【シゴトを知ろう】林業系研究・技術者 編

家具や紙の材料としてはもちろん、建築素材や燃料の材料としても使われている木材。私たちの暮らしには欠かせない存在ですが、豊かな森林を保つには計画的な伐採と植林が欠かせないのだそう。住友林業株式会社で社有林の管理を担当する田上さんに、日々のお仕事について聞いてみました。
この記事をまとめると
- 豊かな森林を絶やさないように、伐採や植林を計画する仕事
- 子どものとき好きだった山歩きが今の仕事につながった
- 世の中にある仕事に興味を持ち、調べてみることが大事
豊かな森林を保つには、綿密な計画が必要不可欠
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
住友林業が保有している社有林の管理が主な仕事です。具体的には、社有林木を伐採して植えるまでの計画を立てていますね。
私が所属している紋別山林事業所では、1万5000ヘクタールほどの社有林を管理しているのですが、その中のどこを切って、どこに植えるかを考えたりしています。
年間でどの場所を切っていくかを、年初の予算作成時に計画し、そのスケジュールに沿って伐採を進められるよう、実際に森に行って現場監督もしています。
<一日のスケジュール>
8:00 出社
午前中 山林現場にて現場作業の進捗確認・監督業務
12:00 昼食
午後 山林現場にて事業実施予定地の森林調査
18:00 帰宅
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
自然の中にいること自体が好きなので、社有林でいろいろな種類の木々を眺めたり、観察したりすることや、しっかり成長しているのを確認できるとうれしいですね。
紋別の社有林には、針葉樹のカラマツやトドマツのほか、広葉樹も生えています。
木の種類は、その木が育ちやすい場所にもよりますが土地の傾斜・向き、地質などの違いによって適切な種類が変わってきます。植物ならみんな太陽の光に当たるのが好きかといえばそんなことはなくて、あまり直射日光に当たるのが好きじゃない木もあります。
「この樹種なら南向きの斜面がいいな」など、それぞれの木についてしっかり考えないといけないんです。だから、一つのエリアでも場所によって違う木が生えていることが普通です。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
長期的な計画のもと、「木を植え、育て、切ってまた植える」ことを繰り返し、循環させることはやはり大変ですが、大切なことです。
木は植えてから十分に育つまでに、長い年月がかかります。北海道だと、大体50年から60年くらい。無計画に伐採してしまうと、山に木がなくなってしまうことにもなりかねません。
だから木が1年間にどのくらい成長するかという成長量をはかって、その成長分のみを伐採するということがとても大切になるんです。その精度を少しでも上げるために、毎日のように調査をしています。実際に山に行って木の長さや高さを測ったりもしていますね。
事情によってある部分の森林をすべて伐採する(皆伐)場合にも、禿げた状態にならないように必ず植林するようにしています。
木を育てるときは、60センチくらいになるまでは「苗畑(なえはた)」という苗を育てるための畑で育てて、そのあと山に持っていって植林します。大体種から1年から3年くらいは畑に植えて育てないと、十分な苗にはなりません。
子どものころの山歩きが今の仕事に就くきっかけに
Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
実家が農家だったこともあって小さなころから自然は身近にあったので、今の仕事を選んだのはその流れもあります。遊びと言えば、山に登ってタケノコ採り。実家がタケノコを売ったりもしていたので、お手伝いがてら山歩きをしていました。
「山ってたのしい場所だな」という、自然に対する好意的な感情はそのころに生まれたのかもしれません。職種選択で「自分ってどんなことが向いているんだろう」「どんなことが好きなんだろう」と考えたとき、ふと自然に対する好意を思い出したりもしていました。
Q5. 大学・専門などでは何を学びましたか?
大学では本当に、森林に関するありとあらゆることを学びました。1本の木を植えてから収穫するまでどういったことをしないといけないということから、土砂流出の防止など、森林が持つ力についても勉強しましたね。
葉っぱを見て何の木か当てるような授業もありました。おかげで今は、メジャーなものなら葉っぱや樹皮などを見れば大体種類が分かります(笑)。
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
高校生のころは就職先までは意識していなかったけれど、「デスクワークでじっとしているよりは、アクティブに動きまわっていられる仕事がいいな」とは漠然と考えていました。
高校のクラスが理系だったので、大きく分けると機械をいじるのと、自然にかかわることじゃないですか。そのどっちがいいかと考えたときに、私は自然のほうに行きたいなと思ったんです。そうしているうちに農学関係の学問の情報に触れ、森林科学という分野があることを知って興味を持ちました。
世の中にある仕事に興味をもつといい進路選択ができる
Q7. どういう人がその仕事に向いていると思いますか?
やっぱり森林や動物などの自然が好きな人には楽しいと思います。あとは私のように、じっとしているよりは動き回っていたい人には向いているかもしれませんね。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
高校生のときってイメージできる仕事が少ないのが当然。だから、自分から積極的に情報を仕入れて、世の中にどんな仕事があるのか知っておくほうがいいと思います。
私も社会に出てはじめて、「こんなにすごい数の仕事があるんだ」と驚きました。そういうのを大学の進路選択のときに深く知っていれば、より自分に合った道を選べると思います。まずは自分が興味を持てる仕事からでもいいので、その分野ではどんな会社があって、そこではどんな仕事をしているのか、調べてみるといいですよ。
子どものころの山歩きが自然関連の学問への興味や大学の学部選択、就職先の選択にまでつながったという田上さん。迷ったら、小さなころに好きだったことを思い出してみるのもいいかもしれませんね。大学の農学部には、田上さんも学んだという森林科学を学べるコースもたくさんあります。気になったら、詳しく調べてみてはいかがでしょうか。
【profile】
住友林業株式会社
資源環境本部 山林部 紋別山林事業所
田上 誠
この記事のテーマ
「動物・植物」を解説
ペットなど動物や観賞用の植物に関わり暮らしに潤いを提供する分野、食の供給や環境保全を担う農業・林業・水産業などの分野があります。動物や植物の生態や生育に関する専門知識を身につけ、飼育や栽培など希望する職種に必要な技術を磨きます。盲導犬や警察犬、競走馬、サーカスの猛獣などの調教・訓練や水族館や動物園で働く選択肢もあります。
この記事で取り上げた
「林業系研究・技術者」
はこんな仕事です
森林資源の維持・管理と環境問題の研究などをする仕事。森林伐採や治山事業の失敗による環境破壊を防ぐため、森林経営、林道・森林の造成、木材の加工・伐採・活用など幅広い視点から森林保護を計画する。研究者は主に大学や研究機関で、森林や樹木、環境全体について考察。一方、技術者は民間の林業会社などに所属し、豊かな自然を保つ計画的な植え付け、枝打ちなどを作業者に指導・監督する。森林環境を再生可能な資源として守り育てる、「森林育成のスペシャリスト」ともいわれている。
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