【シゴトを知ろう】麻薬取締官 ~番外編~

テレビなどで耳にする麻薬取締官という仕事。この麻薬取締官は、警察官とは別組織だということを知っていますか? 今回は知られざる麻薬取締官の世界について、麻薬取締官のAさんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 麻薬取締官は警察とは別組織
- 仲間とのチームワークと信頼関係が大事
- 文武両道に加え、コミュニケーション能力も必要
麻薬取締官は警察とは別組織
――麻薬取締部がこのようなオフィスビルの一角にあるとは驚きです。麻薬取締部は警察の組織ではないのですね。
知らない方は意外に思われますよね。この建物の中には被疑者を取り調べする取り調べ室なども備えています。
麻薬取締官は厚生労働省に所属しています。警察と大きく違うのは、麻薬取締部は薬物全般を専門としている点です。
実は違法薬物にかかわる捜査は重要な活動の一つですが、国内に流通している麻薬は、医療で使われる正規の麻薬の方が圧倒的に多いのです。現在私の所属している「調査総務課」では、主に医療用麻薬の監督や指導を行っています。海外から持ち込まれる痛み止めなどを目的とした医療用麻薬の国内持ち込みの手続、認可も仕事に含まれます。今後は今より更に多くの外国人が日本へ来ることになると思います。旅行者が医療用として薬物を日本に持ち込むことも増え、認可作業が激増することが見込まれるので、今から気がかりですね。
コンパクトでフレキシブルな麻薬取締官の捜査
――捜査活動の上でも警察とは違った動きをされているのですか?
大型犯罪においては、大型取締部が設置され、警視庁、海上保安庁、税関、麻薬取締部が連携して捜査に当たっています。それ以外にも、情報共有や応援など、警察との協力関係はあります。大きく違うのは、警察官は地方公務員であり、麻薬取締官は国家公務員であること。また、巨大組織である警察に比べて、麻薬取締部の組織は全国で300名弱と、規模が小さい点でしょうか。
地方をまたいだ犯罪の場合、警察官は県外に出るために煩雑な手続きが必要となりますが、私たちは全国どこでもさっと行ってしまえる。麻薬取締部の捜査は、コンパクトさとそれゆえの柔軟さが強みだと思います。
他には、麻薬取締官は、大元の犯罪組織を取り押さえるための「泳がせ捜査」もします。私も運び屋になりすまして、薬物の受け渡しをしたことがあります。
私のような若い女性だと、まず怪しまれないので、尾行するにもいいのです。最近出産した同僚は、「赤ちゃんを抱っこしていたら尾行してもばれない」と言っていましたよ(笑)。
――皆さんチームワークが良さそうですね。
そうですね。張り込みの時などは特に、ずっと一緒にいますから。仕事上、チームワークは大事ですし、一人前になるまでに時間がかかる仕事なので、先輩から教わったり、悩みを相談したりすることは多いです。
また、この仕事は守秘義務があるため、進行中の仕事の詳細については、家族といえども話せません。ですから余計に何でも同僚に話すことになります。
もちろん仲がいいと言っても指揮系統がしっかりしていないと良くないので、けじめはしっかりあります。
――生活の大半を仕事に捧げていて、本当にすごいです。
自宅への帰り道、つい近所の家のガスメーターのチェックをしてしまったり、引っ越しの部屋探しでも、別にやましいことは何もなくても他の場所から見えにくい場所をつい選んだり……もう職業病ですね(笑)。
たまに長い休みが取れた時は、友だちと旅行に行くのが楽しみです。
さまざまな能力が必要とされる麻薬取締官
――薬剤師免許が必要というのも驚きました。
もしくは国家公務員一般職合格でも構いません。ただし、薬物鑑定を行う鑑定課については薬剤師免許が必須です。
薬事法など、法律がたびたび改正されることにも対応していかねばならないので、薬物に対しての知識と、継続的な勉強も必要となってきます。
――本当にさまざまな能力が必要とされる仕事ですね。
そうですね。他には、逮捕後、長時間に渡って被疑者の取り調べがありますね。勾留期間は10日以上、長い時には2〜3ヶ月に及ぶときもあります。その間毎日、朝から夕方まで取り調べが続きます。こうした際のコミュニケーション能力も重要です。例えば単に高圧的なばかりでは、被疑者から話を引き出すことはできません。ある種の信頼関係のようなものが必要になってきます。
肉体的にも精神的にも過酷で、プレッシャーも大きい仕事であろうと思うのですが、どこか楽しそうに仕事のことを語ってくださったAさん。大変さの裏に大きなやりがいがあるのだろうと感じられました。
【profile】
厚生労働省 関東信越厚生局麻薬取締部
厚生労働省 関東信越厚生局麻薬取締部ウェブ
※メインの画像はイメージです
この記事のテーマ
「公務員・政治・法律」を解説
公務員は、国や地方自治体の行政に携わり、よりよい地域、町づくりを支える仕事です。政治に関しては政党の活動を支える政党職員、法律では弁護士や検察官などの仕事もあります。これらの仕事に就くには、公務員採用試験、司法試験など関連する資格を取得し、官公庁や行政機関の採用試験を通過することが必要です。
この記事で取り上げた
「麻薬取締官」
はこんな仕事です
麻薬犯罪の取り締まり業務に就く特別司法警察職員。国家公務員試験の一般職か「薬剤師」の資格が必要。地方厚生局などに勤務し、覚せい剤やアヘン、各種ドラッグの取り締まり、中毒者によって起きた事件捜査、摘発などを行う。入手経路、流通の背景も捜査するため、おとり捜査が認められている。税関や海上保安庁とも協力し、密輸薬物の押収も手掛ける。社会の秩序を守る重要な仕事だが、危険が伴うために逮捕術や射撃訓練が必須。麻薬および法律上の知識に加え、組織犯罪に立ち向かうチームワークと明晰さが欠かせない。