【シゴトを知ろう】積算 編
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建築業界にはさまざまな職種がありますが、その中に「積算」という職種があることをご存じですか? 建物をつくるには予算があり、その予算の中で設計図と仕様を実現させ、クオリティの高い工事を実現させなければいけません。すべてを把握した上で、バランスをとり、それぞれに必要な費用を推定、算出する仕事が「積算」になります。
今回は、スタイル工房で積算(※1)を行っている竹原さんに、積算のお仕事について詳しく伺いました!
この記事をまとめると
- 積算は、チームを支える影の立役者
- 積算には、チームの橋渡し役ができるバランス感覚が必要
- 積算になりたい人は、いろいろな知識やデータに触れて吸収することが大切
積算は、チームのバランスを図る「橋渡し」役
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
私が所属するスタイル工房は、主に一般のお客様の住宅リノベーション(※2)を手掛けています。私はその中で積算職として携わっております。お客様にお話を伺う中で、プランナーがそのご要望を基にリノベーションのプランを立て、それに対してどのくらいの金額が工事にかかるのかを見積もっています。
見積りの作成は、お客様のお宅に訪問し、現在のお家の劣化度や下地がどのように組み込まれているかなどの状況を読み込むところから始めます。また、見積もりを計算するために必要な商材を選定をしたり、使用している商材の仕入れ値を交渉したりする「購買」という仕事も行っています。
リフォーム業界では、営業が積算を兼務している場合が多いので、積算が独立している会社は珍しいと思います。積算という職を独立させることは、プランナーの自由な発想につながり、また商材の管理や個々の値段設定などデータ構築がしやすいという面もあると思います。
<ある一日のスケジュール>
09:00 出社。メール確認など
10:00 現場調査
12:00 昼食
13:00 メーカーと打ち合わせ
15:00 積算業務
19:00 社内マニュアル作成、価格表更新作業
21:00 退社
※1 一般的な建設業の積算とリノベーションの積算では、営業的な感覚、見えないものの予測値が必要になるなど、仕事を取り組む上でのスタンスが少し異なります。
※2 既存の建物に大規模な改修工事を行い、性能向上や付加価値を与えること。
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
お客様の予算もある中でプランを完成に導くため、積算のほうで「こういう商材を入れれば、予算を抑えられますよ」「こういう工事の方法で予算をおさえましょう」などと提案し、プランナーと相談します。ときには、「プランはこのぐらいにしておいたほうがいいのでは」という提案をすることもあります。
そのようにして、頭の中で家を一軒建てるようなイメージで組み立てることによって、影のプランナー、影の現場管理人として、表に出ている人を支えるというのが積算のやりがいだと思います。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
住宅リノベーションというのは、新築と違い、元からある家や、中古で購入した家を新たに改築するので、そこに住まわれる方の「好き」をカタチにしたいという要望があります。お客様の要望や、それに使用する商材は山ほどあるので、それに対する積算の正解の値段というものはありません。
また、中古物件というのはどうしても壊してみないと分からない部分もあります。例えば、工事を開始して、壁を剥がしてみると、柱がほとんどシロアリに食われてしまっていることがありました。その補修が発生したために、契約時の値段より高くなってしまったことがあります。それは、仕方のないことなのですが、お客様も契約時の金額でご納得されていますので、私も急に予算が増えてしまうのは不本意なことで、お客様にそのような思いをさせてしまうのは大変辛いです。
そのような現場である可能性が高い場合は、現場を読み込み、お客様に「もしかしたら金額があがる場合があります」と先に提示しておくようにしています。お金の面でも、お客様の納得と信頼をいただき、不安を取り除くことが積算の仕事だと思っています。
さまざまなデータを吸収し、体系化する仕事
Q4. どのようなきっかけ・経緯で積算に就きましたか?
祖父と父が建築関連の仕事をしていたので、ぼんやりとですが、建築に関わる仕事がしたいなと思っていました。また、自分の部屋の模様替えをするのが好きだったこともあり、そのようなきっかけで建築に興味を持ち、大学進学を考える際、建築学科のある学校を目指しました。
大学を卒業してからは、店舗の設計を主にしている事務所に就職し、現場管理をしていました。当時、店舗と住宅のデザインは別の物という考えが主流でしたが、店舗デザインで培ったものを住宅に写し込んだらどんな家になるだろうと思うようになり、住宅業界に入りました。
スタイル工房には、現場管理で入ったのですが、積算の人手が足りておらず、そちらに異動になったところ、積算の仕事が私の性格に大変合っていました。スタイル工房には営業担当がいないので積算は周りのバランスをとることが大事な仕事です。私にはそれが大変楽しく感じられました。
Q5. 大学では何を学びましたか?
大学では、都市建築デザイン学科に進み、個である建物の集合としての「街」や「都市」に関してのデザインであったり、発展性、文化、住まい方であったりなどを勉強していました。就職する際、都市デザインを生業にしている会社の選択肢が少なかったので、店舗デザインの会社に就いたのですが、現在の仕事をしていて思うのは、都市における家は、周囲とのつながりという意味で、都市デザインと重なる部分があると思います。住宅づくりは、建物一軒で終わるものではなく、隣に住んでいる方であったり、その地域の条例であったり、接道条件、近くのロケーション、隣に家が建っているから採光はどのようにするか、川への景観を大切にするためのプランはどうすればいいかなどを考えなければいけません。そういう意味でも、大学で学んだことが今にも生かされていると思います。住宅建築については、就職してから学びました。
積算の仕事はデータの積み重ねから、根拠を自分でつくり出していくので、積算職に就いてからは、勉強というより、常にいろいろなデータの情報を収集して体系化しています。「どういう根拠でこの原価になっているのか」とプランナーに聞かれても、「これは高くないのか」とお客様に聞かれても、説明して納得していただくために必要な作業なのです。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
自分の部屋の模様替えをするのが好きだったので、最初はインテリアコーディネーターになりたいと思っていました。人を家に呼ぶことも多かったので、そこにいて楽しい空間や過ごしやすい空間を、高校時代から考えていました。住まいの空間に関わりたいという当時の想いは、今の積算の仕事へつながっていると思います。
積算はいろいろな立場を考えてバランスをとる役目
Q7. どういう人が積算に向いていると思いますか?
お客様と契約につなげたいプランナーは会社のために金額を考えなければいけませんが、実際に現場に出る工事部は職人さんにお支払いする金額を考えなければいけません。積算はどちらに隔たることもない、バランスのとれた見積もりをつくらなければいけません。そのためにお客様のこと、物件のこと、プランナーのこと、現場のこと、いろいろな立場を考えて、どこに偏ることもないバランス感覚を持っていることが重要です。
ですので、それぞれの立場の橋渡しをできるような人が向いていると思います。積算は、外に出て行く仕事ではないので、コミュニケーション能力が必要ないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、社内でのコミュニケーション能力も求められる仕事です。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
仕事内容が大変想像しにくい仕事だと思います。積算がやっていることは、経験とデータの蓄積によって金額を出していく仕事です。現場や施工、設計の知識など建築に関わる知識を学ぶのはもちろんですが、法律や建築の歴史、トレンドなど、多岐にわたる知識を取り入れ、吸収していくことが必要です。
また、普段の生活の何気ない知識が金額算出に反映されていることもあります。そういったことから、いろいろなことに興味を持って吸収し、自分の中に取り込んで体系化する必要があると思います。アンティークショップを巡ってみて、例えば「アンティークのドアノブはだいたいこのぐらいの値段かな」ということが頭の中にあれば、お客様がアンティークのドアノブをつけたいというご要望をされたとき、だいたいこのぐらいの予算を考えておきましょうと提案することができます。積算に興味を持たれた人は、普段からさまざまなことにアンテナを張り、いろいろな知識やデータに触れてみてください。
竹原さんのお話から、積算はどこにも偏ることのないバランスのとれた見積りを作成することで、社内の各セクションやお客様などが納得して施工に進めるようにするお仕事だということが分かりました。日々いろいろなことにアンテナを張って、その知識と情報をデータ化し、体系化されているからこそ、バランスのとれた見積りを作成することができるのですね。
積算に興味を持った人は、いろいろなお店を巡り、それぞれの商品がだいたいどのくらいの値段で売られているのかに注目してみると、おもしろいかもしれませんね。
【profile】株式会社スタイル工房 積算・商材担当 竹原義晃
この記事のテーマ
「建築・土木・インテリア」を解説
建築や土木に関する技術を中心に学ぶ分野と、インテリアコーディネイトなどデザインを中心に学ぶ分野の2つに大きく分かれます。資格取得のために学ぶことは、建築やインテリアの設計やプランニングに必要な専門知識、CADの使い方などが中心です。どちらの分野も依頼主の要望を具体化できる幅広い知識とコミュニケーション能力も求められます。
この記事で取り上げた
「積算」
はこんな仕事です
建築工事や土木工事を完成させるために必要な費用を推定・算出する仕事。施工に先立って設計図と仕様書を読み込み、その工事を行うための全体的なプロセスを把握した上で、施工に必要なコストを計算する。工事のクオリティーと、そのためにかかるコストとのバランスを図る役割を果たす。建設会社に勤務することが一般的で、仕事はデスクワークが中心。積算業務を外部に発注する会社も多いため、実務経験を積むことで将来的には独立開業することもできる。
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