【シゴトを知ろう】コレペティトゥア 編

オペラの新しい公演に向けて、オペラ歌手に曲を教える講師として、ピアノの伴奏はもちろん、発声、発音、演技と多岐に渡って指導をするコレペティトゥア。日本にも数人しかいないというこのお仕事について、コレペティトゥアの寺元智恵さんにお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 勉強することは多いが、好奇心を持って学ぶとすごく楽しい
- 海外に行って、自分の目や耳で見聞きすることの重要さを知った
- 夢と情熱を持ってチャレンジし、自分のできることを見極めることが大事
誰よりも曲を理解していなければいけない
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
オペラの練習の時に毎回、オーケストラをバックに練習するわけにはいかないので、ピアノで伴奏をして、音程や発声、発音、アンサンブルなど、曲をどう作り上げていくかを指導するお仕事です。指導する立場なので内容から文化、歴史的な背景も含めて、誰よりも曲を理解していなければいけなくて、勉強することは多いので、そこはすごく大変ですね。空いた時間にピアノや譜読み、語学の勉強やオペラの文化や歴史といった背景を学んだり、分析したりしています。あとは講師として音大でオペラを教えたり、外国人の先生がいるので通訳をしながら伴奏もしています。
<一日のスケジュール>
9:00 練習・譜読み
12:00 大学の授業
19:00 外国人オペラ歌手指導によるレッスンの通訳、伴奏
22:00 帰宅
23:00 練習・譜読み
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
ピアノ伴奏者という仕事柄、さまざまな演奏者とお仕事をする機会が多く、同じ曲でも演奏者によって解釈が違ったり、毎回新たな発見があるのがおもしろいですね。曲の背景や歴史を勉強するのも大変ですけど、すごくやりがいを感じます。高校の時は、世界史が苦手でしたが、オペラの歴史に関しては興味があるからもっと知りたいと思うし、その時代に活躍した人や、当時の服装を調べていくことで、楽しいと思うようになりました。語学も「勉強しなきゃ」と考えると苦になるけど、例えば、「フランス語で書かれたこの曲はどういうことを意図してるんだろう?」と興味や好奇心を持って勉強していると、自分の世界がどんどん広がっていくのが分かって、すごく楽しいです。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
歌い手の体調や喉の調子でコンサート直前に曲目を変えられることもあるのですが、そんな時も慌てずに対応しなければいけないのは大変ですね。メキシコで女性の歌手とツアーに同行した時、メキシコのフアン・ガブリエルという有名な歌手が亡くなったというニュースが入ったんです。「追悼の意を表して、彼の歌を歌いたい」と言われたんですが、その時私は曲も知りませんでした。それを言われたのは2日前のこと。そこからインターネットで楽譜を探して、アレンジして、車の中でも練習して……。すごく大変でしたけど、その曲を披露したらお客さんにもすごく喜ばれて、頑張った甲斐があったなと思いました。
ウィーンに留学している時は毎日オペラを観ていた
Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
元々は音大の声楽科で歌を専攻していて、オペラにも出ていました。その時に自分で勉強するだけでは限界を感じ、誰かがピアノを弾いて指導してくれたらいいなと思っていました。性格的にもあまり前に出るタイプではなかったので、自分が指導者になることを考えたんです。
お仕事自体は18歳の頃、あるコンサートでピアノを弾いてらした方がすごく輝いて見えて、その方のプロフィールに「コレペティトゥア」と書いてあったことから知りました。その後職業に憧れてはいたものの、外国語を勉強したり、多くのことを勉強しなくてはいけないので、私には無理だと思って諦めていたんですが、ウィーン留学中に「やっぱり、コレペティトゥアになりたい!」と思い、イタリアへ渡って勉強しながら恩師や知人の紹介で合唱団の伴奏をしたり、コンサートなどで演奏するお仕事の機会を頂いて、今のお仕事をするようになったんです。
Q5.大学では何を学びましたか?
日本の音大時代は声楽科だったので、オペラの授業があり、卒業公演に向けて演技をしながら歌ったり、どのように舞台上で動くかを学んだりしました。大学を卒業した後、ピアノ講師などをしながらコンサートやオペラに出演していたのですが、やはり外国で勉強したい気持ちが強くあって、当時習ってた歌の先生に相談したんです。すると、「毎日どこかの劇場で一流の歌手や演奏家が演奏しているので、音楽を学ぶには最高の環境である」とウィーンへの留学を薦められました。
ウィーンに留学している時も声楽科専攻で、オペラや声楽の勉強を主にしていました。毎日、国立歌劇場の立ち見席でオペラを観ていましたね。ウィーンではオペラも立ち見だと350円くらいで見ることができるんです。でも、立ち見の桟敷席ってすごく音がよくて、歌い手さんが本当に上手なのかを一番聞き分けられる席だったり、常連の人の感想も盗み聞きしたりもできるんです。すごくいい経験だったし、勉強になりました。毎日、超一流の演奏を生で聴く経験をしたことで、耳も鍛えられたと思います。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
母親がピアノ講師をやっていたこともあって、高校生の頃は「ピアノ講師になりたい」と漠然と思っていました。子どもの頃から母親にピアノを習っていたんですけど、一度辞めて、小5からまたピアノを始めました。練習を再開した頃は周りの人が私より上手なのが悔しくて、一生懸命練習しましたね。
音楽以外では地理が好きで海外への憧れもあって、「アメリカに行きたいな」と漠然と思っていましたが、今では演奏旅行としてメキシコやアメリカへ行く機会を頂いています。実際に海外に行くと、いろんな人に出会ったり、いろんな価値観を知って、カルチャーショックの連続です。紙の上やインターネット上ではなく、実際に自分の目で見ることの大事さを改めて知りましたね。
好奇心を持っていろんな経験をして、可能性を広げて欲しい
Q7. どういう人がこの仕事に向いていると思いますか?
音楽だけでなく、言語、文化、歴史などさまざまなことも学ばなければならないので、好奇心旺盛な人が向いていると思います。あと、歌い手方や指揮者の方とオペラを作っていく時も、大変で投げ出したくたくなることもあるし、長時間勉強しなければいけない時もあるので、忍耐力や根性も必要ですね。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
芸術、音楽だけで生活できるのは一握りの人だというのが現実です。音楽を職業にすることが年々難しくなっているのも感じます。私が今、仕事がもらえてるのは運がよかったと思っているんですが、「絶対に音楽を仕事にするぞ!」と夢と情熱を持ってチャレンジしていくこと、その中で自分に何ができるかを見極めていくことは重要だと思います。私もオペラ歌手になりたいと思ってたんですが、ピアノの伴奏者の方が向いてると自己分析してシフトチェンジしたから、今も音楽のお仕事ができてると思っています。それが挫折だとも思っていないし、ここまでの道のりも回り道に思うかもしれないけど、絶対に必要だったと思うし。旅に出たり、違う文化の人と会話をしたり、いろんな経験をして、その中から自分に必要な物をかしこく選択して。どんどん可能性を広げてほしいと思います。
「音楽を職業にする」という夢に向かって進んでいく中で、自分に最も向いている職種を探し、コレペティトゥアというお仕事にたどり着いた寺元さん。「これまで学んできたことや、さまざまな経験の全てが現在のお仕事に生かされています」と語り、現在も勉強の日々なのだそうです。みなさんも自分自身を分析し、「何が向いているのか」考えてみてはどうでしょうか。
【profile】コレペティトゥア 寺元智恵
この記事のテーマ
「音楽・イベント」を解説
エンターテイメントを作り出すため、職種に応じた専門知識や技術を学び、作品制作や企画立案のスキル、表現力を磨きます。音楽制作では、作詞・作曲・編曲などの楽曲づくりのほか、レコーディングやライブでの音響機器の操作を学びます。舞台制作では、演劇やダンスなどの演出のほか、舞台装置の使い方を学びます。楽器の製作・修理もこの分野です。
この記事で取り上げた
「コレペティトゥア」
はこんな仕事です
オペラ歌手と1対1になり、新しい公演のための曲を教える教師役になる人を指す。ピアノの伴奏はもちろん、発声、発音、演技など指導の内容は多岐にわたる。公演中も、舞台に置かれたボックスからオペラ歌手へ舞台に入るタイミングを指示するなどの役目も。ピアノの実力だけでなく、指揮者とのレッスンではあらかじめ指揮者の意向を聞いておき、歌手に伝えるなどの伝達能力も必要である。日本ではよりよい公演に向けて、その都度関係者から依頼を受けることが多い。職業として認知度が高まりつつあり、オペラ公演の増加とともに必要性も増している。