【シゴトを知ろう】味噌職人 編
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毎日のように食卓に上がり、口にしている人も多い「味噌汁」。味噌は日本人にとって欠かせない調味料の一つです。無添加・天然醸造製法で味噌を手作りされている「有限会社 井上糀店」の5代目・井上千重(ちえ)さんに、味噌職人のお仕事について聞いてみました。
この記事をまとめると
- 味噌の仕込みは2日がかり! 前日夕方から準備して、当日は早朝から作業を行う
- 子どもに何を食べさせるべきか考えたとき、守るべき家業があった
- 仕事を楽しもう! そのためには、「やりたいことをやる」のが一番
味噌作りで失敗したとしても、それが何かを教えてくれる
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
味噌や糀(こうじ)の製造、販売をしています。味噌作りは、スペースの関係もあって毎日行うわけではありません。糀の仕込みのほか糀のパッケージ作業、味噌のパッケージ作業など、作業は日によって異なります。
味噌を作る日は、前日の夕方に大豆を洗い、水に浸しておくという仕込み作業をします。実際に味噌作りを行う日は、3回分の作業を行います。仕込んだ味噌は半年ほど熟成させ、出荷していきます。
<一日のスケジュール>
04:00 1回目の大豆を火にかける
08:00 1回目の大豆を火から上げ、2回目の大豆を火にかける
09:00 火から上げた1回目の大豆をつぶし、糀と塩を混ぜ、容器へ仕込む
13:00 2回目の大豆を火から上げ、3回目の大豆を火にかける
14:00 火から上げた2回目の大豆をつぶし、糀と塩を混ぜ、容器へ仕込む
17:00 火から上げた3回目の大豆をつぶし、糀と塩を混ぜ、容器へ仕込む
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
いい大豆が入った、いいお米が入ったというときはうれしいですし、糀がフワフワにできた瞬間もうれしく、やりがいを感じます。
うちで作った味噌を食べた人に「こんなにおいしい味噌があるなんて!」と喜んでいただいたり、「自分でも味噌作りをやってみたい」と興味を持っていただけたときには、やっていてよかったなと思いますね。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
仕事をする上での悩みや大変さというのは基本的に感じません。失敗しなくては分からないと思いますし、失敗することがすべて教えてくれると感じています。
私の場合もし大変なことがあるとすれば、男の人とは違う部分ですね。家庭があって、さらに味噌・糀職人としての仕事もあるということです。
一つ伝えていきたいなと思うのは、仕事には「大変」とか「辛いもの」が伴うというイメージもあるとは思いますが、仕事をすることは「楽しい」ですし、「楽しいこと」を仕事にしてもよいということですかね。
味噌作りはすべて口伝え。「糀の気持ち」が分かるまでには時間が必要
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
元々私の家では明治の初頭ぐらいまで、造り酒屋をしていました。昔は各家庭で味噌を作るのが当然だったので糀の需要が多く、造り酒屋から糀の店へと変化していったようです。
しかし、戦後になると、味噌は徐々に「作るもの」ではなく「買うもの」になっていったので、先代である父が、糀作りから味噌作りへと方向転換をしました。
私は「井上糀店」の長女として生まれ、家業の手伝いもしてきました。実家で作った無農薬野菜を食べ、無添加・天然醸造の味噌を食べていた私自身も、結婚して子供が生まれたことでスーパーの味噌や野菜を買ったりもしたのですが、「うちで食べていたものと全然違う」と感じたことが一つのきっかけですね。
添加物などを使わない、本当の味噌の味を絶やしてはいけないという使命を感じたので、5代目として「井上糀店」を継ぎました。
Q5. 味噌職人になるために、どのような勉強をされましたか?
学校があって教えてくれるわけではないので、私の場合は糀の作り方も味噌の作り方も全て父から口づてに教えられました。多くの職人の仕事でいえることだと思いますが、昔ながらの作り方の方法って、全部口伝えなんです。
「糀の気持ち」が分かるようになるまでは時間がかかるので、長年やっていないと分からないんですよね。湿度や気温などでもコンディションが大きく変わるので、糀との付き合いは「子育てみたいなもの」かなと思います。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
小さい頃になりたかったのは写真家。ピアニストになりたかった時代もありました。そこから今の仕事にはつながっていませんね。
当然の環境として家業としての「糀作り」「味噌作り」というものがあって、そこに携わるということは自然な流れだったなと思っています。
味噌や糀は正直なもの。それと向き合う人にも正直さが求められる
Q7. どういう人が味噌職人に向いていると思いますか?
味噌や糀というのは、作り手の想いや手の掛け方に正直に反応するものです。本当に正直なものと向き合わなくてはならないので、「正直な人」「まじめな人」「ごまかさない人」が向いていると思います。それを止めてしまったら、本当にいい味噌もいい糀も作ることはできません。
あとは、自分のスピード感で仕事をしたいという人にも向くと思います。うちの場合にはのんびり、ゆっくりというタイプの人が多いです。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
自分に正直に無理をせず、「やりたいことをやる」というのが一番かなと思います。
大学や専門学校が決まっていないのであれば、「自分がどうしたら楽しく生きることができるか?」ということを考えてみてください。そういうものがきっと全部身になっていくものだと思います。
「仕事を楽しむ」というのを私は主義にしているので、「楽しくなかったら、なぜ楽しくないのか?」を考えるようにしています。
「これ嫌だな」って思いながら勉強をしても頭に入らないと思うし、一度そう思ってしまうとそれがトラウマのようになってしまうこともあると思うんです。
「今したい」と思えることがあるのなら、それを大切にしてほしいですね。「やりたいこと」が見つかる時期にも個人差はあると思います。それがもしかすると40歳になってからかもしれない……。それでもいいと思います。
「仕事は楽しいこと」と語ってくれた井上さん。その言葉の通り、お仕事について話されているときは常に笑顔であることが印象的でした。
やりたいことが見つからなければ、「どうしたら楽しく生きることができるか?」を考えてほしいというアドバイスのように、自分が楽しいと感じられることを仕事にするという将来について、考えてみてはいかがでしょうか?
【profile】有限会社 井上糀店 店主 井上千重(ちえ)
手作り味噌と糀の専門店「井上糀店」 http://www.komemiso.com/
この記事のテーマ
「食・栄養・調理・製菓」を解説
料理や菓子などの調理技術を生かしてサービスを提供したり、栄養に関する知識を生かして豊かな食生活を提供したりする仕事です。栄養に関する知識はもちろん、メニュー開発や盛りつけ、店のコーディネートに関するアイデアやセンス、食材や飲料に関する幅広い知識も求められます。
この記事で取り上げた
「味噌職人」
はこんな仕事です
みそ汁などに使われる調味料、みそを造るのが仕事。主な原料は米、大豆、麦と3種類あり、それぞれ製法も異なる。仕込みにこうじと塩を混ぜ、発酵・熟成させる工程の一つひとつが仕上がりを決定付けるため、気配りや熟練の勘を要する。一人でやる作業ではなく、職人同士が協力し合う分業体制のため、協調性やコミュニケーション能力も求められる。働き先としては、機械化された製造を管理するメーカーや、素材と向き合い手造りにこだわる蔵元などが一般的だ。