【シゴトを知ろう】靴職人 〜番外編〜

「【シゴトを知ろう】靴職人 編」では、ハドソン靴店にお勤めの村上塁さんに靴職人のお仕事内容や魅力について伺いました。
今回は番外編として、靴職人として働いている中で感じる「あるある」や、靴職人の知られざる一面、これまでに達成感を感じたエピソードなどについてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 日本の靴職人の技術は海外からも認められている
- 靴修理と製造は別業界で、それぞれの業界の中で職人仕事が5~6種ぐらいに分かれている
- 職人は自分の腕一本で勝負していて誰のせいにもできないが、その分、成果も独り占めできる
日本の靴職人は常に向上心を忘れなかった
――靴作りの歴史は海外のほうが長いですが、日本の靴職人の技術は海外からも認められていると伺いました。日本の靴作りの技術はどんなところが優れていると思いますか?
いろいろな要素が絡まり合っているので一言で述べるのは難しいですが、日本の製靴技術を支えてきた先人達が常に向上心を忘れなかったということは確実にいえると思いますね。その想いを私たちが受け継いでいることが、日本の靴作り技術の根本にあるのではないでしょうか。
――お仕事とリンクする、休みの日にありがちな「あるある」があれば教えてください。
電車に乗っていると、対面で座っている人の足元を見てつい評価してしまうことはあります。やはり人が履いている靴のことが気になってしまいますね。
靴修理と製造、それぞれの業界の中でさらに細かく分かれている
――では、靴職人の意外と知られていない、このお仕事の知られざる事実やトリビアを教えてください。
靴修理業界と製造業界は別業界であり、製造業界においては、紳士靴・婦人靴・スニーカーはそれぞれの業界を形成しています。さらに、それぞれの業界の中で職人仕事が5~6種ぐらいに分かれています。要は分業制なのです。私も、もともとは紳士靴製造業界の底付師(そこづけし)というのが本職でした。
思い出深い、バレエダンサーの靴修理
――最後に、お仕事の中で、一番の思い出や達成感を感じたエピソードについて教えてください。
ある日、80歳を過ぎてなお現役で教えているバレエダンサーの方から、靴修理の依頼があり、その靴をお弟子さんの女性の方が持ってきてくださったことがありました。昔、その先生が浅草で同じ靴を100足ほど買ったらしいのですが、使えるものは残り数足。その数足もお世辞にもきれいな状態とはいえず、その数足がなくなったら引退を考えているということで、当店に修理依頼にきたのです。現存する数足のうちの一足を分解して、ヒールの中身だけを取り出し、それ以外を新しくしてほしいという修理内容でした。
靴の製造に携わっていなければピンとこないかもしれませんが、足を覆う部分を新調する場合、木型(靴の形をした木製のもの)がなければできないのです。その日から、木型なしで形を探る試行錯誤の日々が始まりました。そして、お渡しの日。履いた瞬間に先生の顔から笑みがこぼれました。これまでの努力がすべて報われたと思った瞬間でした。職人は自分の腕一本で勝負していて、誰のせいにもできません。だからこそ、成果も独り占め。私にとっては最高の天職ですね。
靴職人は、一人ひとりの足に合わせて一足ずつぴったりフィットするものを作らなければいけないので、相当な鍛錬が必要です。ただ、モノづくりが好きで「もっとお客様に喜んでほしい!」というサービス精神と向上心がある人にはぴったりの仕事。自分の腕一本で勝負する職人さん、かっこいいですね。
【profile】ハドソン靴店 村上塁さん
http://www.hudsonkutsuten.com/
この記事のテーマ
「ファッション」を解説
ファッションの専門知識や業界のビジネスノウハウを学び、感性やセンス、基礎技術を磨きます。作品の発表会や学外での職業実習などを通して職業人としての実践力を身につけるほか、資格取得を目指すカリキュラムもあります。仕事としては、素材づくりや縫製など「つくる仕事」と、PRや販売促進などファッションビジネスに関わる仕事に分かれます。
この記事で取り上げた
「靴職人」
はこんな仕事です
靴のデザイナーとは違い、ほぼ手作業で作り上げるのが靴職人の仕事。デザインスケッチ、製図、木型製作、素材のカット、縫製までの工程を一人でこなす。オーダーメードシューズの場合は注文者の足の採寸も重要。デザインの美しさや独自性、フィット感、丈夫さがハンドメードシューズの魅力だ。ファッション、靴の装飾・構造を理解し、堅実な作業をする職人気質が尊ばれる。靴作りの本場ヨーロッパに留学し、本格的なスキルを学んだ職人も多いが、日本にも革靴の製作が学べるコースを設けている専門学校が複数ある。