずっと私自身の中にあったので、その想いは現在の仕事につながっていると思います。
自分自身のスタイルを持つことを大切に
Q7. どういう人が幼児リトミック指導員に向いていると思いますか?
講座の進め方などに対して、自分自身を客観視できる人が向いているかなと思います。
「リトミックを受けたら、子どもたちがすぐに大きく変わる」と思い過ぎないことも大切で、子どもたちに目に見える変化が表れていないからといって、すぐに「何か新しいものを提供しよう」とするのではなく、根気強くしっかりと自分のスタイルを持つことも大切だと思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
私は高校時代、「クラシックしか演奏してはいけない」と言われたり、「ピアノの練習時間が割かれるようなことはしてはいけない」とされていて、窮屈な思いをしていました。
でも、大学の芸術学部で出会った人たちは、ジャズやポップスなどを自由に楽しんでいる人が多かったですし、私にとってはそれが居心地がよかったんです。芸術学部に入ったことによって、多様な価値観を知ることができてよかったと思います。
高校生の方に伝えたいのは、「自分が大切にしているものを、誰かと比較してしまうことで諦めたりはしないでほしい」ということです。
私の場合ピアノがそうでしたが、自分より上の技術を持っている人はたくさんいると思います。人それぞれが持っている個性というのは、その人にしか出せない「味」でもあるので、そこに対してぶれないことを大切にしてほしいと思います。
笹岡さんがおっしゃっているように、自分より優れた能力や技術を持っている人は世の中にたくさんいます。ただ、それを理由にしてやりたいことを諦めてしまうのではなく、自分の個性や「味」を大切にして努力を積み重ねていけば、新しい何かが見つかることもあります。
進学先や将来の仕事を選ぶ際、この考え方は非常に参考になるものだと思います。音楽に関わる仕事は、ピアノやバイオリンなどの演奏家という道だけではないので、音楽を仕事にしたいと考えている人はいろいろと調べてみてはいかがでしょうか。
【profile】幼児リトミック指導員 笹岡富士子
この記事のテーマ
「保育・こども」を解説
乳幼児から小学生までのこどもの生活を保護し、心身の成長を促すための専門知識を身につけます。こどもの心身の発達や行動、保健・衛生、基本的な読み書きや情操教育、体操といった体力向上教育など、学びの分野は多岐にわたります。保育士の資格取得者の職場は保育園だけでなく、企業内の保育施設などにも広がりつつあります。
この記事で取り上げた
「幼児リトミック指導員」
はこんな仕事です
リトミックとは、スイスの作曲家が考案したリズム表現による音楽教育の方法。心で感じたことを身体で表現することで、幼児期において大切な心身のバランスをつくり出す。それにより豊かな感性が育まれ、表現力や集中力、運動能力を高めることにつながる。カルチャースクールや幼児教室が活躍の場となり、指導員はピアノを弾いたり、一緒に歌ったりして、身体でリズムを表現できるよう指導。公的な資格はないが、民間資格は複数ある。
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